February 13, 2019 / 2:53 AM / 9 days ago

コラム:円相場に下方圧力、国際収支のフローを読み解く=佐々木融氏

[東京 13日] - 日本の財務省が8日発表した2018年の国際収支は、貿易黒字の減少を第1次所得収支の黒字額増加が補い、高水準の経常黒字を維持する、ここ数年おなじみの構図となった。

 2月13日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、日本の国際収支に絡む円買い・円売りフローは今後しばらく円相場に下押し圧力として働くと指摘。写真は東京港で2017年1月撮影(2019年 ロイター/Kim Kyung Hoon)

対外直接投資も引き続き活発で、対外流出額から対内流入額を差し引いた投資超過額は、2012年末のアベノミクス開始以降に記録した年平均超過額と同水準を維持した。ここではその中身を精査した上で、国際収支に絡む円買い・円売りのフローが相場に与える影響を考えたい。

<構造転換した経常収支>

まず経常収支を見ると、貿易収支の黒字幅が2017年の5兆円から1兆2000億円に大きく減少した。輸出は前年比5.1%増の81兆2000億円と過去最高を記録したものの、輸入が同10.6%増の80兆円と2014年以来の80兆円台に膨らんだ。輸入の増加は原油価格上昇の影響が大きい。通関統計によると、原油・粗油は同24.5%増、液化天然ガス(LNG)は同20.8%増、それぞれ輸入が増えた。

一方、サービス収支は赤字額が2017年の7275億円から8986億円に増加した。わずか1兆2000億円の貿易黒字をほぼ帳消しにした格好だ。2012年に3兆8000億円だったサービス収支の赤字はアベノミクス下で毎年減少し続けてきたが、2018年はわずかながら拡大した。

このうち、旅行収支は訪日外国人の増加で2兆3000億円の黒字。前年から5330億円増え、初の2兆円台に乗せた。しかし、輸送収支やその他業務サービス収支の赤字幅が拡大した。その他業務サービスの赤字約3兆円のうち、項目別では研究開発サービスが、地域別では対米赤字がいずれも約半分を占めた。

貿易黒字が大幅に減少したのに対し、日本企業が海外から受け取る投資収益や配当金に当たる第1次所得収支は、3年ぶりに20兆円台を回復した。2017年から1兆円増え、20兆8000億円となった。

対外直接投資が高水準で推移しているここ数年の流れを反映し、直接投資収益が10兆円と、前年比12.9%伸びた。10兆円台に乗せるのは初めてだ。一方、証券投資収益は9兆9000億円と前年比4.0%減少し、6年振りに10兆円を割り込んだ。主因は前年比29.2%も減少した配当金で、2016年以降は毎年比2ケタの減少率が続いている。

では、経常収支の黒字は円相場にどのような影響を与えるのだろうか。

貿易収支の黒字はサービス収支の赤字でほぼ相殺されている。第1次所得収支は直接投資収益のうち、配当金・配分済支店収益の4兆6000兆円が円に転換される可能性が高い。一方、再投資収益の5兆3000億円は現地の工場建設などに使われ、円転されないと考えられる。

また、仮に証券投資収益9兆9000億円のおよそ半分が再投資され、円転されないとすると、第1次所得収支の黒字20兆8000億円のうち、円買いにつながるのは半分程度。およそ10兆円が円に上昇圧力を与えると推測できる。

<活発な対外投資>

次に2018年の資本収支を見ると、対外直接投資から対内直接投資を差し引いた対外直接投資超過額は14兆9000億円と、前年から1兆9000億円減少した。しかし、対外直接投資・実行だけを見ると前年比16.2%増の64兆3000億円で、日本企業による対外投資は引き続き盛んな様子がうかがえる。

興味深いのは、米国向けの直接投資超過額が2兆4000億円と、前年の5兆5000億円から半減したことだ。保護主義を強めるトランプ米政権の姿勢が影響したのか、国別データがある2014年以降、米国向けが5兆円台を下回るのは初めてのことだ。一方、増加が顕著だったのはケイマン諸島向けで、前年から1兆8000億円増えた。

証券投資は対外株式・ファンド持分投資が9兆8000億円の買い越しとなり、2017年から1兆4000億円減少した。年金(信託勘定)や投資信託以外に、投資主体として銀行と生命保険が目立ち、2018年はそれぞれ約2兆円ずつ買い越した。買い越し分9兆8000億円のうち、外貨建ては6兆1000億円と前年の倍以上に増加した。

また、ほとんどが為替ヘッジをしていると考えられる銀行を除き、日本の投資家による外国の中長期債投資は13兆2000億円の買い越しとなり、2017年から4兆5000億円も増加した。年金と個人による外債投資の増加が目立つ。全体の買い越し分のうち、外貨建ては10兆2000億円で、前年の9兆9000億円とほぼ同水準だった。

<しばらく続く下方圧力>

ここで資本収支のフローが円相場に与える影響を見ると、対外直接投資14兆9000億円に絡む円売りは、全体の半分程度の7兆円と考えられる。対外株式・ファンド持分投資と対外債券投資に絡む円売りをそれぞれ6兆円、10兆円とすると、合計23兆円の円売りと推計される。

一方、経常収支の影響はすでに見たように、貿易黒字とサービス収支の赤字はおおむね相殺。また、第1次所得収支に関係した円買いは10兆円程度と推計できる。

結果として、2018年は国際収支に絡んだ13兆円程度の円売りフローが相場に下押し圧力をかけたと考えられる。

日本の国際収支は高い水準の経常黒字を維持しているものの、その中身は貿易黒字の縮小を第1次所得収支の黒字増加で補う構造に転換した。第1次所得収支は現地で再投資されることが多く、貿易黒字に比べて円に転換されにくい。さらに企業の対外直接投資、投資家の対外証券投資は活発な状態が続いている。

日本の国際収支に絡む円売り・円買いのフローは、今後もしばらく円相場に下方圧力をかけ続けるものと考えられる。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

佐々木融氏(写真は筆者提供)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

(編集:久保信博)

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