March 22, 2019 / 1:38 AM / 6 months ago

コラム:海外投資家が疑問視する日銀「次の一手」=佐々木融氏

[東京 22日] - 筆者は先週、出張先のニューヨークで現地の投資家と相次いで面談した。最も印象深かったのは、多くの投資家が日銀の金融緩和策の次の一手に注目していたことだった。

 3月22日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、出張先のニューヨークで面談した投資家の多くが日銀の金融緩和策の次の一手に注目していたと指摘。写真は日銀の黒田東彦総裁。2018年10月、東京で撮影(2019年 ロイター/Issei Kato)

1月最終週に欧州を訪問した際の関心は、主に日本の企業と投資家による対外投資フローにあり、日銀への興味はそれほど大きくなかったことと比べると、大きな差を感じた。

世界の主要な中央銀行が次々とハト派的な姿勢に変化していく中で、日本は景気指標も弱く、インフレ率が上がる見通しも立たないことから、日銀の次の緩和策は何かに投資家が注目し始めているのだろう。会期中の国会に黒田東彦総裁がたびたび呼ばれ、金融政策について発言する機会が多かったことも注目を集めた理由の一つかもしれない。

中には、4月の金融政策決定会合で追加緩和もあるのでは、と期待する向きもあった。

<イールドカーブ引き下げか>

JPモルガンは日銀の次の一手について、景気後退リスクが高まった際にイールドカーブを引き下げると予想している。年内は可能性が低いものの、短期金利をより大きく下げ、カーブがスティープ化するよう調整するとみている。同時に、こうした追加緩和策は円相場に逆効果、つまり円安ではなく円高に作用してしまうと考えている。

面談したほとんどの投資家が、この見方に賛同していた。そして多く聞かれたのは、「なぜ日銀は長期国債の買い入れオペレーションを止めないのか」という声だった。金利水準はともかく、フラットなイールドカーブが金融機関の収益にマイナスであることが分かっていながら、なぜ長期・超長期国債の購入を続けているのかという疑問だ。

「日銀はマネタリーベース拡大のために、長期国債の保有残高の年間増加額が約80兆円となることをめどに購入を続けている」とこちらが説明すると、「すでに買い入れ額はその半分にも達していない。(密かに量的緩和を縮小する)ステルステーパリングが始まっていることは誰でも知っている。逆に無理して少額を購入し続け、イールドカーブにフラット化圧力をかけ続ける意味は無いのではないか」と指摘されるケースが目立った。

こうした声が出るのは、ドル円相場がかなり安定的に推移していることも影響しているであろう。

「日銀はいつまで2%のインフレターゲットを維持するつもりなのか」という質問も多かった。「日本で2%のインフレ率達成が難しいことは誰が見ても明らかだ。それにもかかわらず、同じターゲットを維持したまま、何も新しい手を打たないのであれば、日銀の政策意図がますます分からなくなる」との声も上がっていた。

以前であれば、日銀の金融政策に対する欧米投資家の批判は、「なぜもっと大胆に国債購入額を拡大しないのか」、「なぜ2%のターゲットをもっと引き上げないのか」といった、政策の度合いに関するものが中心だった。しかし、今回の訪問時に聞いた批判は、「なぜ同じような金融政策を続けているのか」という、政策の内容そのものに対する批判だった。

もしかすると、もはや日銀には打つ手がない、と見られているのかもしれない。「次に日本に景気後退が訪れたら、対応できるのは金融政策ではなく、財政政策になるのは明らかだ」という別の投資家の質問からも、そうした見方がうかがえた。同氏は「それにもかかわらず、これから消費税増税を行おうとするのはなぜなのか」と疑問を呈していた。

つまり、主要各国が金融と財政セットで緩和方向を向いているのに、日本は日銀が動かないままであれば、金融・財政ともに引き締め方向を向くことになってしまう、という指摘だ。

<投資家は日米通商交渉に厳しい見方>

米国の投資家が日本の金融政策への関心を高める中、4─5月はドル円相場に影響を与えそうなイベントが続く。4月10日には黒田総裁が講演、中旬には米財務省が半期為替報告を発表する。24─25日には日銀が決定会合を開くとともに、経済・物価情勢の展望(展望レポート)を公表する。

また、4月中に米中首脳会談が開催される可能性があり、5月中旬にはトランプ大統領が自動車関税に関して最終決定を下す期限が来る。そして、5月26─28日にはトランプ氏が来日するとみられている。

円相場の短期的な見通しは、筆者が面談したニューヨークの投資家の間で割れていた。1月最終週に出張した欧州では円高方向を予想する声が圧倒的に多かったが、今回は上下両方向を見ていた。1月最終週の前後と比べて世界経済に対する悲観的な見方が落ち着きを取り戻したこと、米中通商交渉が泥沼を回避できたことが変化をもたらしたのかもしれない。

日米通商協議に対しては、筆者の楽観論を懐疑的に見る投資家が多かった。安倍晋三首相との関係が良好だからと言って、トランプ大統領が国内で多くの困難に直面する中、日本との交渉、とりわけ自動車問題で攻撃対象にならないと考えるのは楽天的過ぎるのではないか、などという反応が目立った。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

佐々木融氏(写真は筆者提供)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

(編集:久保信博)

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