September 25, 2019 / 3:04 AM / 2 months ago

コラム:日銀緩和に影響する円高リスクは、どこへ消えたのか=熊野英生氏

[東京 25日] - 9月18─19日の金融政策決定会合で、日銀は追加緩和を行わず、現状維持とした。会合直前は、為替レートが1ドル108円台半ば。ここまで円安水準にドル/円JPY=EBSレートが戻れば、追加緩和は不要だという判断が働いていたと思う。

 9月25日、日銀は為替レートが円高になるかどうかを見極めたうえで、10月末の決定会合で緩和カードを出すだろうと、第一生命経済経済研究所の熊野氏は指摘する。写真は新東京国際空港にある外貨両替所。2016年3月25日、千葉県で撮影(2019年 ロイター/Yuya Shino)

日銀は、円高リスクが再燃することに注意しながら、次回10月31日の会合で「点検」することを約束した。円高が進まなければ、日銀は追加緩和しない可能性もある。少し前まで、米連邦準備理事会(FRB)の年内利下げが円高を誘発するので、それに対処するために日銀は追加緩和で応じるとみられてきた。この観測は、ドル/円レートが円安方向に修正されていく間に大きく後退していった。

円高観測が強まったのは、7月末のFOMCから8月末・9月初めまでの約1カ月間である。この1カ月間は、ダウ.DJIなどの株価下落、円高、そして各国長期金利の異様な低下が起こった時期である。

きっかけは、はっきりしていて、トランプ米大統領が7月末のFOMCとほぼ同時に、対中制裁関税を強化したことだ。この時、トランプ大統領は上海で行われていた米中閣僚級協議が思うような成果を得られそうにないことにいら立っていた。

その焦りが爆発して、制裁強化の表明を行うことになった。8月23日には、25%だった追加関税を30%へと引き上げる措置を発表して、追い討ちをかける。恐らく、この時期に景況感への不安感が、クライマックスに達した頃だったと思える。

その後、8月26日に米中貿易協議は再開へと転じる。8月31日は、制裁関税の第4弾の一部を12月15日へと延期することが表明される。そこから弱気マインドが次第に払拭されていった。

<トランプ次第か>

こうした経緯を振り返ると、トランプ大統領の気が変われば、再び弱気マインドが蘇るのではないかと思う人は多いだろう。その可能性は十分にある。

しかし、8月・9月にかけて、マクロ経済にも景気底入れを示唆する指標がちらほらと表れ始めた。半導体関連では、在庫調整が進ちょくしたこともあり、生産循環が反転する動きがある。

これは、日本の鉱工業生産統計にもみられる。こうした景気トレンドの変化は、米中貿易戦争の再燃があっても、そう簡単には揺るがないと考えられる。株価の反転などには、景気トレンドの要因もいくらか加わっていると思える。

もう1つ、注意すべき要因に触れておこう。金余りの環境である。8月から9月初めにかけて長期金利は、異様に低下した。米国の10年国債利回りUS10YT=RRは1.5%割れして、2016年央の過去最低水準に接近した。ドイツの30年国債利回りDE30YT=RRは、初めてマイナス金利を付けた。この債券バブルとも言える状況はどうして生じたのか。

確かに株価下落によって、債券シフトしてきた余剰マネーのせいだと言える。だが、米国の金融緩和が、景気実勢に比べて強過ぎるため、過剰流動性を生み、株価は上昇しやすく、長期金利は極端に下がりやすくなった。

つまり、金融市場のセンチメントが変化すると、相場は通常よりも大きな幅で反応する。これが大きなボラティリティを生んでいる。

株価の反転は、確かに景気トレンドのちょっとした変化に反応して起こっている。これは、過剰流動性の素地があるために「そうなる」と理解することができる。まだ、先々の為替、株価、金利の変化に予断を待たない方がよい。

<なぜ、米利下げは円高を生まなかったのか>

9月のFOMCで2回目の利下げを行ったのに、それがドル安・円高を引き起こさなかったのはなぜだろうか──。

米長期金利が低下しなかったからだという説明は、説得力がある。この説明は、もう一段踏み込むと、8月中に著しく低下した米長期金利が、9月になって上昇に転じていたので、金利差要因でドル安を引き起こさなかったからだと言い換えられる。

先に説明したように、8月はトランプ大統領の対中制裁が、弱気マインドをリスク回避に向かわせた。それが9月になって解消されてきたから、9月17・18日のFOMCの利下げによっても、ドル安・円高が生じなかった。

9月のFOMC終了後に公表されたドットチャートでは、FRB内部の見方が3分された。年内にさらにもう1回利下げするべきとの声が7人にとどまり、過半数を下回った。現状維持を主張するメンバーが5人おり、先々の景気下振れによって10月か12月に利下げする含みが残された。

7月末よりも、9月中旬になって利下げ観測が少し後退したことも、長期金利の上昇をサポートし、ドル安にならない要因として挙げられよう。

より経済的要因に基づいて説明すると、トランプ大統領が対中制裁を軟化させたことが、過剰な弱気を修正させたと言える。過剰流動性の中では、弱気の修正は容易に楽観に向きやすいので、予想外にドル高・円安が当面続くかもしれない。

トレンドの変化は、やはりトランプ大統領次第のところがあって、今後の米中貿易協議で、またもや大統領が翻意するリスクは残る。

日銀は、そのときの円高リスクに対して、追加緩和カードを本当に切るかどうかが試される。日銀は、本音のところではトランプ大統領によって振り回されるのは御免だから、一過性の円高に緩和カードを切りたくないだろう。

10月末の会合では、為替レートが風向きによって円高になるかどうかを見極めたうえで、緩和カードを出すだろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

(編集:田巻一彦)

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