March 27, 2019 / 6:04 AM / 3 months ago

コラム:追い詰められる日銀、「マイナス金利貸出」の現実味=熊野英生氏

[東京 27日] - 米国で起きた長短金利の逆転は、景気後退の接近を予感させる。長期金利の低下は連邦準備理事会(FRB)がいずれ利下げに転じるというシグナルかもしれず、当然ながら日銀の追加緩和観測も高まることになるだろう。

 3月27日、第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、消費増税を予定通り実施するために政府は追加の経済対策を講じ、それを側面支援するため、日銀は景気対策に協力するだろうと指摘。写真は日銀本店で会見する黒田東彦総裁。2017年12月撮影(2019年 ロイター/Issei Kato)

日本でも1月の景気動向指数が悪化するなど、景気後退リスクがくすぶっている。10月に控えた消費税率引き上げの判断も、不透明感が増しつつある。7月の参議院選挙前に、緊急避難的に増税を翻す可能性も否定できない。

今の日銀は、政府が経済対策を打とうとすれば、それに呼応して緩和に動かざるを得なくなっている。筆者は予定通り消費増税が実施されることをメインシナリオとしつつ、政府が追加の経済対策を講じる可能性があるとみている。それを側面支援するため、日銀は景気対策に協力するだろう。いつか通った道をもう一度繰り返す、既視感のある筋書きである。

<追加緩和をしてもほとんど効果なし>

追加緩和の手段としてまず思い浮かぶのは、長短金利の引き下げである。短期金利は現在のマイナス0.1%を深堀りする。長期金利のターゲットもゼロ%程度からの許容幅を上下0.2%から再び0.1%に戻す。

これは企業や政府の資金調達コストを下げる点でプラスだが、銀行に対してはマイナス金利の負担を増やす。短期国債がマイナス金利運用になるという点は、銀行など投資家から政府への所得移転となり、それが果たして緩和になるかという問題が残る。副作用という面で、問題含みの対応となる。

そもそも効果はあるのだろうか。貸出金利はもはや下げ余地がほとんどない。日銀が発表する貸出約定平均金利は、新規・短期のところで2018年中は0.4─0.6%台で推移している。銀行の調達金利に信用スプレッドを乗せたぎりぎりの水準だろう。

国債の金利低下で社債スプレッドがじりじり低下していることから、貸出金利ももう少し下がる可能性はある。ただ、0.1─0.2ポイント下がったところで、企業の資金調達のコスト負担はそれほど軽減されない。日銀の主要銀行貸出動向アンケートでは資金需要判断DIも貸出運営スタンスDIも、黒田東彦総裁のもとで2013年に日銀が打ち出した大規模緩和以降、ほぼ横ばいである。

一方、日銀短観を見ると、金融機関の貸出態度判断DIは「緩やか」が「厳しい」を、資金繰り判断DIは「楽である」が「苦しい」を上回る状況が続き、しかも緩やかに改善している。大規模緩和の効果と見ることもできるが、むしろ銀行の運用難による競争激化で、時間とともに企業が借りやすくなっているにすぎないのではないだろうか。追加緩和が限界的に効いているというよりも、銀行の運用を厳しくしているだけと理解できる。

<不動産貸出への傾斜リスク>

イールドカーブ・コントロールの目的は、長短金利を低位に抑えることで、できるだけ貸し出しを増やすことにある。確かに貸出残高は増えており、効果は出ている。黒田緩和の開始以降、銀行貸出は2─3%台で伸びた。

伸びが大きいのは不動産と個人向けの貸し出しだ。特に不動産向けは黒田緩和の開始から4%台の伸びとなり、16年にイールドカーブ・コントロールを開始してからは5─7%台へとより伸張している。個人向けの中身は、住宅ローンと消費者ローンが主である。つまり、巨大な緩和マネーが不動産市場に流れ込んだことを意味する。

銀行がさらに貸し出しを増やそうとすると、どうしても定期収入が見込め、担保設定もしやすい不動産向けに偏ってしまう。銀行の設備資金・新規貸出(フロー)に占める不動産と個人(ほぼ住宅ローン)は併せて約6割に上る。ここにきて設備資金・新規貸出の伸びはマイナスに転じている(17年9月─18年12月)が、それでも残高ベースで前年比5.3%増(18年12月末)と高いレベルを保っている。

ここ数年の地価動向は、都市部の商業地を中心に上昇傾向にある。日本不動産研究所の6大都市・商業地の市街地価格指数は、18年9月末時点で前年比8.1%も上昇している。こうした地価上昇が、不動産向け貸し出しを伸ばす要因とも言える(逆の因果も働いているだろうが)。しかし、仮に20年夏の東京五輪後に地価が反落すれば、銀行経営に思わぬ打撃が加わる恐れがある。

<金融庁と二人三脚で>

次なる緩和策として、マイナス金利貸出がうわさされている。現在、日銀は貸出支援基金を設けてゼロ金利で銀行などに資金供給をしているが、当座預金のマイナス金利を深堀りすると同時に、この適用金利をマイナスにする。すると、貸出支援のパワーアップが見込める。

金利を下げて貸出増加という理屈は、量的拡大に発想を縛られたリフレ派の人たちとは異なる点で、黒田総裁には受け入れやすいだろう。また、当座預金のマイナス金利適用が23兆円(18年末)に対して、貸出支援基金は45兆円前後である。全体として、銀行収益の足を引っ張っていないという口実にもできる。

ただし、2つの問題が残る。1つは日銀が公的資金、つまり税金を使うことが許されるのかという問題である。このアイデアは以前から語られてきたが、今もって実施されていない。その理由は、日銀が民間銀行にマイナス利息という利益を与えることが、税還付に似ていることに政府内で理解が得にくいことがあるだろう。政府は「アリの一穴」を恐れる。

もう1つは、貸出支援によって、もっぱら不動産向けが伸びることを肯定的に評価できるかという問題である。貸し出しは増加してほしいが、不動産向けに回る分は「ほどほどで良い」とは言いにくいだろう。

不動産向けへの過大な傾斜については、金融機関の健全性を確保する金融庁の「プルーデンス・ポリシー」でしっかりと管理し、日銀は貸出全体を伸ばすという考え方もできる。荒技として、不動産向けを除いて、貸出増加支援を行うというルールにする案もあるだろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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