May 17, 2019 / 1:04 AM / 4 months ago

コラム:制度疲労の日銀緩和、求められる令和の政策大転換=佐々木融氏

[東京 17日] - 4月末に幕を閉じた平成の30年間は、最初の1年間こそバブル経済のピークへ向かって突き進んだが、その後ほとんどの期間はバブルに踊ったツケを払わされる結果となった。ただ、終盤6年間は「アベノミクス」という名の政策により、バブルの後始末が終わった可能性を感じさせた。

 5月17日、JPモルガン・チェース銀行の佐々木融・市場調査本部長は、現在の金融緩和の手法を続けても、インフレ期待は高まらないと指摘。写真は日本銀行本店。2015年6月、東京で撮影(2019年 ロイター/Toru Hanai)

アベノミクス3本の矢の中でも、市場に最も強力な影響を与えたのは第一の矢、つまり大胆な金融緩和政策であった。日銀は2013年1月に2%のインフレ目標を導入し、同年4月にはマネタリーベースが2年で2倍になるよう、長期国債、上場投資信託(ETF)の買い入れ額を拡大した。

「日銀が2%のインフレ目標を掲げたり、マネタリーベースを増やしても、インフレ率は上昇しない」との批判もあったが、円安が進み、株価が上昇するに従い、いわゆる「リフレ派」と呼ばれる考え方が勢いを増した。1年半後の2014年10月には長期国債の買い入れペースを年間約30兆円上積みし、ETF保有残高の年間増加額も3倍に引き上げた。

それから約1年あまり、アベノミクスを開始してから約3年が経過した2016年1月、日銀はマイナス金利政策に踏み切った。さらに約8カ月後には長短金利を操作する「イールドカーブ・コントロール」を導入するなど、矢継ぎ早に新しい政策を打ち出してきた。

<日本株は欧米をアンダーパフォーム>

この間、日経平均株価は約3倍の水準まで上昇した。ドル円相場は実質的には大幅な円安レベルで推移し続け、国際情勢の混乱などで株価が大きく下落してもそれほど円高方向に振れなくなっている。

もっとも、日銀が政策目標としている生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)の前年比は、一向に2%に届かない。一方で、大胆な金融政策は徐々に副作用が目立つようになっている。イールドカーブがフラットになったままの状態が長期間続き、年金基金、生命保険会社、銀行などの機関投資家が国内の投資から運用益を稼げない状態が続いている。

2019年度中、日銀以外が保有する国債の償還額は約44兆円になると見込まれるが、プラスの金利がついている期間10年以上物の市中へのネット新規供給額は8兆円にとどまると予想されている。

今や国内機関投資家は、円相場に対する見通しいかんにかかわらず、ある程度為替リスクをとって外債に投資せざるを得ない。しかし、地方金融機関などは当局からの指摘を恐れて、外債への投資も増やせず、身動きが取れずにいる。

さまざまな地政学的リスクが顕現化する中、日経平均は一見すると底堅く推移しているが、年初来で見れば、米国や欧州の株価指数に対して大きくアンダーパフォームしている。ちなみに、日銀がマイナス金利政策を導入してからの3年強でみると、米S&P総合500は約50%、ドイツのDAXは約26%上昇しているが、日本のTOPIXは11%程度の上昇にとどまる。

<政策転換で円高は杞憂>

あと4カ月もすると、日銀が最後に政策を変更し、イールドカーブ・コントロールを導入してから3年が経過する。ここまで手を変え品を変えてもインフレ率が目標に到達しないのだから、これまでの金融政策の延長線でインフレ率が上昇するとは思えない。多くの人がそう感じる中では、いくら日銀が目標を達成するまで現状の政策を続けると言っても、インフレ期待を押し上げることができると考えるには無理がある。

今の金融緩和策はもはや制度疲労していると言えるが、日銀が政策を大胆に変更し、たとえばイールドカーブをスティープ化、つまり長期金利を上昇させることに躊躇(ちゅうちょ)するのは、円高を警戒しているからであろう。

しかし、これだけ海外勢が日本の投資家による対外証券投資に注目する中では、日本の長期金利が上昇したら、日本勢が外債を売却するとの思惑が高まり、海外の長期金利も上昇するだろう。金利水準は日本より米国のほうが圧倒的に高いため、おそらく日米金利差は縮小ではなく拡大する。つまり、日銀がマイナス金利を導入した後に、日米金利差が逆に縮小し、円高になってしまったのと逆の現象が起きる可能性がある。

また、日本の長期金利が多少上昇した程度では、国内の運用難を解消するにはほど遠く、円高が進行する可能性は低い。むしろ、多少円高が進んだとすれば、逆に喜んで円を売る日本の投資家や対外直接投資に向かう企業が増えるだろう。

イールドカーブがスティープ化することで、日本の金融株が上昇し、それが日本株全体に恩恵をもたらし、結果的に円安になるという効果も期待できる。

日本の貿易黒字が極端に減少してしまった今、一時的に円高が進んだときに慌てて円を買う動きより、それを好機と捉え円を売る動きのほうが圧倒的に大きくなっている。日銀が大胆な政策変更を行っていく上では、こうした円相場の構造変化にも目を向けて対応する必要があるだろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

佐々木融氏(写真は筆者提供)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

(編集:久保信博)

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