March 11, 2019 / 8:13 AM / 4 months ago

コラム:山場迎えたブレグジット、ポンド相場に妙味はあるか=植野大作氏

[東京 11日] - 英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)期限が3月29日に迫っている。英国政府とEU間の離脱条件を巡る交渉や、英国内の意見調整はこの期に及んで難航を極めており、著しい先行き不透明感が漂っている。

 3月11日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏は、英国が強硬離脱した場合、スワップ・ポイントを考慮しなければ「ポンド/円の売り」ポジションが一番利益の出そうな選択肢になると指摘。写真はユーロとポンド紙幣。2017年4月撮影(2019年 ロイター/Dado Ruvic/Illustration)

英議会はまず12日に離脱条件の修正案を採決するが、おそらく否決されるだろう。その場合、翌13日に「合意なしの離脱」についての採決が行われ、それも否決された後、14日に期限延長案を採択する可能性が高い。離脱日を先送りし、交渉時間を稼ぐ算段だ。

ただ、今後の欧州政治日程を見渡すと、5月下旬の欧州議会選挙の後、7月2日に最初の欧州議会が招集される。すでにEU離脱を決めている英国出身の議員はいなくなる予定であり、離脱期限を議会招集日より先に延長するのは現実的でない。

これまで散々もめてきた離脱条件協議が、わずか数カ月程度の期間延長でまとまるかは未知数だ。離脱する際の条件について何の取り決めも無いまま「ブレグジットの日」を迎えた場合、複雑な税関手続きその他のビジネス障壁が復活、英国と欧州の経済・金融市場だけでなく世界全体に様々な悪影響が及ぶリスクがある。

以下、ブレグジット問題に関する今後の展開と為替相場の反応について、筆者の見解を示しておきたい。

<ポンドの下値めどは>

まず市場が一番警戒している「合意なきブレグジット」が実際に起きた場合、多国籍企業や金融大手の生産・活動拠点が英国から出ていくだけでなく、「英国企業の英国離れ」まで起きるリスクが想起され、恐らくポンドは急落する。

英国からの投資資金や人材の流出がもたらす国力の低下で、かつての「英国病」が再発すれば、経常収支赤字国の通貨ポンドには長期的かつ構造的な減価圧力がかかるだろう。

その際の下値めどを論理的に予見するのは困難であり、過去のチャートを眺めて考えるしかない。2016年6月の英国民投票でEU離脱が決まった後、同年10月に起きた瞬間暴落の時に記録した直近安値の1ポンド=1.1841ドルがひとまずの下値抵抗線として意識されそうだ。もしもそこで止まらなかった場合、1985年2月に記録した最安値1.0520ドルまで、これといったテクニカル・ポイントは見当たらなくなる。

通貨の価値はゼロにはならないため、ポンドはいずれどこかで底値を見出すはずだが、「合意なきブレグジット」が起きた後に形成される新たな変動レンジの下限を見極めるのは容易ではない。恐らくかなりの時間がかかるだろう。

その際、他通貨市場に及ぶ影響について整理すると、経済・市場の混乱リスクを英国と分かち合うEU諸国の通貨もポンド安の巻き添えをくって下落。ユーロはもちろん、デンマーク・クローネやスウェーデン・クローナなども対ドル、対円で売り圧力にさらされるだろう。

<相場混乱で最強通貨は日本円>

ただ、「合意なきブレグジット」で最も大きな経済的被害を受けるのは英国だ。このため、欧州域内の為替市場では不美人投票による通貨売りの矛先がポンドに向かい、ユーロ/ポンドは急騰、デンマークやスウェーデンの通貨も対ポンドで上昇する可能性が高い。そのような状況下では、世界の株価が一時的にせよ不安定化するとみられ、ドル/円市場ではいわゆるリスクオフの円高圧力が高まるだろう。

よって、英国がEUを強硬離脱する場合の主要通貨の強弱関係を大雑把に示すと、最弱は英ポンド、次にユーロとデンマーク、スウェーデンがほぼ並び、米ドル、日本円の順に強くなる。2カ国間の金利差がもたらすスワップ・ポイントを考慮しなければ、「ポンド/円の売り」ポジションが一番利益の出そうな選択肢となる。

ただ、今のところ「合意なきブレグジット」が起きるとみている市場関係者は少ない。野党第一党の労働党は最近、国民投票のやり直しを求める方針に転換したため、それだけは阻止したい英国内の強硬離脱派が、政府の示す離脱条件に付帯条項をつけることで妥協する可能性が浮上しているからだ。

仮にそのようなシナリオが実現して英国内の意見がまとまり、EUとの間で条件の取決めができた場合、合意なき離脱の懸念から解放された市場に安心感が広がり、ポンドは一時的に反発するだろう。国民投票後の戻り高値である1ポンド=1.4377ドル近辺が目先の上値めどとして意識される可能性がある。

それでも、数年間に及ぶとみられる移行期間中は、離脱後の英国とEUの関係を定める「将来協定」の内容を巡って不透明感がくすぶり続けるとみられる。短期的にポンドが買い戻されたとしても限界があり、やや長い時間をかけ、先ほど挙げたテクニカルの下値めどである1.1841ドルや1.0520ドルを目指すポンド安が起きるかもしれない。

<どんでん返しはあるか>

一方、ブレグジットに伴って発生する経済的損失の大きさを嫌気して英国内の世論や政局が動き、「国民投票やり直し」となった場合は、離脱の話自体がなかったことにされる可能性が浮上してポンドは急伸しそうだ。

再投票で「離脱撤回の民意」が示された場合は、2016年6月国民投票の開票序盤に「EU残留期待」が高まった瞬間につけた1ポンド=1.50ドル付近の高値を試すどんでん返しがあるかもしれない。

ただし、英国がブレグジットを撤回するのなら、なるべく早く決断しないと「手遅れ」になりかねない。3年前の国民投票後、離脱条件協議が迷走している間に発生した著しい不透明感を嫌気し、英国での生産撤退や事業縮小を決めた事業法人や金融機関は既にかなりの数に上っている。

ブレグジット撤回の意思表示をするまでの時間が長ければ長いほど、英国離れを検討したり、実行に移す企業や人は増えそうだ。「覆水盆に返らず」の例えもある。英国がEU残留の民意を示すのが遅きに失した場合、一連の離脱騒動で失ったビジネス環境の安定性に対する信頼を取り戻すのは難しくなりそうだ。

いずれにしろ、英国のEU離脱問題が今後どのような展開をたどるのか、交渉の当事者にすら読み切れていないものを、外部から観察している第三者が正確に予測するのは不可能だ。どれだけ多くの時間と労力を費やして先読み作業に没頭しても、投入したコストに見合うだけの為替売買益を安定的に得るのは難しいだろう。

実需絡みのニーズがあってポンドの売買から逃れられない場合や、射幸を狙った「運任せ」のポジションを好んで持ちたいという場合を除き、当面はポンド絡みの通貨ペア売買は手控えるのが無難だ。この先しばらくの間は、ブレグジット関係の情報収集は怠らずに「見るも相場」に徹するのも一計だろう。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

植野大作氏 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト(写真は筆者提供)

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

(編集:久保信博)

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