June 3, 2019 / 1:17 AM / 3 months ago

コラム:FRBも日銀も目標未達、正念場迎えた中銀の信認=嶋津洋樹氏

[東京 3日] - 令和初の国賓として迎えたトランプ米大統領が無事に帰国したことで、日本政府の関係者は胸をなでおろしているだろう。いつもの予測不能な発言が全くなかったわけではないが、大きな物議を醸さなかったという点で、日本政府の「おもてなし外交」は一定の成功を収めたと言える。

6月3日、MCPのチーフストラテジスト、嶋津洋樹氏は、米連邦準備理事会(FRB)の正常化プロセスは十分な結果を残してはいないと指摘。写真はFRB本部。2018年8月、ワシントンで撮影(2019年 ロイター/Chris Wattie)

もっとも、米国内では野党・民主党を中心に当のトランプ大統領を弾劾すべきとの機運が高まりつつある。中国との通商などを巡る協議が依然として視界不良であること、北朝鮮やイランの核問題がくすぶっていることを踏まえれば、トランプ大統領がそうした問題から国民の目をそらすため、沈黙を破って過激な言動をしても不思議ではない。

その際、真っ先に標的とされるのは民主党だろう。実際、トランプ大統領は訪日直前の5月22日、インフラ整備を巡る政策協議を突然打ち切り、その後、ペロシ下院議長に対する批判を繰り返している。モラー特別検察官が5月29日の退任会見で大統領弾劾に言及し、民主党が圧力を強める姿勢を示したことで、トランプ氏の攻撃的な態度は一段と加速するだろう。

次の標的は中国や北朝鮮、イランなどの外国政府の可能性が高い。為政者が自分に対する批判の矛先を国内外の政治的なライバルや、敵対的な国に向かわせるのはよくあることだ。このタイミングで、不法移民の流入を理由にメキシコからの輸入品に関税をかけると発表したのも自然な流れと言える。

もっとも、それはトランプ大統領の従来からの強固な支持者を熱狂させるだけで、自身の再選に必要な共和党の穏健派や中道派を取り込めるとは考えにくい。北朝鮮やイランの核保有のような外交問題も、必ずしもトランプ氏の支持率上昇には結び付かない。再選するには、より広範な理解を得られる標的が必要である。

<FRBは景気見通しを誤った>

うってつけの相手は、米連邦準備理事会(FRB)しかいないと筆者は考える。これまでもトランプ氏はFRB批判を繰り返してきた。そのたびにFRBの独立性や信認に悪影響を与えるとの批判が出るものの、今では当初ほどタブー視される雰囲気はなくなった。

トランプ大統領にとって好都合なのは、FRBを「攻撃」しても自らが失うものはないことだ。もちろん、中央銀行の独立性や信認を揺るがし、最終的には通貨の価値を傷つけ、国力低下という弊害をもたらす。しかし、それが明らかになるには時間がかかるうえ、プロセスが複雑で因果関係を証明しにくい。

その点、民主党や外国政府に対する「攻撃」は、最終的に政策の停滞や交渉の失敗を通じて、自らも責任を問われることがあり得る。

FRBが「雇用の最大化」と「物価安定の維持」という2大目標を達成できていないこと、目標達成に不可欠な景気の見通しを誤った可能性があることも、トランプ氏には有利に働く。4月の米失業率が約49年ぶりの水準まで改善したことで、一見すると雇用の最大化という目標は達成したと評価できそうだが、平均時給の伸びを見る限り、確実とは言い難い。

ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は5月16日の講演で、FRBのこれまでの利上げについて、完全雇用に達したという誤った判断を下した結果だったと素直に認めている。

中央銀行の独立性や信認は、法律で付与するだけでは不十分で、目標達成という結果を継続的に残す必要があると筆者は考えている。そういう意味で、FRBの今回の正常化プロセスは十分な結果を残してはいない。とくにバランスシートの正常化や、18年12月の利上げを巡る判断は、やや拙速だった印象が否めない。

少なくとも現段階では、利上げをけん制したトランプ大統領に分があり、利上げに踏み切ったFRBの旗色は悪い。

<「MMT」という中央銀行不要論>

こうしたFRBとトランプ大統領との関係は、そのまま日銀と安倍晋三首相との関係にも当てはまるだろう。日銀を取り巻く環境も急速に悪化しているが、日米の景気を比較すれば、日銀の置かれた立場はFRB以上に悪いとすら言える。

実際、国内景気はすでに後退局面に入っている可能性が高い。その原因の一端は、昨年8月の本欄「日銀の枠組み強化でアベノミクスは『風前の灯』」で指摘した通り、日銀が18年7月31日に決定した「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」(枠組み強化)にあると筆者は考えている。

もちろん、国内景気にとって中国景気減速の影響は大きい。しかし、「枠組み強化」後の金融市場は筆者が予想した通り、実質金利が上昇。18年7月30日にマイナス0.46%だった10年物価連動国債の利回りは、同年12月28日にはマイナス0.23%までマイナス幅を縮めた。

日本円には上昇圧力がかかり、国内の景気や株価を冷え込ませる方向に作用した。円は対ドルでこそ108─114円のレンジで推移しているものの、実効ベースでは徐々に水準を切り上げている。18年末の水準は同年7月30日比べて2%程度高かった。直近はそこからさらに2%程度上昇している。最近の日本株や景気の弱さに違和感はない。

企業やそこで働く従業員は、目標の未達が続けば評価が下がり、最悪の場合、「お前はクビだ」と宣告されることもあるだろう。これを中央銀行に当てはめれば、独立性や信認の低下ということになる。その先には、中央銀行を「クビ」にするという考えが出てきても不思議ではない。

実際、そうした考えは「現代金融理論(MMT)」という形ですでに登場している。

ロイターによると、FRBのブレイナード理事は16日、独自の通貨を持つ国の政府は政府債務残高がどれだけ増加しても問題ないとするMMTについて、経済に関する権限がFRBから議会や政治的意図がある他機関に移るリスクが生じかねない、との見解を示した。また、FRBが物価安定目標を達成できていないことに危機感をにじませつつ、達成に向けて自分たちが取り組むべき課題を列挙した。

FRBは6月4─5日、政策運営を見直すことを視野に入れた会議をシカゴで開催する。連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバーからは、会議に向けて新たな金融政策に関する考えが示されている。FRBの危機感と覚悟は相当なものだろう。

一方、日本では日銀の桜井真審議委員が5月30日に講演し、「物価上昇の遅れだけをことさら問題視して追加緩和に踏み切ることは、金融緩和の副作用とのバランスからみても望ましくない」と表明した。

副作用を理由に物価安定の目標達成の遅れを正当化しているように聞こえるのは、筆者だけであろうか。FRBの危機感と覚悟が示す通り、それだけでは独立性も信認も守れない。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

嶋津洋樹氏(写真は筆者提供)

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。景気循環学会監事。共著に「アベノミクスの真価」。

(編集:久保信博)

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