November 13, 2018 / 6:30 AM / a month ago

コラム:終わらないドル高ストーリー、上値はどこか=植野大作氏

[東京 9日] - 外為市場でドル高・円安が勢いづいている。10月4日にドルは一時114円55銭と約11カ月ぶりの高値圏まで買い進まれた。その後は伸び悩んだが、112円台では押し目買い興味が観測され、底堅く推移している。

 11月13日、内憂外患の政治リスクを抱え込む低金利通貨のユーロを、あえて買い進む理由は見当たらないが、来年のどこかでユーロ/ドル相場は底打ちし、失地回復に向かうと三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏は説く。2016年撮影(2018年 ロイター/Toby Melville)

この先しばらくはドル高・円安の流れが続くだろう。8月安値の109円78銭から、7週間で4円77銭もの値上がりはさすがにスピード違反なので、今後もう少し深めの押し目が入ると期待したいが、少なくとも年内は右肩上がりの傾向が続きそうだ。

以下、そのように考えている理由を4つ挙げておきたい。

第1に、チャートフェイスの見た目の印象が良くなっている。このところのドル高・円安局面で、ドル円の週足は2015年高値の125円台、16年安値の99円台を起点に始まった三角保ち合いを明確に上抜けした。

筆者がトレンド判定の際に重視している52週移動平均線はまだ横這い基調で推移しているので油断は禁物だが、より波長の短い13週線や26週線ははっきり上を向いている。現在、13週線と26週線に続いて26週線と52週線のゴールデンクロスも完成し、テクニカル的にはこれから上値が軽くなりそうな気配が漂い始めている。

<強まる円高抑止力>

第2に、日銀による異例の金融緩和が長期化する中、円高抑止力が強まっている。9月19日の日銀会合では大方の予想通り、短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%前後とする金利操作の継続が確認された。

黒田東彦日銀総裁は同日の記者会見で、一部に根強い、物価目標2%達成前の金融緩和の出口観測について、改めて否定している。日銀が7月会合で導入したフォワード・ガイダンスは、素直に読めば、来年秋に実施される消費増税前の利上げ期待を封印する内容となっていた。

9月には米リーマン危機勃発から10周年を迎えて話題になったが、当時発行された10年日本国債の表面利率は1.5%前後だった。現在、10年国債利回りは0.15%前後で取引されており、この先、満期を迎えた10年債をシンプルにロールすると、クーポン収入は一気に10分の1程度に目減りすることになる。

日銀緩和の時間軸効果が今後一段と累積する中で、円金利だけでは十分な期間収益を確保できなくなる国内投資家が抱える苦悩は一段と深まるだろう。ドル相場がどんなに下がっても買い手が現れないという状況にはなりにくく、押し目買い興味の湧くレベルは地味に底上げされそうだ。

ちなみに、今年3月の円高局面において、「104円台のドル」は2営業日にわたって約26時間で売り切れた。8月の円高局面で1ドル=110円を割り込んだとき、「109円台のドル」は、3時間43分で売り切れている。

第3に、世界貿易戦争の最中にあっても、米国経済は堅調に推移しており、米連邦準備理事会(FRB)が先進国中銀の利上げレースで先頭を独走している。9月の連邦公開市場委員会(FOMC)では2015年末のゼロ金利解除から8度目となる利上げを決定。同時に公開された政策金利の予想分布で16人中12人の圧倒的多数が「年内あと1回」の引き上げ見通しを提示していた。12月の第9次利上げもほぼ確実視されている。

現在、米国の長短金利は、翌日物から超長期に至るまで、利回り曲線のほぼ全域で主要先進国の中で最高水準にある。結果的にドルは現在、先進国同士の通貨ペアを主戦場にした短期の空中戦トレードで空売りコストが一番高い通貨になっており、投資対象としての米ドル債は、先進国で最も金利収入が高い。異例の低金利状態にある日本円に対するドルの地合いは当面買われやすい環境が続くだろう。

<M&Aやリパトリの影響も>

第4に、今年の春先ごろから観測されるドル実効為替指数やドル円の上昇には、日米両国の政治、経済、金融環境とは無関係に染み出てくる「貿易実需」、「合併・買収(M&A)」、「リパトリ」絡みのドル買い切りフローが影響している可能性がある。

既往の原油価格上昇の結果、筆者の簡単な試算によれば、今年8月時点で日本の貿易収支は円決済の黒字が年率約10兆円であるのに対して、ドル決済の赤字が同16兆円程度に膨らんでいる。9月以降に原油先物価格が一段高を記録した影響によって、足元の貿易実需のドル不足は年率7兆円を超えつつあると推測される。

また、今年度に入り発表された日本企業による海外企業の買収案件を並べてみると、累計金額が過去最高を大幅に上回る水準にまで積み上がっている。本稿では個別の案件について詳述する紙幅はないが、既に公表された事案の多くは、「ドル円の買い」を相応の規模で誘発しそうであり、他人の売買に関するうわさ話が大好きな為替関係者の間でまだしばらく話題になる可能性が高い。

加えて、今年から施行された米法人税改革により、米国企業の海外子会社が1月以降に現地で新たに稼いだ利益の国内還流(リパトリ)にかかる税率は、昨年末までの35%から非課税扱いになった。米多国籍企業の多くは四半期決算を採用しており、今年1─3月期の利益処分が話題になる頃からドル実効為替指数が下値を切り上げ始めたのは、一部この影響を受けたとみる向きが増えている。

これから米国は感謝祭からクリスマスまでの何かと物入りな季節を迎える。このため、毎年10─12月期の後半には米国内外でドルが不足しがちであり、1年で最も米国企業のリパトリが盛んになりやすい。歴史的な法人税改革が実施されてから米国が初めて迎えるホリデーシーズンだけに、海外利益のドル転フローがどの程度出てくるかにも注目だ。

これらコーポレート系の実需筋が持ち込むさまざまなドル買い切りフローは、為替水準にそれほど影響されずに一定期間内に出てくるため、チャート上の印象や内外金利差などのファンダメンタルズが示唆するドル円やドル指数の方向性と一致する場合には、右肩上がりの傾向を下から支える「縁の下の力持ち」のような働きをする。

<ドルの上げ余地は>

この先、筆者の読みが当たり、しばらくドル高・円安に振れやすい上値探査が続く場合、目先のレジスタンスは昨年11月高値の114円73銭となる。その後、心理的節目の115円00銭を突破すると、目ぼしい上値めどは2016年高値の118円66銭近辺まで見当たらない。ひとまずその辺りまでは、試そうとするのではないだろうか。

もちろん、米国経済がずっと現在のような勢いで拡大し続ける保証は無い。時期の特定は困難だが、来年以降のどこかで、米国の利上げサイクルが足踏みする時期も来るだろう。今後、米国経済がトランプ政権による輸入関税負担に耐えかねて失速したり、FRBの利上げの行き過ぎによって米金融システムが機能不全を起こしたりする場合には、筆者が唱えてきた「米金融政策の正常化によるドル高ストーリー」は賞味期限切れを迎える。

ただ、現時点でそのような兆候は確認されておらず、パウエル米FRB議長の顔色もまだ明るい。この冬、もしも再び1ドル=110円を試すような局面がきたならば、押し目買いでクリスマスギフトを狙いたいと考えている。

植野大作氏 三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト(写真は筆者提供)

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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 (編集:下郡美紀)

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