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コラム:ユーロドル「4年連続下落」の現実味=植野大作氏
2017年2月6日 / 05:31 / 10ヶ月後

コラム:ユーロドル「4年連続下落」の現実味=植野大作氏

[東京 6日] - 2017年のユーロドル相場は波乱含みで開幕した。1月2日に1ユーロ=1.0520ドルで寄り付いた後、序盤は下値探査が先行、3日には一時1.0341ドルと2003年1月以来の安値圏に差し込んだ。ただ、この水準を大底に反発、2月2日には一時1.0829ドルと昨年12月8日以来の水準に買い戻される場面もあった。

この間、トランプ米大統領、ナバロ米国家通商会議議長らによるドル高・ユーロ安批判がユーロの下値を支えたほか、1月のユーロ圏消費者物価が前年比1.8%と欧州中銀(ECB)の目標である「2%未満で2%近く」に接近したことが、ユーロドル相場の失地回復に寄与した。

ただ、年初来のユーロドル相場の動きについては、「本格的なユーロ反騰の狼煙(のろし)だ」という強気の見方がある一方、「14年ぶり安値圏から8週間ぶり高値圏に復帰しただけ」という冷めた見方が混在している。

ここで改めてユーロドルの年足チャートを眺めると、2014年から16年にかけて3年連続で陰線(年初より年末がユーロ安ドル高、陽線はその逆)を記録している。過去の年足の連続陰線記録は、ユーロ発足直後の1999年から2001年にかけて達成された「3年」が最長だった。

このため、今年のユーロドル相場は「4年連続の陰線」という新記録に挑むことになる。2月初旬までの段階では、初値に比べて300ポイント程度の「陽線貯金」を稼いだが、この程度の序盤でのリードは安全圏とは言い難い。果たして今年は陰陽どちらで引けるのだろうか。

<ユーロの政治的テールリスク>

結論を先に述べると、現時点で筆者は今年年末の着地点を1ユーロ=1.02ドルと予想している。ローソク足本体の厚みは地味ながら、辛うじて「4年連続の年足陰線」という新記録が達成されるとみている。理由は以下の3点だ。

第1に、今年は欧州連合(EU)主要国で政治リスクが山盛りだ。主な予定を確認すると、3月中旬のオランダ総選挙を皮切りに政治イベントの開催が相次ぎ、恐らく3月末までに英国とEUの離脱協議が正式に始まる。その後も、4月から5月にかけてはフランスで大統領選挙、早ければ6月にもイタリアで総選挙、9月以降にはドイツで総選挙が実施される予定である。

これら全ての選挙結果を読み切るのは専門家でも大変だ。一般的には「ユーロ解体」や「EU崩壊」などの破滅シナリオを想起させる結果に直結する可能性は低いとみられているが、多くの市場参加者は、どんなにその可能性が低くても、炸裂した場合にひどく相場が荒れそうな「テールリスク」を抱えた通貨を敬遠しがちだ。

ユーロ圏は1つの通貨圏に19もの国が含まれるだけに、主要国で選挙が相次ぐ時期には、政治絡みの不透明感が台頭する頻度が一気に上がる。少なくとも、経済規模1位のドイツの選挙結果が判明する秋までは、ユーロの上値が目立って軽くなる姿を想像しにくい。

今春頃から始まる英国とEUの離脱協議に関しても、直接的にはユーロポンド市場でのユーロ高・ポンド安要因になりそうだが、ストレートドル(ポンドドルやユーロドルなどドルが絡んだ通貨ペア)市場やクロス円市場では欧州通貨全般に対する上値追いを妨げる心理的な重しになるとみている。

<実需や金融政策によるユーロ高は期待薄>

第2に、シカゴ通貨先物市場のポジションをみると、2015年春までのユーロドル相場の急落局面で一時27.4万枚と過去最大に膨らんでいたユーロ売り持ち高が、最近では6.0万枚まで縮小している。ユーロ売り持ち高が軽くなった分、域内主要国の選挙結果次第でユーロを再び売り進める余地は広がっている。

近年のユーロ圏では経常収支黒字が増加、2015年から国内総生産(GDP)比3%を超えてきたため、「実需のフローで今年はユーロ高になる」との見方もある。だが、為替需給は経常収支だけでは決まらない。14年から16年にかけてユーロドル相場が「3年連続の陰線」を記録したことに示されるように、国境をまたがる資本の流れが変化する方向次第では、GDP比3%程度の経常黒字の影響は消されてしまう。

ちなみに、ユーロ圏の経常黒字の半分以上は域外のEU諸国やスイスから稼いでいるものだ。対米黒字に限れば全体の2割程度にすぎない。全体の黒字額から受ける見た目の印象ほどには、ユーロ高・ドル安要因になっていないのではなかろうか。

第3に、ユーロ圏と米国の金融政策を比較すると、少なくとも年内は政策金利の方向の違いが緩やかなユーロ安・ドル高圧力発生の温床になりそうだ。昨年12月の理事会でECBは今年3月で期限が切れる月額800億ユーロの資産購入プログラムを更新、4月以降は月額600億ユーロに減額したものの、延長期間を市場予想より長めの9カ月としたことで、少なくとも今年12月までは量的緩和を続ける方針が示された。

理事会後の会見でドラギECB総裁は「(最終的に資産購入額をゼロにすることを目指すという意味での)テーパリングは議論しなかった」と明言しており、常識的に考えて、月額600億ユーロの量的緩和を続けている年内に政策金利を引き上げる可能性は低い。

<米経済失速なら4年ぶり陽線もあり得る>

むろん、今年の秋頃には年末に切れる月額600億ユーロの資産購入の後継策を議論する必要があり、その頃には「テーパリング開始」も視野に入ってきそうだ。ただ、かつて米国が量的緩和を縮小した際には、連邦公開市場委員会(FOMC)の開催ごとに100億ドルずつの減額が実施された。2018年1月以降、ECB理事会のたびに100億ユーロずつの減額が実施された場合でも「ECB版テーパリング」の完了は来年の夏頃になる。

ECBが利上げに踏み切るのは、それから十分な物価情勢の観察を行った後になるはずだ。足元でユーロ圏の消費者物価は前年比1.8%まで上昇しているが、半分ぐらいは原油価格上昇の影響であり、「オイルの前年比効果」が剥げる今年末頃には再び1.0%前後へ低下する可能性が高い。ECBの利上げは、恐らく2019年以降になるだろう。

過去十数年間、ユーロドル相場のすう勢は、満期2年程度までの独米金利差でおおむね決まっている。当面は、「緩やかな利上げ継続期待が漂っている米国」と「近未来の利上げ開始が視野に入ってこないユーロ圏」の間に横たわる金融政策の印象格差は縮まりそうにない。先述の政治的不透明感と併せて、ユーロドル相場を「4年連続の陰線」に誘うとみている。

もっとも、世界で最も流動性が高い「ユーロドル」という通貨ペアは「ユーロ価値の指標銘柄」であると同時に「ドル価値の指標銘柄」という性格も併せ持っている。筆者のユーロ安予想は、「米国経済の回復持続」を大前提にしているため、もしも今年中に米国景気が失速した場合、米国側の事情で発生するドル安圧力の受け皿としてユーロが選ばれ、ユーロドル相場が「4年ぶりの陽線」で引ける可能性は残されている。

本稿で述べたように、今年も欧州側の要因だけを見るとユーロに対して強気になれる理由を見いだしにくい。だが、「片側だけの事情」で決まらないのが為替の難しいところだ。

米国の大統領や政府要人らによる理不尽なユーロ安批判の口先介入だけでドル高・ユーロ安の流れを反転させるのは無理だろうが、米国経済が失速した場合はファンダメンタルズ要因に由来する本腰の入ったドル安・ユーロ高圧力が発生し得る。新記録達成の当否にかかわらず、見どころの多い1年間になりそうだ。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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