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コラム:ビットコインはドル円に影響を与えるか=植野大作氏
2017年6月13日 / 02:40 / 5ヶ月後

コラム:ビットコインはドル円に影響を与えるか=植野大作氏

[東京 13日] - 4月1日に改正資金決済法が施行されたことを契機に、各種仮想通貨の普及が日本でも進み、個人投資家の取引への参入が拡大するとの観測が強まっている。

仮想通貨の購入にかかっている消費税が7月からなくなるほか、法律の改正によって仮想通貨の取引業務の取り扱いには財務局への登録が必要になった。利用者や売買参加者の安心感が高まることが期待されている。

現在最も普及している仮想通貨は約8年前に登場した「ビットコイン」であり、ユーザー数は世界で2千万人以上、時価総額も数兆円規模に達しているそうだ。「イーサリアム」や「ライトコイン」など、後続のものも含めると、現在は700種類以上もあるらしい。

商取引の決済における利便性や国内外への送金コストの安さが仮想通貨の利点であり、日本の一般ユーザーの間で「決済手段」としての浸透が今後進めば、本邦在住の個人投資家の間で「資産運用」の対象としての普及が進むと期待する声もある。

良くも悪くも「派手な値動き」が仮想通貨の特徴だが、リスク資産の売買に慣れた一部の個人投資家の中には、そうした価格特性に多大のリスクが潜んでいることを十分承知の上で、大幅な超過収益獲得の源泉にもなり得るとして、むしろ評価する向きもある。

日本仮想通貨事業者協会のホームページで確認すると、6月1日現在で正会員20社、準会員19社、協力会社27社の計66社が参加している。個人投資家に対して提供する金融商品が増えることをビジネス機会として捉える業者側の営業努力や普及活動もあり、この先の展開次第では本邦でも仮想通貨の市場規模が一段と拡大する可能性がある。

このような状況下、筆者が生計を立てている為替アナリスト業界でも、仮想通貨市場への関心が高まっている。最近は業界知己との間で「仮想通貨の普及が進んだ場合、伝統的な通貨同士の為替レートにどのような影響が及ぶのか」をテーマに議論する機会が増えている。

以下、現時点における筆者の見解を述べておきたい。

<「金」に置き換えて考えれば分かりやすい>

結論から先に述べておく。今後、日本国内で仮想通貨の取引が増えるにつれ、ごく短期的には仮想通貨の値動きが伝統的な通貨同士の交換レートのかく乱要因になる機会が散見されるようになるかもしれない。だが、より長期の視点で見ると、仮想通貨の価格変動が直接的な引き金になって、ドル円やユーロ円などの伝統的通貨ペアのトレンドにまで不可逆的な影響が及ぶことはないだろう。

例えば、近年の外国為替保証金(FX)取引業界では、「南アフリカランド円」や「トルコリラ円」などの取引規模の小さい通貨ペアであっても、偶発的な地政学リスクなどに巻き込まれて急落した場合、一時的にせよその影響が他のクロス円やドル円に飛び火して乱高下を引き起こす事例は散見されている。

このため、今後日本で仮想通貨の取引市場が一段と拡大していく場合、大同小異の現象が折に触れて観測されるようになる可能性は否定できない。実際、昨今の仮想通貨市場拡大の背景には、日本のFX取引愛好者の一部が流れ込んでいると言われている。

しかし、繰り返しになるが、仮想通貨は伝統的通貨ペアに対して長期的に不可逆的な影響を及ぼす可能性は低いだろう。この点は、「金」に置き換えて考えてみると、分かりやすい。というのも、いわゆる「無国籍通貨」としての側面に着目すると、仮想通貨は昔から人類に普及している「金」と似ている面もあるからだ。

金価格の乱高下によって日米欧英などの主要通貨圏の経済成長率や国際収支、あるいは金融政策などに甚大な影響が及ぶことは、現代ではまず考えられない。むしろ、ドル建て金価格の方がユーロドル相場にらみで動いたり、欧米の金融政策に影響を受けたりすることの方が多いのが実情だ。

このため、仮想通貨の価格変動は伝統的な主要通貨同士の交換レートに対して、短期的なかく乱要因になることが稀にあっても、骨太のトレンドまで揺さぶることはなさそうだ。むしろ、仮想通貨の各国通貨に対する交換レートの方が、当該諸国の対ドル相場や金融政策の変更などによって影響を受ける度合いが圧倒的に大きいのではなかろうか。

<決済通貨にふさわしくない「派手な値動き」>

あくまで私見だが、近年続々と誕生している諸々の仮想通貨群は、IT技術の進歩によって人類が新たに作り出しそうとしている、「金」よりも持ち運びに便利な次世代における無国籍通貨の「候補生」だと考えている。

金価格の変動について、一般に言われている特徴を挙げると、「各国が発行している伝統的な通貨に比べて乱高下しやすい」「世界の基軸通貨であるドルと反対方向に動きやすい」「主要国の金融政策に価格の上下動が左右される」「地政学リスクが意識される時に買われやすい」「政府に対する国民の信用度が低い国で根強い人気がある」などが思いつく。将来的には一部の仮想通貨にもそのようなイメージが定着する可能性はあるだろう。

もっとも、現時点では仮想通貨の市場規模はまだ非常に小さく、利用者や売買参加者の属性にも相当な偏りがあり、世界中の誰もが「無国籍通貨」としてのステータスを認めている「金」に類似するプライス・アクションの特性が備わっているとは言い難い。

これまでのところ、最近よく名前を聞くようになったいくつかの仮想通貨は、「派手な値動き」を良しとする一部の売買愛好者の投機目的での参加によって存在感を増してきた印象が強い。日常的な「決済手段」としての利便性が注目されて一般ユーザーへの普及が広がっている様子は限定的だ。

最近の値動きを眺めてみても、特段の売買材料になるニュースが全く見当たらない日でも3―5%程度の値動きは頻繁にある。日常使いの「決済手段」としてみた場合、「派手な値動き」は一般利用者の参入を妨げる障害になりかねない。

また、「投資対象」としてみた場合、サイバー空間にのみ存在する諸々の仮想通貨には、実物資産である「金」に備わっている「貴金属」や「工業原材料」としての利用価値はない。保有していれば何らかのキャッシュフローを生み出す「株式」や「債券」のように、適正価値を議論する際の手掛かりになる理論価格の恒等式も今のところ存在しない。

この先、世の中の人々が仮想通貨に対して抱くイメージが、「投機対象」としての美点である「派手な値動き」ばかりに偏り過ぎると、商取引の決済手段としての普及はなかなか進まず、安定的な資産運用の選択肢としての市民権も獲得しにくくなる可能性がある。

このため、現時点では仮想通貨が今後どの程度の速度と面積で本邦の一般ユーザーや個人投資家に普及していくのか不透明だ。為替相場の予測を生業にしている筆者にとって、知的好奇心を刺激される対象であるが、その将来像について正確に予見するのは難しい。

少なくとも現時点では、仮想通貨の値動きが伝統的な通貨ペアのすう勢に地殻変動を及ぼすような事態は想像しにくい。この先も仮想通貨絡みの続報には一定の注意を払いたいが、筆者の日常業務に深く食い込んでくる対象にはならないと考えている。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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