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コラム:衆院選後の円相場シミュレーション=植野大作氏
2017年10月11日 / 05:20 / 4日前

コラム:衆院選後の円相場シミュレーション=植野大作氏

[東京 11日] - 第48回衆議院選挙が10日に公示された。22日の投開票に向け、選挙戦が佳境に入る。9月下旬以降に進んだ野党の再編により、今回の総選挙は「政策の継続を訴える自民・公明の連立与党」「希望の党を中心に政権交代を目指す保守系野党」「立憲民主、共産、社民が集うリベラル系野党」の三極が有権者の支持を争う構図になっている。

「消費税」「原発」「憲法」「安保」などをテーマにさまざまな論争が展開されているが、大ざっぱに捉えるなら「安倍晋三内閣存続の是非」を問う国民審判の様相を呈している。以下、今回の衆院選の結果がドル円相場に与える影響について、考え方を整理しておきたい。

<与党大勝なら派手めの株高・円安か>

まず、自民党と公明党の合計で新定数465議席の3分の2に当たる310以上を獲得した場合、連立与党が「望外の大勝」を果たしたとの市場評価が広がりそうだ。現在の枠組みのまま安倍政権が長期化することにより、財政政策では、自民党の公約である「消費増税の使途変更による教育支援」が動き出すとの期待が高まる一方、基礎的財政収支の黒字化目標先送りによる財政規律の弛緩懸念が地味に強まるだろう。

金融政策の面でも、自公政権存続なら来年4月に任期を迎える黒田東彦・日銀総裁の後任は安倍内閣が任命する。続投の場合はもちろんだが、誰かに代わる場合でも現行政策を引き継ぐ人選になる可能性が高い。現状では相当難しそうな「物価目標2%」の達成や上振れを目指し、「短期金利=マイナス0.1%、長期金利=0.0%程度」の金利操作に終了期限を定めないマネー膨張策を組み合わせた異次元緩和の長期化観測が広がるだろう。

ごく一般論として、リフレ志向の強い安定政権の継続は、株式市場には好まれやすい。「国政選挙のたびに財政再建を先送りする政府を日銀が大量の国債購入で支え続ける」という財政赤字ファイナンスの構図が強まることは、他の条件が一定なら円安期待を生みやすい。与党大勝の場合、市場の初期反応は一時的にせよ少し派手めの株高・円安になりそうだ。

次に、自民党単独で過半数の233以上を確保できた場合を考えてみたい。公明党の議席が解散時の35から極端に減らなければ、連立与党の合計で「絶対安定多数」の261か「安定多数」の244以上は維持される可能性が高い。

自民党の議席減により、安倍首相の求心力は多少落ちるだろうが、選挙後の国会運営に支障の出ない数が確保できれば、少なくとも来年9月の自民党総裁選までは安倍内閣の存続が見込めそうだ。市場の初期反応は上記の「与党大勝シナリオ」と大同小異であり、基本的には株高・円安に振れる可能性が高いだろう。

<自民過半数割れならシナリオは枝分かれ>

では、自民党が単独で過半数を維持できなかった場合はどうだろうか。この場合は各党の獲得議席やその後の動きによって、以下に示す千差万別のサブシナリオが複雑に枝分かれすることになるだろう。

まず、公明党が善戦して自公合わせて過半数を確保できた場合、安倍首相が設定した連立与党の「勝敗ライン」は辛うじて死守される。即座の首相退陣はないかもしれないが、自民党内部の「政局」に発展する可能性はありそうだ。

来年9月の総裁選をにらんで「ポスト安倍」の動きが蠢動(しゅんどう)するなら、首相の求心力は大きく低下する。「アベノミクスの推進基盤が液状化する」との見方が市場に広がれば、いわゆる「アベキャリートレード」の巻き戻しが誘発される可能性があり、マーケットの初期反応としては一時的にせよ株安・円高に振れそうだ。

また、このケースでは与野党すべてが入り混じる政界再編が始まる可能性にも要注意だ。安倍首相の賭けが裏目に出て自民党が過半数を失う大敗を喫した場合、他政党の動きや無所属議員の去就次第では、現在の連立の枠組みが変わる可能性も否定はできない。

選挙前の微妙な時期なので、具体的な言及は慎むが、例えば今回の選挙で「キャスティングボートを握ることになった政党」が次期首相を身内から輩出することを条件に、自民党以外の勢力と組んで新たな連立を模索する誘いに乗る可能性もゼロとは言えない。

この場合、これまで4年以上のロングランを続けてきたアベノミクス劇場の主役が突如降板することになる。主役の交代後に展開される経済政策への不透明感を背景に市場の初期反応は上記より強い株安・円高になる可能性がありそうだ。

他方、希望の党の小池百合子代表は、8日の党首討論で選挙後の大連立の可能性について完全には否定しなかった。保守系の国会勢力で大連立が成立した場合、次の国政選挙まで激しい政争はいったん停止、長年の悲願である憲法改正の議論が煮詰まるまで、安倍政権の存続観測が逆に長期化するかもしれない。

この場合、市場の反応読みは最も難解になる。「自民党の過半数割れ」が嫌気されて、ひとまず株安・円高に振れそうだが、その後の政策次第でさまざまな解釈が錯綜しそうだ。大連立政権の下では「憲法改正の優先順位が高まって経済政策は後回しになる」との見方が高まれば、株価や為替は不安定化するかもしれない。ただ、「憲法改正の円滑な進行と同時にアベノミクスも継続される」との観測が強まれば、株高・円安圧力が高まることも考えられる。

<ユリノミクスはアベノミクス相場の逆流招くか>

ちなみに、今回の総選挙で自民党と公明党以外の野党勢力は、すべて2019年10月の消費増税に反対、凍結や中止を主張している。「消費増税の使途拡大」や「財政健全化目標の先送り」を主張している現在の与党が選挙後にどこを取り込んで連立を組んだとしても、長期的にみた財政規律の弛緩懸念は現状より強まる可能性がある。

金融政策についても、希望の党の小池代表は6日、ロイターのインタビューで、株式市場への影響も配慮の上、現在の黒田緩和の方向性を支持すると述べている。市場では、「誰が次期首相になっても就任直後に株価が急落するような事態は望まない」との冷めた見方も出始めている。いずれにせよ、自民党の過半数割れを契機に政局が動いた場合は、「初期反応は円高、その後は政策次第」という雰囲気になるだろう。

最後に、連立与党の議席が過半数を割った場合はどうだろうか。まず、安倍首相の退陣はほぼ確実だ。その後、もしも希望の党が自民以外の保守勢力と組んで次期首相を輩出するなら、東京都知事の名を冠した「ユリノミクス」を他の誰かが首相になって国政レベルで推進する、という謎の構図を市場が評価しなければならなくなる。

日本人でもよく分からないので、外国人にはより一層分かりにくいだろう。日本の経済政策運営の舵取りに対して不透明感を抱いた市場関係者は、ひとまず既存ポジションの整理に動く可能性が高い。「アベノミクス相場の逆流観測」による市場の初期反応は、上記いずれのケースよりも強烈な株安・円高になりそうだ。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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