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コラム:ドル115円突破は時間の問題か、3つの追い風=植野大作氏
2017年11月6日 / 05:31 / 10日後

コラム:ドル115円突破は時間の問題か、3つの追い風=植野大作氏

[東京 6日] - 今年度のドル円相場は1ドル=110円を割ると底堅い一方、114円台では伸び悩み、延々7カ月以上もレンジ取引の呪縛にはまっている。

「ジッとしているのが苦手」という売買参加者が非常に多く在籍している為替市場の特性上、未来永劫のレンジ取引が続くことだけはあり得ない。抑圧された動意欲求が解放された暁には、意外な速度や値幅で急に動き始めることがよくある。

為替アナリスト業界では現在、円高派と円安派の意見が真っ二つに分かれているが、恐らく今年度の下期には為替の神様の審判が下るだろう。以下、現時点における筆者の見解を開陳しておく。

<ドル高示唆するアノマリーと米景気の底堅さ>

結論から先に述べると、筆者は現在、ドル高・円安派の陣営に所属しており、早ければ年内にも1ドル=115円の壁を突破する可能性があるとみている。理由を3つ挙げておく。

第1に、毎年10―12月期に入ると、市場関係者の間で「年末ドル高のアノマリー(経験則)」が意識されやすい。例年この時期、米国では10月末のハロウィーン、11月下旬の感謝祭を経て12月下旬のクリスマスから年末へ続く「お祭りシーズン」や「帳簿締めシーズン」に突入するため、米国内でドル資金への需要が強まりやすく、米系多国籍企業による本国への資金還流が起きるとの思惑も強まりがちだ。

日本側でも、10月に会計年度下期が始まると「年度末の数字作りをにらんで機関投資家の対外投資が動き出す」との観測が出やすいほか、日本の外国為替証拠金(FX)取引愛好者の益出しによる外貨ロングの処分も確定申告との絡みで翌年年明け以降に持ち越される傾向がある。

このため、毎年10月下旬から年末に向けては季節的な為替需給トークがドル高・円安方向に傾きやすい。実際、近年のドル円相場は過去5年連続で年末最終営業日の引け値が10月の始まり値よりも高くなっている。

第2に、足元の米国景気は依然、堅調だ。米国は今月で景気拡大101カ月目を迎えており、「そろそろ息切れする」との意見も根強いが、「景気がおよそ40カ月程度で好不況を繰り返す」という在庫循環を発見した経済学者ジョセフ・キチンがその論文を発表したのは、オールドエコノミー全盛の1923年(大正12年)とかなり昔だ。

現在、米国の国内総生産(GDP)の内訳を生産部門別にみると、在庫循環の源である製造業の比率は3割を切っており、6割以上のシェアが在庫を持たないサービス産業に占められている。今から90年以上も昔に100年以上前のデータを使って抽出された「キチン・サイクル」のマクロ景気全体に及ぼす影響は薄まっている可能性がある。

実際、米供給管理協会(ISM)発表の景況指数で確認すると、これまで101カ月続いてきた景気拡大局面で、製造業はすでに2回も浅めの景気後退に陥っていたことが確認されている。ただ、製造業の倍以上の付加価値を生み出すサービス業がこの間ずっと景気の分水嶺を割り込まなかったため、米国経済全体は後退に陥るのを免れた。

足元のISM景況指数は、製造業、非製造業ともに高水準にあり、今すぐ失速しそうな気配はない。前回の景気後退期(2007年12月―2009年6月)は未曽有の金融危機の影響で戦後最長の18カ月も続いたため、景気の谷底が非常に深いところまで落ちている。このため、景気の山に登り切るまでの期間も逆に長くなる可能性も否定できない。

過去の記録をみると、米国景気の拡大期の長さでは1991年から2001年まで続いた120カ月が最長だ。現在継続中の拡大記録がもしもこれに並びかけるなら、まだあと1年半かそれ以上の寿命が残っていることになる。米国景気の早期失速観測に基づくドル安・円高ストーリーは当面、実現の見込みが低そうだ。

<押し目買いの水準は地味にアップ>

第3に、ドル円相場の骨太のトレンドを決める日米両国の金融政策格差は、今後も一段と広がる可能性が高い。筆者の見立て通り、今後も米国景気の拡大が続くなら、米連邦準備理事会(FRB)は今年末以降も断続的な利上げを実施、すでに公表済みの保有債券縮小計画にのっとって、かつての金融危機対応で大量に散布したドル資金の回収も粛々と進みそうだ。

「FRBが保有資産の縮小と同時に利上げを進めれば米国内外で株価が値崩れしてリスクオフの円高圧力が高まる」との見方も一部に根強いため、そうした議論の真贋(しんがん)を今後慎重に見極める必要はある。

だが、事前の情報公開を含めた「市場との対話」に十分な時間をかけてから、非常にゆっくりと金融政策の正常化を進めるイエレンFRB議長の手法が奏功し、今のところそれらの懸念は現実のものとなっていない。次期FRB議長に昇格することが決まったパウエル理事も同じ路線を踏襲するとの見方が一般的だ。

一方、日本の金融政策に目を転じると、先の衆院選で大勝した安倍晋三政権の存続により、来年4月に任期満了を迎える黒田東彦日銀総裁の後任は、続投の可能性も含め、現行路線の継続を目指す人選になりそうだ。「物価目標2%」の達成が視野に入ってこないなか、「短期金利=マイナス0.1%、長期金利=ゼロ%程度」の超低金利政策は長期化する可能性が濃厚だ。現在の日銀執行部が「インフレ実績の目標上振れ約束(オーバーシュート型コミットメント)」を撤回しない限り、日本のマネタリーベースがオープンエンドで増加する仕組みも長期化する。

国政選挙の度に財政規律を緩めがちな政府を日銀が大量の国債購入と超低金利政策で支え続ける、という間接的な赤字ファイナンスの構図が長期化すれば、水面下では悪い円安圧力の蓄積が進む可能性がある。米国以外の主要通貨圏も金融政策の正常化に動き始めているなか、この先、日銀が追加緩和を実施しなくても他国との格差は一層開いていくだろう。

加えて、日銀による超低金利政策が長引くことによる「時間軸効果」も見逃せない。過去に仕込んだ高利回りの債券から順に償還を迎えてポートフォリオから退出していくなか、国内金融機関や公益諸法人などの有価証券運用部門に割り振られている年度予算の重圧は、今後も期を追うごとに増しそうだ。

日銀の低金利政策の影響により、円建て債券だけでは十分な金利収入を得られない状況が長引けば長引くほど、国内投資家が相応の運用利回りを稼ぐにはこれまで以上に多様なリスクを取る必要性に迫られる。来年3月末まで何のリスクも取らず「目標収益の未達」を上司やスポンサーに報告しにくい立場にある人々にとって、リスク摂取の選択肢の1つとして外貨建て有価証券も考慮せざるを得ない状況が続きそうだ。

ドル円相場が円高方向に差し込むと湧出してくる国内投資家の押し目買い興味は、昨年は1ドル=105円割れから99円台までの水準で強まる様子が観測されたが、今年度上期にはそのレベルが110円割れから下のレベルへ地味にアップした印象がある。引き続き、ドル円相場の下値サポートに効力を発揮するだろう。

今後、米国経済に対する筆者の楽観的な見立てが外れて失速懸念が広がる場合は海外発のドル安圧力が日本の水際に押し寄せ、日銀緩和の力だけで防ぎ切れない円高が進む可能性はある。だが、今のところ、そのようなリスクシナリオの実現確率が高まっているとは思えない。年内のドル円トレードについては、押し目買い戦略を基本に据えて臨みたい。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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