December 19, 2017 / 6:32 AM / a month ago

コラム:日銀緩和3つの出口と円相場シナリオ=植野大作氏

[東京 19日] - 日銀緩和の出口論が活発になっている。火付け役は黒田東彦・日銀総裁だ。黒田総裁は11月13日、金利が下がり過ぎると金融緩和の効果が逆に減衰するという「リバーサル・レート」の議論に言及、市場関係者の間でその真意を巡る忖度(そんたく)が始まった。

当初は「安倍晋三首相に近いリフレ派による『金融緩和は不十分』との批判に対する反論だ」との見方が有力だった。だが、最近は「日銀緩和はもう限界で、副作用も懸念されるため出口に向かう準備を始めた」との見方も増えている。

以下、最近語られている日銀緩和の出口オプションを概観し、実施された場合の為替相場への影響などについて「頭の体操」を試みたい。主な選択肢は3つある。

<マネー膨張に歯止めかけるか>

第1は長期国債購入の減額だが、これはすでに始まっている。2016年夏から秋に行った「総括的な検証」を経て、日銀は金融政策の主な目標を「量」から「金利」に転換、現在は長期金利を0%程度に誘導するよう国債の購入量や手法を調整している。

2013年4月の異次元緩和開始から猛烈な勢いで大量の国債を購入、総括的な検証の後は必要に応じて「指値オペ」を打つなどの工夫を施した結果、最近は日銀が昔ほど国債を買わなくても長期金利を0%程度に誘導できるようになった。このため、2017年に入り日銀は年80兆円程度に設定した国債の買い入れめどを使い切る必要がなくなり、最近は半分近くで済んでいる。

日銀による国債購入は今後も減る可能性がある。だが、それだけなら為替への影響は軽微だろう。日銀による国債買い入れが減り始めた当初は、「こっそり行う資産購入の減額(ステルス・テーパリング)だ」との思惑を背景に円高が進む場面もあったが、最近は日銀が長期金利を0%程度に誘導するよう購入額を調節することが「周知の事実」になっている。

このため、日銀による国債買い入れの減額はもはや「ステルス」ではなくなり、それをネタに円高観測が高まることもなくなっている。「年80兆円程度」の国債購入のめどは形骸化してもまだ残っているので、日銀が望まぬ金利上昇圧力が強まった時に買い入れを増やして抑えることは可能であり、それでもダメな場合は「指値オペ」という切り札もある。

金融政策の「量」の側面に注目しても、日銀は現在、「物価上昇率の実績を目標2%から上振れさせる」と市場に約束しており、それが実現するまでは金額の多寡にかかわらずマネーを増やし続ける方針を堅持している。

これを他の主要中銀と比べてみると、米連邦準備理事会(FRB)は2017年10月から能動的に保有債券残高の圧縮を始めており、欧州中央銀行(ECB)も2018年1年から毎月の資産購入金額を300億ユーロに半減、9月まで続けた後の延長は確約していない。

世界3大中央銀行の中で、終了期限や継続期限の区切りを定めずにマネーの膨張を確約しているのは日銀だけだ。日銀が長期金利の上昇を許容しない姿勢を維持している限り、自然体で国債購入額が減るだけでは為替市場で材料視されないだろう。

<円高ショックが走る選択肢>

第2は長期金利の目標引き上げだ。今のところ、日銀は短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に誘導する現在の政策が物価目標2%を目指す上で最適だと主張しているが、それならなぜ、黒田総裁はあえて11月に「リバーサル・レート」に言及したのか疑問は残る。「綸言(りんげん)汗の如し」の格言よろしく、あの日を契機に国内外の市場関係者は金融政策の「次の一手」が利上げになる可能性を意識せざるを得なくなっている。

日銀による超低金利政策が国内金融機関の経営を圧迫していることは明白だ。このため、黒田総裁が「リバーサル・レート」に言及したことを歓迎する声も上がっている。

ただ、日銀が利上げを実施する場合、相当うまくやらないと、金融・為替市場が混乱に陥るリスクがある。現在、日銀が利上げするなら長期金利の目標は0.2―0.3%に引き上げられるとの見方が大勢だが、その程度の利上げなら、たぶん「焼け石に水」だ。やらないよりはマシだが、それで金融機関の経営が急に楽になるわけではない。

他方、日銀が利上げを行うと普通は円高圧力が生じるので、事前に十分な市場との対話を実施せずに断行すると、為替市場にかなりの円高ショックが走る可能性がある。国内金融機関への配慮から利上げ幅を大きくするほど、その度合いは強くなるだろう。

このため、日銀が長期金利の誘導目標引き上げを正式には発表せず、例えば海外からの金利上昇圧力が日本に伝染してきた時にそれを黙認するなどのやり方も考えられる。だが、その場合は「日銀によるステルス利上げの上限」を探る動きが活発化、「指値オペ」の催促に日銀が応じるまで、長期金利が上昇し続ける可能性もある。

恐らくその間、為替市場では日銀の政策に対する疑心暗鬼をテーマにした円高圧力が強まり、日本の株価にも下落圧力がかかる可能性が高い。この先、日銀が適切な利上げの時期を探る場合、当該時点における市場環境の見極めが極めて重要になる。

あくまで私見だが、将来どこかで日銀が利上げに踏み切る際には、米国の金利が十分に上昇して為替が円安に振れているなどの条件が整い、利上げ後に多少円高が進んでも首相周辺のリフレ派や株式市場関係者から極端なブーイングが出ない程度の「米日金利差のクッション」や「ドル高・円安のノリシロ」が必要なのではなかろうか。

為替が1ドル=110円前後で利上げを実施すると、当該時点の市場環境次第ではすぐに105円割れや100円割れを招いて物価目標2%が遠のきかねない。その場合、「次の一手」は利上げだが、「その次の一手」は再び利下げに追い込まれる可能性もある。安全策を採るなら120円台以上に上昇してからが無難だろう。

<株式相場が恐れるパンドラの箱>

第3は上場投資信託(ETF)購入の見直しだ。2013年4月に異次元緩和を始めた当初、年1兆円だった日銀のETF購入は、その後2度増額され、現在は年6兆円になっている。中央銀行がオープン・エンドで株を買い続ける政策は、世界的にも極めて異例だ。

日銀は現在、企業業績や経営の巧拙と無関係に上場株式を購入し続けており、本来なら信賞必罰であるべき市場の価格形成を損なっている可能性がある。このため、「日銀が金融緩和の出口を模索するなら、真っ先に見直すべきはETF購入だ」との意見も少なくない。

いったん始めた株の購入を減らすのは政治的に難しいのかもしれない。だが、「日経平均が四半世紀ぶりの高値圏でも減額すらできないなら、一体いつ止められるのか」という声もある。筆者は株の専門家ではないが、素人目に見てもかなり特殊な金融緩和だ。ずっと続けて良い政策ではないとの印象を持っている。

ただ、現時点で日銀は、ETF購入見直しの可能性を市場に織り込ませるコミュニケーションを始めていない。現在行っているETFの買い入れは、物価目標の達成に必要な政策パッケージの一部であり、当面は継続が妥当との見解を維持している。

「日銀によるETF購入の減額」は、やると株価が急落するかもしれない怖さがある。このため、市場関係者もあえてその話題に深入りせず、「パンドラの箱」のような扱いを受けている。ずっと続けられる政策ではないが、当面は日銀による啓示待ちが続きそうだ。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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