January 10, 2018 / 4:53 AM / 12 days ago

コラム:「人民元安ショック」再発は杞憂か=植野大作氏

[東京 10日] - 中国人民元の下落に歯止めがかかっている。2014年から2016年まで3年連続で陽線(ドル高・元安)引けを記録していたドル人民元相場は、2017年に入って元高基調に転換、4年ぶりの陰線(ドル安・元高)で引けた。年足チャートを眺めると、見た目にもかなりインパクトのある大陰線が出現している。

この間の動きを細かくみると、2016年末の上海市場で一時1ドル=6.9649元と、約8年7カ月ぶりの元安水準を記録しているが、そこから徐々に切り返し、2017年秋には一時6.4390元と約1年9カ月ぶりの元高水準に復帰している。

その後はいったん元安方向に小戻す場面もあったが、1ドル=6.70元の手前では底堅く、2018年の年明けは、6.50元前後でのスタートになっている。

人民元の安定は2018年も続くのだろうか。歴史的な世界同時株高で開幕した2018年のマーケットに潜むリスク要因として「人民元安ショックの再来」を警戒する向きは少なくない。以下、2017年に観測された人民元反発の背景と今後の展開について考えてみたい。

<中国当局が通貨売り投機を一蹴>

人民元安定の契機となったのは、2017年初頭に中国人民銀行(PBOC)が示した為替政策の転換だ。同年1月5日、PBOCはオフショア市場で人民元の流動性を突然絞り込み、香港インターバンク市場の翌日物金利を一時年率60%超の水準に急騰させた。

PBOCがなぜそのようなオペレーションに踏み切ったのか、例によって理由は不明だ。だが、当時の市場環境から推測するに、一部欧米系のメディアや金融機関などによって喧伝されていた「中国経済・金融市場のメルトダウン説」に立脚した海外短期筋による元売り投機を戒めることが目的だったとの説がもっぱらだ。

人民元の借り入れによる空売り投機を仕掛けていたと噂されるプレイヤーにとって、「年率60%超」という闇金もビックリするような超高金利を一瞬でも見せつけられたことは大きなショックだったはずだ。

もともと、中国は経常収支や貿易収支の安定的な黒字国である。このため、「実需の元買い」を恒常的かつ大幅に上回る長期資本の海外流出がなければ、人民元の減価が一方的に続く為替需給構造にはなりにくい。

実際、2017年1月を境に元安の流れは淀んでおり、当時盛んに報じられていた「中国の汚職官僚や個人マネーの海外逃避による元安ストーリー」は、全てが虚構ではなかったにせよ、元売り投機を仕掛けていた側のポジション・トークで誇張されていた可能性もある。

ちなみに、中国からの資金流出圧力の強弱を測定する手掛かりである外貨準備の動きをみると、2017年春頃から再び地味に増えている。自然体でその状態に戻ったかどうかについては議論の余地もあるが、PBOCが望まぬ元売りを抑止する際には、先述の流動性圧縮以外にも、行政指導や規制強化による資本流出の制限や、一般には報じられていない懲罰的な手段なども用いられたのではないかと言われている。

国際資本フローが完全に自由化されておらず、さまざまな手段を用いた政府の市場介入がいまだに可能な中国では、「実需の元買い」を恒常的に凌駕し続ける元売り投機を仮需筋が仕掛け続けて勝利を収めるのは難しいのかもしれない。

かつて1990年代に英国やイタリアを為替レートメカニズム(ERM)からの離脱に追い込んだり、アジア諸国を通貨危機に陥れたりすることに成功したと言われている筋の面々は、今回は通貨売り投機で喧嘩を売る相手の力量を読み間違えたと言えそうだ。

<米金融政策正常化の影響は>

蛇足になるかもしれないが、2017年5月にPBOCは上海市場で日々公表する人民元の基準値算定方式を改めた。例によって、詳細は明かされていないが、現行の管理フロート制導入後、断続的に進めてきた柔軟化の方針を転換、元安方向に基準値が動きにくいような算式に変更されたとみられている。

2005年7月に管理フロート制を導入して以来、「人民元の国際化」を標榜する中国政府は、その象徴的な成果である国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)への元の組み入れを目指して各種の柔軟化措置を講じてきたが、「十年越しの悲願」が2015年11月の理事会で承認されたこともあり、当面は元の国際化に不可欠な価格形成の自由化を逆行させてでも、金融・為替市場の安定を重視する方針に転換したようだ。

ただ、問題なのはその持続性だ。国内外の市場関係者の間では、人民元の安定が本物かどうか疑う声も小さくない。最近の経済指標をみる限り、中国景気も随分良くなってきたようにみえるが、中国政府が発表する指標の信憑性自体を疑う向きもあり、「習近平国家主席の権力基盤確立後の中国景気失速説」も一部では根強くささやかれている。

米中両国の金融政策に目を転じても、PBOCが「穏健な金融政策」を続ける一方で、米連邦準備理事会(FRB)が「金融政策の正常化」を粛々と進めるなら、ドル高・元安圧力が再燃する可能性もある。実際、ドル人民元の1年先物市場では、現物よりも小幅ながら元安水準での取引が続いており、2017年のような元高が2018年も続くとは限らないとみている市場関係者は多い。

もっとも、PBOCが「人民元の安定」を重視する方針を改めない限り、一昨年までのような一方的な元安が進む可能性も低い。2017年12月14日にPBOCはリバースレポの金利と期間1年の中期貸出金利を0.05%引き上げたが、FRBが利上げを実施した翌日の出来事だったため、「元安圧力の緩和を狙った措置だった」との見方が一般的だ。

米中間の金融政策格差を背景に自然体でドル高・元安が進む分には中国の輸出競争力が改善するメリットもある。だが、それを放置し過ぎて「PBOCが元安是認に転じた」との観測が広がると、中国人マネーの海外逃避観測を刺激して国内の株式市場が不安定化したり、中国企業のドル建て債務の返済負担が増したりして、かえって経済にマイナスの影響を与えることが、近年の苦い経験則によって中国当局にも認知されている。

国際政治・外交政策の面からみても、最近明らかにした国家安全保障政策の基本方針で中国を「あらゆる分野での戦略上の競争相手」と明確に位置づけ、中国相手の巨額の貿易赤字を問題視していることを公言して止まない米国のトランプ大統領を刺激しない配慮も必要だ。

当面、中国政府は大幅な元安も元高も許容しない為替政策の運用を続けるのではなかろうか。2015年8月に起きたPBOCの方針転換による人為的かつ強烈な「人民元安ショック」が再発する可能性は、しばらく低いと考えている。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below