May 1, 2018 / 9:14 AM / 16 days ago

コラム:仮想通貨進化論、次の地殻変動に備えよ=植野大作氏

植野大作 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト

 5月1日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト、植野大作氏は、 近年続々と誕生している仮想通貨は技術進歩によって人類が新たに生み出しつつある次世代の無国籍通貨候補生だと指摘。写真はビットコインのイメージ画、ボスニア・ヘルツェゴビナで2017年12月撮影(2018年 ロイター/Dado Ruvic)

[東京 1日] - 仮想通貨の乱高下が著しい。代表的な仮想通貨であるビットコインは昨年12月に240万円目前まで急騰した後に暴落、今年1月に日本の交換業者コインチェックからNEM(ネム)の巨額盗難事件が起きた後、2月上旬には一時65万円前後まで下落した。

2017年4月に仮想通貨を決済手段として認める改正資金決済法が施行される直前のビットコインの価格は12万円前後だった。この間、ビットコインは約8カ月間で20倍近くも暴騰した後、約2カ月間で7割以上も急落したことになる。

その後は再び8割を超えて上昇、わずか数週間後には120万円前後まで値上がりしたが、海外の著名ネット企業による広告禁止の決定や金融庁の対応による一部業者の廃業報道などが嫌気されると一転下落、再び70万円前後まで売り込まれた。

ただ、この水準では底堅く、業界の自主規制団体である日本仮想通貨交換業協会の設立が好感されると反発、最近は100万円前後で売買が錯綜(さくそう)している。この間に観測されたビットコイン円の価格変動は、主要な法定外貨に対する円レートとは比べ物にならない激しさだ。

<今後も規制が思わぬ価格変動要因に>

今後も仮想通貨は荒い上下動を繰り返し、「派手な値動き」を好む売買参加者にとっては魅力的に映る損益機会を提供し続けるだろう。仮想通貨のマーケットはまだ誕生して間もない黎明(れいめい)期にあるため、新規の売買愛好者の参入が続き、運用資産の多様化を図る投資家の資金の一部が流入してくるだけでも価格上昇圧力が強まるとの観測は根強い。

ただ、近年次々に起業した仮想通貨交換業者の中には、「顧客資産の分別管理」という基本すら出来ておらず、「悪意を持つ第三者」による不正なアクセスへの対策が必ずしも十分ではない状態で営業していたものも混在していたようだ。

IT技術の進歩によって生み出された仮想通貨は日々種類が増えている最中にあり、それらの中には非常に匿名性の高い越境取引が可能なものが混在していることを問題視する声もある。今後も投資家や利用者の保護、反社会的勢力による資金洗浄阻止などの観点から必要な規制の整備が、各国の政府や業界団体によって進むとみられている。

現在、仮想通貨の種類は1500を超えており、「通貨」というより「資産」に近い性格を持つものや、貸すと金利が付くものもあるため、今後日本においては犯罪収益移転防止法のみならず、金融商品取引法や資金決済法、貸金業法などの対象になる可能性があるほか、上限金利や取引倍率の規制など、さまざまなルールの適用を新たに受ける可能性がある。

日本を含む各国当局による新たな規制が仮想通貨に対して適用される場合、市場のイニシャル・リアクションは仮想通貨安となるケースが多い。昨年4月に施行された改正資金決済法で仮想通貨を決済手段として認めたことが、「当局によるお墨付きを得た」と解釈されて仮想通貨高騰の一因となったことは、金融庁にとって誤算だったようだ。

今のところ、サイバー空間に存在するブロックチェーン(分散台帳)には、「適正な価格」を測る物差しが発見されていない。このため、市場参加者の心象変化が引き起こす仮想通貨の価格変動は、法定通貨同士の交換レート以上に派手になりがちだ。今後も仮想通貨に対する規制の強化や見直しが、思わぬ価格変動を引き起こす可能性はあるだろう。

<次世代の「無国籍通貨」候補>

もっとも、昨今観測されている仮想通貨の乱高下や規制強化の動きは、同業界の暗たんたる未来を示唆しているわけではない。「サイバー空間に存在する仮想通貨には本源的な価値がない」という批判を最近よく耳にするが、われわれが現在の管理通貨制度の下で日々何の疑いもなく利用している紙幣は、貴金属などの本位による裏付けのない紙片に印刷された単なる数字やデザインにすぎない。

われわれの祖先が長い歴史の中でこれまで発達させてきた通貨の素材自体は、貝殻、貴金属、紙片など、発行者や利用者の利便性を追求しながら大きく変化し続けている。仮想通貨の素材が分散台帳の技術を用いた取引記録であることは、通貨またはその代替物として普及することの妨げにはならないだろう。

近年急速に市場規模が拡大したビットコインなどの仮想通貨は、良くも悪くも値動きが派手であるため、「通貨の三大機能」に照らした場合、日常使いの決済手段としては利用しにくく、価値の測定、あるいは保蔵手段としての安定感も欠いている。現状では投機や投資を目的に仮想通貨売買に参加する人々がほとんどであるのが実情だ。

ただ、世の中には「値動きの良さ」をもって良しとする投資家や投機家が、ある程度の割合で存在しているのも事実だ。そのような価値観を共有する人々や組織の間で自己責任による取引継続の合意が形成され、社会的・法的にみて深刻な問題を惹起する事故を防止するのに必要な技術の開発や規制の整備が進むなら、今後も仮想通貨売買参加者の裾野が広がる可能性はある。

あくまで私見だが、近年続々と誕生している仮想通貨は、技術進歩によって人類が新たに生み出しつつある次世代の無国籍通貨候補生だと考えている。値動きがあまりに激し過ぎる仮想通貨は、現時点では日常の決済手段に適していないが、民間の銀行などが発行への取り組みを最近始めたデジタル通貨の中には、法定通貨との交換レートの変動を一定程度に抑える仕組みを考案中のものもあるようだ。

世界各国でそのまま使える仮想通貨の中で、ありふれた日常使いの決済手段としてのプレゼンスを確立、将来的に圧倒的なシェアを獲得するものが誕生するなら、法定通貨との交換レートの過度の変動は、ある程度まで自然に抑制される可能性もある。

<法定通貨のデジタル化も不可逆的か>

加えて、より注目すべきなのは、各国の中央銀行が自国通貨単位で法定デジタル通貨の発行を目指す取り組みを始めていることだ。2017年11月に「eペソ」の試用を始めたウルグアイ中銀が世界初だったといわれているが、その後もカナダ、シンガポール、中国などの中銀が実証実験を行っているほか、スウェーデン、ロシアなどでも発行計画が進んでいるようだ。

今のところ、日本では法定デジタル通貨発行の動きは始まっていない。だが、仮に日銀発行の「デジタル円」の流通量が日銀券を凌駕するような未来を想像した場合、いわゆる仮想通貨の中で投機や投資を主な目的に売買されるものと、商取引や金融取引の決済手段として利用されるものとのすみ分けや役割分担が進むことになるだろう。

過去、貴金属貨幣の流通量が紙幣に凌駕されたのは通貨史の必然だった。法定通貨のデジタル化も不可逆的に進む可能性が高いのではなかろうか。

現在は各種仮想通貨の開発や普及が進み始めて間もないため、その一部が反社会的勢力に悪用されたり、交換業者からの盗難・流出事件が世の中を騒がせたりと、人々の心象を悪くする事例が最近相次いでいるが、その基盤となっている分散台帳の技術自体の優秀性に関する社会的認知も同時に進みつつある。

古今東西、人間社会の営みに大変革をもたらす画期的な技術ほど、普及の初期段階では悪用される事例が目立つこともある。だが、技術の悪用を試みる組織や人物が存在することと、当該技術の社会的な利用価値の高さは全くの別物だ。各種仮想通貨の「健全な普及」を促す今後の技術進歩、業界独自のガイドライン、各国当局による規制の動きに注目したい。

植野大作 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト(写真は筆者提供)

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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