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コラム:売られ過ぎた豪ドルに投資妙味=植野大作氏

[東京 19日] - 豪ドル円の乱高下が著しい。6月23日の英国民投票で欧州連合(EU)離脱が決定したことを受けて、24日の東京市場では一時72.53円と2011年10月以来の安値圏へ差し込む場面があった。

 7月19日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト、植野大作氏は、1豪ドル=85円超の水準での上値追いは慎みたいものの、80円割れ水準では「買い下がり」戦略がお勧めだと指摘。提供写真(2016年 ロイター)

ただ、その後は一気に切り返し、7月15日には一時81円台に復帰して英国民投票前の水準を回復するなど、目まぐるしい展開が続いている。

良くも悪くも「派手な値動き」は豪ドル円の持ち味だと言えるが、その点を考慮しても、わずか3週間で上下9円(最大値幅)を超える往復劇は、さすがに強烈だ。豪ドルは本邦の個人投資家層による人気が高く、外国為替保証金(FX)取引での売買金額が巨額であるほか、外貨系投資信託、外貨建て貯蓄保険、デリバ系の金融商品などを通じた投資残高もかなり積み上がっている。

その意味で、英国民投票後に誘発された上下9円を超える「往って来い」は、本邦の為替市場関係者にとって、相当にショッキングな出来事だった。根強いファンやアンチ・ファンが多い通貨ペアであるだけに、足元80円前後に復帰してきた豪ドル円は売りなのか買いなのか、十人十色の市場解釈が渦を巻いている。果たして今後、豪ドル弱気派、強気派のどちらに軍配が上がるのだろうか。以下、筆者の見解を示しておきたい。

<秋以降に一段の失地回復が期待できる根拠>

短期的な結論から先に述べると、当面の豪ドル円は上値が重く、下値不安にさらされやすい状態が続きそうだ。豪州の2年国債利回りを見ると、現在1.6%台で取引されており、政策金利の1.75%を下回る水準で推移している。4月下旬に発表された1―3月期の消費者物価上昇率が豪州準備銀行(RBA)の目標である前年比プラス2.0%を大幅に下回っていたことを背景に、市場が追加利下げ観測を抱いていることがわかる。

市場が注目している4―6月期の消費者物価上昇率は今月27日に公表される予定だが、原油価格の底入れなどを背景に、ある程度の反発が見込まれている。だが、「RBA版の基調インフレ率」で1―3月期に前年比プラス1.6%だった数字が、一気に政策目標である2―3%のレンジまで戻るかどうかは微妙だ。多少切り返しても政策目標圏までハッキリと戻り切らなかった場合は、7―9月期の消費者物価指数が発表される10月下旬までは追加利下げ観測が明滅、豪ドル円相場の上値を抑えることになるだろう。

一般に、豪ドルなどの高金利通貨は、利下げ観測が発生してしまうと、それまで海外投資家の買い意欲を刺激していた「金利の高さ」が「利下げ余地の大きさ」に読み換えられるため、逃げ足の速い短期資金が低金利国に逆流、「高金利通貨であるがゆえに売られやすくなる」という「逆金利差相場」の餌食になりがちだ。RBAの利下げに打ち止め感が広がらない限り、豪ドル円の反発力には限界があり、すぐに「上値探査モード全開」にはなり難いだろう。

ただし、筆者はこの先一方的に豪ドル円が軟化し続ける展開は想定していない。時期の特定は難しいが、恐らく今秋以降には豪ドル円は徐々に底堅さを取り戻し、80円台半ばを目指して一段の失地回復に向かうのではなかろうか。そのように考える理由として、以下4点を挙げておきたい。

第1に、豪州の消費者物価上昇率は今年1―3月期がボトムだった可能性が高い。当時観測された消費者物価上昇率の大幅な下振れは、当該期間中に進んだ原油安の影響を強く受けていたとみられるが、当時20ドル台半ばまで下げた北米産の原油先物はその後40―50ドル台に持ち直している。4―6月期のインフレ率がRBAの政策目標圏まで復帰できるかどうかは微妙だが、7―9月期には「元の鞘(さや)」に収まるだろう。

第2に、豪州国内の経済情勢を見ると、雇用情勢はシッカリとした改善軌道を歩んでいる。14日に発表された6月の雇用統計では正規雇用の大幅な伸びが好感され、豪ドル円反発の一助となった。同時に発表された失業率は5.8%と前月の5.7%から小幅悪化したものの、正規雇用の改善に伴う前向きな離職や職探し再開による一時的現象だと受け止められており、失業率のトレンドは昨年7月の6.3%をピークに改善中だ。

第3に、今月から始まった新しい会計年度に合わせ、豪州では大型の個人向け及び法人向けの減税策が稼働している。昨年9月に発足したターンブル政権が7月2日に実施された総選挙での集票効果をにらんで採用した施策だ。既往の金利引き下げと通貨安の効果で豪州景気が持ち直しつつある中、大型減税による消費と投資の刺激効果も加われば、夏場以降にはしっかりとした景気浮揚が確認され、利下げ打ち止め感が台頭してくるだろう。

先述のように、豪ドルなどの高金利通貨は、良くも悪くも値動きが派手という特徴があり、政策金利に先安観がある間は「利下げ余地の大きさ」がアダになって売られやすくなるものの、利下げに打ち止め感さえ出れば低金利国の投資家による値頃感が蠢動(しゅんどう)し始め、底値圏からの切り返しも意外なほど早く進みやすい。

<80円割れ水準は「買い下がり」戦略がお勧め>

第4に、筆者が作成して常々監視している豪ドル円のトラッキング・モデルによると、ここもと観察された豪ドル円の急激な下落は、やや行き過ぎだった感が否めない。市場のリスク許容度が緩和する局面で買われる通貨の代表格である豪ドルと、委縮する場面で買われる通貨の典型例と見なされている日本円の交換レートになる「豪ドル円」という通貨ペアは、国際商品市況や世界的な株価動向をにらんで派手な上下動を繰り返す、という特徴を有している。

このため、近年の豪ドル円の値動きを解析すると、円換算のJOC商品価格指数との相関が約8割5分、世界総合株価指数との相関が約7割と非常に高い。両者を使った豪ドル円のトラッキング・モデルによれば、足元の適正水準は1豪ドル=80円台半ばとなっており、一時75円割れ水準にまで差し込んだ英国EU離脱決定後の水準には「売られ過ぎ」のシグナルが点灯していた。

以上の諸点を総合的に加味した上で、1豪ドル=80円前後までの豪ドル円の切り返しは、筆者の目には自然な現象として映っている。今後、世界景気に腰折れ懸念が台頭して国際商品市況や株価が暴落すると考えるならば、豪ドル円は「決して買ってはいけない通貨ペア」になるが、最近の主要国の経済指標を見る限り、そのような兆候は表れていない。

豪州における物価上昇率の下げ止まりや雇用情勢の改善などを背景に、利下げ打ち止め感が台頭してくる秋頃にかけては、一段の失地回復の余地が広がるだろう。この先の世界経済の行方について過度の楽観論は抱いていないため、1豪ドル=85円超の水準での上値追いは慎みたいが、80円割れ水準への差し込みが再びあった場合は、値動きの派手さも考慮しつつ、断続的かつ地味な買い下がりで臨みたいと考えている。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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