February 14, 2018 / 5:07 AM / 8 days ago

コラム:円高は春までか、相場反転を見込む3つの理由=植野大作氏

[東京 14日] - ドル安・円高が加速している。14日の東京市場(本稿執筆中の午後1時台)では一時106.85円と2016年11月14日以来の安値を記録する場面があった。断続的な暴落と反発を繰り返す米国の株式市場を震源地とする世界株安連鎖への警戒感が漂う中、2月中旬に集中する米財務省証券の大量利払いの円転観測がドル円相場を約1年3カ月ぶりの安値圏に誘う引き金になった。

この先もしばらくの間は株安・円高への警戒が必要だ。最近、米国の株価は落ち着きを取り戻しつつあるが、1日に1000ドルを超えるNYダウの暴落を1週間に2度も体験させられた市場関係者の眼精疲労や心的ショックが癒えるには少し時間がかかるだろう。為替需給面からみても、日本の会計年度末が接近する中、3月中旬頃までは本邦の決算期末前特有のリパトリ(本国への資金還流)による円高圧力の高まりが意識されやすい。

昨年9月8日安値の107.32円を大幅に下抜けしてしまったため、テクニカル的には次の下値攻防のめどとして節目の105円も意識されている。ただ、そこから先もどんどんドル安・円高が進む可能性は低い。一時的に割り込んでも長くは定着しないだろう。

ドル円相場が失地回復に転じる時期まで特定するのは難しいが、日本が新しい会計年度を迎えて今年の桜が散り始める頃からは、ドル高・円安基調が再び鮮明になると考えている。理由は3つだ。

<円高ストッパーの存在>

第1に、これだけ派手な世界同時株安の洗礼を受けている割に、ドル円相場の反応は控えめな印象がある。近年の経験則から我々が培ってきた感覚では、米国株が週に2回も過去最大級の暴落を繰り返し、日本株の値崩れに歯止めがかからなくなるような局面では、いわゆる「リスクオフの円高」が一気に加速、1ドル=100円割れがあってもおかしくないムードが漂いそうだが、今のところそこまで強烈な円高ショックは起きていない。

昨今の米国株の急落は、企業業績の悪化や景気の失速懸念が背景ではなく、好調な米国経済にトランプ減税と歳出拡大の財政刺激が入って「元気になり過ぎる」可能性を意識した長期金利の上昇が引き金だ。

いわゆる「適温相場」の継続を見込んだボラティリティー指数の売りポジションが瓦解した影響がアルゴ取引などで増幅されたことによる一過性のノイズだとの意見が多い。米国景気の拡大観測と金利の先高感が強まる中では、「ドル安・円高一直線」のムードは続きにくい。

第2に、黒田東彦日銀総裁の続投がほぼ固まった。月内にも国会同意人事を経て2023年までの任期延長が決まりそうだ。日銀緩和の長期化観測が改めて強まり、極端な円高の進行を抑止するバックストップ効果が強まるだろう。

周知の通り、日銀は「インフレ率を目標2%より上振れさせる」ことを市場に約束、それが実現するまでベースマネーを増やし続けると宣言している。日本の消費者物価上昇率は現在、生鮮食品を除くコアで前年比0.9%、生鮮食品とエネルギーを除くコアコアに至っては同0.3%と超・低空飛行の状態だ。黒田総裁が2016年の秋に導入した「オーバーシュート型コミットメント」の達成時期は相当先になるだろう。

あくまで私見だが、「オープンエンドのマネー拡張政策を続けながら政策金利を引き上げる」というチグハグな金融政策を日銀が採用するとは思えない。「アクセルとブレーキを一緒に踏む」ような政策を実施した場合、金融・為替市場が混乱して不安化し、日銀が目指すデフレ克服の障害になることは目に見えているからだ。

実際、最近のドル円相場を振り返ると、黒田総裁がスイスに出張して何かを語ると本来の意図と違った解釈をされて円高を招くケースが散見されたほか、1月9日に日銀金融市場局が2種類の超長期国債オペをわずか100億円ずつ減額しただけで思わぬ円高を引き起こす事件もあった。

「日銀緩和の出口ストーリー」に市場が過敏になっている現下の局面で、為替の水準と無関係に日銀が早期利上げに踏み切った場合、すぐに100円割れの円高を招いて、ただでさえ遠くにかすんでいる物価目標2%が一段と遠のきかねない。現在の日銀執行部にそのようなリスクを冒す意思がないことは、2日の国債オペ増額と指値オペに明示されている。

日銀が日本の長期金利を0%前後にピン止めしている今の政策を緩めない限り、国内金利だけで組織の存続に必要な期間収益を稼げなくなっている投資家の苦悩は、過去に仕込んだ高利回り債の償還が進むにつれ、「ただ時間が過ぎていく」だけで一層深刻になる。

これまで同様、ドル円相場が110円を割り込むと水準に反比例して湧出量が増してくる国内勢のドル買い興味が、円高ストッパーの役割を果たすだろう。

<強まるドル債投資への誘因>

第3に、足元の米国経済は好調で金融政策の正常化が進んでいる。まず「量」の側面に注目すると、米国では昨秋に始まったバランスシート縮小が年末の連邦公開市場委員会(FOMC)で声明文から削除されてステルスモードに切り替わった。2017年6月に公表された計画通りなら、今年中は連邦準備理事会(FRB)の保有債券圧縮ペースが3カ月毎に上がるので、日銀がオーバーシュート型コミットメントを破棄しない限り、彼我のバランスシート格差は開いていく。

「金利」の側面で比較しても、イエレンFRB議長の指揮下では最後となった1月のFOMCで楽観的な物価見通しが示されていたほか、米1月雇用統計で賃金上昇率が8年半ぶりの高水準になったため、パウエルFRB新議長の下で開催される3月のFOMCでの追加利上げはほぼ確実視されている。

昨年4―6月期以降、米国経済は民間の活力だけで2四半期連続の3%成長を記録した後、10―12月期も2%台半ばの成長を記録するなど非常に力強い。今年から稼働したトランプ減税や9日の超党派合意で成立した2年間で3000億ドルの歳出上限引き上げによる景気浮揚効果も加味すると、市場の利上げ期待はすぐに消滅しないだろう。

米国の政策金利は現在、1.25―1.50%が誘導目標であり、あと1回利上げをすれば、豪州の1.50%より高くなる。その後、さらに利上げをしたら、ニュージーランドの1.75%も抜くので、米ドルの短期金利は先進国通貨の中では一番高くなるかもしれない。

米国債の利回りは現在、満期10年で2.8%台と魅力が増す一方、ドル資金の短期調達コストは大幅に上昇して高止まりしている。これまで、米金利が上昇してもドル高・円安が進まなかった分、国内投資家にとって為替リスクを取ったドル債投資への誘因は強まっている面もある。

1ドル=106円台で米長期金利2.8%台なら本邦投資家の食指は動いても良さそうだが、日本の会計年度末まで残り1カ月半という今のタイミングでは動きにくいのかもしれない。4月以降に新年度の運用計画が始動するタイミングでの米金利、為替水準と本邦機関投資家の動きに注目だ。

ちなみに、過去のドル円相場は同調して動くパートナーをコロコロ変えるのを得意にしている。相場の潮目が変わる時期になると、いったん別れた相手とヨリを戻すなどよくあることだ。今後、ドルの金利が先進国で一番高くなり、日本との差が一段と拡大すれば、いつまでも無視できなくなるだろう。そのような環境になれば、ドル指数とドル円に対して、ともに上昇圧力が加わりそうだ。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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