September 11, 2018 / 2:47 AM / 2 months ago

コラム:深手を負ったトルコリラ、治癒に導く2つのクスリ=植野大作氏

[東京 11日] - トルコリラ円相場が歴史的な安値圏で推移している。8月10日早朝の1リラ=20円前後から13日未明の15円台半ばに至るまで、週末を挟んだわずか24時間程度の取引で2割超の暴落に見舞われた後、ようやく下げ止まったものの19円前後では息切れした。その後は16円台から17円台で取引されている。

 9月11日、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト、植野大作氏は、 トルコリラの安定回復には「米国との関係修復」「中央銀行による効果的な利上げ」が必要だと指摘。写真中央はトルコリラ、背景は米ドル。サラエボで8月撮影(2018年 ロイター/Dado Ruvic)

これまで、トルコリラ円は派手に値崩れするたびに、「高金利好き」で「逆張り志向」の強い日本人投資家のお金をどんどん吸収しながら値下がりし続けてきた経緯がある。ここで本当に下げ止まったのか、疑心暗鬼は拭えない。

近年のトルコリラ円は、ほぼ一直線の一次関数のような形状で下がり続けているが、比較的目立つ直近ピークである2014年12月高値の54円台を起点にすると、今年8月に記録した史上最安値15円台までの下落幅は約40円、下落率換算では7割を超えている。

テクニカル的に見ても、これだけ過酷な暴落ショックで深手を負うと、多少反発したくらいでは52週移動平均線は上向きにならない。右肩下がりの長期トレンドを水平飛行に戻すには、短期的な自律反発では意味がなく、前年同期の水準を割り込んでしまった差し込み傷が癒えるまで、1年近くの下げ止まりによる実績作りが必要だ。

以下、トルコリラの下げ止まりに必要な短期・長期の課題を検討したい。

<高熱に苦しむトルコ経済、解熱は中銀の務め>

まず短期的には、現在極端に悪化している対米関係の修復が必要だ。8月中旬に観測された大暴落はさすがに売られ過ぎなので、例えばトルコが軟禁している米国人牧師を解放するなど、対米関係改善を促す何らかの政治的決断があれば、それだけでも結構大きく反発する可能性はあるだろう。

ただ、トルコリラが長年にわたって下げ続けている根本的な理由は、足元で前年比18%近くにも達している高インフレ体質にある。長期的にはこの改善に取り組まないと通貨の安定確保は難しい。

モノの値段の値上がり率は、逆から見ると通貨の購買力の下落率に他ならない。日本を含む先進国とのインフレ格差がある程度解消されない限り、トルコリラの長期的なトレンドは右肩下がりになってしまうからだ。

経済が発展の途上にあって先進国の所得水準を追いかけている新興国の賃金や物価の伸びが高めなのは、ある程度までなら自然な現象である。ただ、最近のトルコは通貨の先安観とインフレ懸念がお互いを増幅する悪循環にはまって高熱を発しているので、まずは通貨価値の番人である中央銀行に解熱作業を任せることが必要だ。

このところ、トルコリラ安にブレーキがかかりにくくなっているのは、「通貨安とインフレの悪循環を止めるのに最も有効な処方箋である中銀の利上げが、政治的な配慮で封じられているのではないか」との疑念が心理的な重しになっていることが一因だ。

トルコの政策金利は現在17.75%と非常に高いが、インフレ率がほぼ同じ水準に上がってきているため、投資家がリラに対して要求する実質金利として、5%ぐらいは欲しいと考えている向きが大半なのではなかろうか。今週は13日にトルコ中銀の政策会合が開催されるため、ここで思い切った利上げができるか否かが注目される。

<ファンダメンタルズはそこまで悪くない>

もちろん、通貨防衛のためにトルコ中銀が大幅な利上げに踏み切ると、短期的には景気下押しの副作用が出ることを覚悟しなければならない。ただ、その結果として国内の需要が抑制されて経常収支赤字が縮小に向かえば、「通貨価値の安定確保」という現在の優先課題を克服する近道も見えてくる。

あくまで私見だが、今のところ、トルコの実体経済はプラス成長を維持しており、8月中旬だけで2割以上もの通貨暴落を正当化できるほどファンダメンタルズが悪くなっているようには見えない。

約8000万人もの規模を誇る人口のピラミッド構成は若々しい三角形であり、経済政策のよろしきを得れば、中長期的に高い成長余力を秘めている。また、地政学的にも数千年も前から西洋と東洋を結ぶ交通の要衝に位置しており、歴史や文化の魅力に満ちた観光業など、非常に競争力の高い産業もある。

現在、トルコの名目金利はすでにかなり高い水準にあるため、最近関係が悪化している米国との外交上の軋轢を解消し、中央銀行の独自判断による利上げがもう少し進むだけでも通貨安パニックの再発防止に効いてくるのではなかろうか。

通貨安とインフレの悪循環による高熱の病が沈静化して、新興国としては自然体の平熱状態に戻るめどが付いたなら、海外からの投資資金を呼び込む実質金利を維持しながら名目金利を引き下げることができる時期もやがてやってくる。

過去数多の通貨安パニックに襲われた新興国通貨の事例を見ると、いったん通貨防衛に必要な大幅利上げに踏み切った後、インフレ懸念が収まって利下げに転じることができるようになると、むしろ通貨高になるケースがほとんどだ。

残念ながら、現時点においてトルコではそのような兆候はまだ見えていない。トルコリラの安定回復に必要な「米国との関係修復」「中央銀行による効果的な利上げ」という2つの課題の早期解決に期待したい。

植野大作氏(写真は筆者提供)

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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