November 13, 2018 / 7:15 AM / a month ago

コラム:ユーロの不人気はいつまで続くか=植野大作氏

[東京 13日] - ユーロ/ドルは当面調整含みで推移しそうだ。欧州中央銀行(ECB)は、来年の夏まで現行のマイナス金利継続を約束しており、内憂外患の政治リスクを抱え込む低金利通貨のユーロを、あえて買い進む理由は見当たらない。

 11月13日、内憂外患の政治リスクを抱え込む低金利通貨のユーロを、あえて買い進む理由は見当たらないが、来年のどこかでユーロ/ドル相場は底打ちし、失地回復に向かうと三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏は説く。2015年撮影(2018年 ロイター/Dado Ruvic)

とはいえ、来年のどこかでユーロ/ドル相場は底打ちし、失地回復に向かうと筆者はみている。

為替市場ではユーロが対ドルで軟調に推移している。12日には一時1ユーロ=1.1216ドルと、昨年6月27日以来となる約1年5カ月ぶりの安値をつけた。

米連邦準備理事会(FRB)の利上げによって欧米金利差のマイナス幅が拡大する中、イタリア財政問題やブレグジット交渉を巡る欧州連合(EU)内の軋轢(あつれき)や、メルケル首相の党首引退宣言によるドイツ政局不安の台頭などが嫌気され、ユーロ安・ドル高が進んでいる。

為替需給に目を転じても、毎年11月下旬の米感謝祭から12月下旬のクリスマスにかけては、米国内外でドル資金への需要が高まりやすいほか、米系グローバル企業が海外で稼いだ利益の本国送金(リパトリエーション)が活発化する時期にさしかかる。

米多国籍企業の海外利益は、欧州のシェアが高い。特に今年はトランプ政権の法人減税によって、1月以降に稼いだ海外利益の本国還流が非課税になってから初めてのクリスマス越えになるだけに、例年以上のリパトリによってドル高・ユーロ安圧力が高まる可能性もある。

テクニカル的にみると、足元のユーロドル相場は2017年1月安値の1.03ドル台から18年2月高値の1.25ドル台まで上昇分の半値押しに当たる1.14ドル台をいったん明確に下抜けしている。

この先、何かの拍子で一段のユーロ安が進んだなら、次の下値メドはマイナス61.8%押しの1.11ドル台になる。そこで止まらずさらに下落に勢いがついた場合、心理的節目の1.10ドル前後の攻防になる可能性もあるだろう。

<ユーロが失地回復へ向かう2つの理由>

だからと言って、そのままユーロ/ドルの下落に歯止めがからなくなり、かつてのように1ユーロ=1ドルの「パリティ(等価)割れ」寸前にまで追い込まれるとは考えていない。時期や水準までぴたりと当てる自信はないが、来年のどこかでユーロ/ドル相場は底打ちし、失地回復に向かうとみている。

以下、2つの理由を挙げておく。

第1に、「政治ネタ」をテーマにした通貨安には限界がある。当該通貨圏の景気・物価情勢や中銀の金融政策などのファンダメンタルズに決定的な影響を及ぼさない限り、政治・政局の混乱による通貨安圧力は、時の経過とともに減衰するのが市場の常だ。

例えば2016年6月の英国民投票でEU離脱が決まった後、ポンドは同年10月まで激しく売り込まれたが、英中銀(BOE)が利上げに動くと自律反発が加速。EU離脱協議が難航する中でも、最近のポンド/ドルは国民投票後の安値より高い水準で推移している。

昨今のユーロ安進行の一因となっているイタリア財政問題を、かつての「欧州債務危機の再来」と警戒する向きもあるが、恐らく言い過ぎだ。現在、イタリアの長期金利は上昇しても3%台までであり、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルを経由してイタリアにも市場からの退出警告が波及した当時の7%前後とは明らかにレベルが違う。

イタリア政府がユーロ圏に残留する方針を維持する限り、EUが定める財政ルールを逸脱した放漫財政を継続することは出来ない。EUに違反金を預けて財政協議を続けた場合でも、いずれ市場からの警告も受け、妥協の道を選ぶことになるだろう。

英国のEU離脱協議も難航しているが、双方が強烈な経済的打撃を受ける合意なき無秩序な離脱は誰の利益にもならない。最悪の事態は恐らく回避され、協議の時間が足りない場合も、交渉するために必要な善後策が採用される可能性が高い。

もちろん、来年3月末に「無秩序な離脱シナリオ」が炸裂する可能性はゼロではない。ただ、仮にそうなっても当初はポンドとユーロがドルや円に対して無差別に売られそうだが、経済への打撃がより大きいのは英国だ。ユーロ/ポンドはユーロ高に振れるだろう。ポンド売りが続いたとしても、ユーロ安にはどこかで歯止めがかかるのではなかろうか。

<ECB政策正常化でユーロ選好に>

第2に、来年はECBによる金融政策の正常化が、一段と進む可能性がある。現行のフォワードガイダンスでは、ユーロ圏の量的緩和は今年の年末で打ち切られる予定であり、マイナス0.4%の下限政策金利の継続を約束しているのは来年夏までだ。その後、ドラギECB総裁は10月末に任期満了を迎える。

もちろん、ECBのフォワードガイダンスは、この先の経済次第で如何様(いかよう)にも変化する。だが、ドラギ総裁が導入したマイナス金利は、金融危機に対応した「異例」の政策だ。来年秋の任期満了の目前に景気が極端に悪くなっていなければ、金融危機の克服宣言を行い、金融政策「正常化」の名目でマイナス金利の圧縮に動く可能性は高いだろう。

そこで改めて近年のユーロ/ドルのチャートをみると、ドラギ総裁がユーロを守るためなら「何でもやる」と宣言して前代未聞のマイナス金利を導入したのは2014年6月だった。それ以来、3回にわたってマイナス金利が深堀りされた局面で、ユーロは激しく下落した。しかし、17年6月にドラギ総裁が「今やデフレの脅威は消え、リフレの力が働きつつある」と述べた「シントラ発言」で利上げの可能性が意識されて反発し、今年2月には一時1.25ドルまで上昇した。

その後、利上げ期待がしぼむにつれてユーロ/ドルは反落したが、ECBがマイナス金利の解除に動いた場合の「予行演習」は、今年2月までのユーロ高局面で既に実施済みだ。「将来起きる変化」を早めに織り込む為替市場の性質を勘案すると、もしも来年の秋にECBのマイナス金利の解消が見込まれるのなら、遅くとも夏ごろまでのどこかでは、ユーロドル市場での織り込みが始まるかもしれない。

また、その頃になれば、恐らくドラギ総裁の後任も決まっている。これまでECBの総裁はオランダ人、フランス人、イタリア人の順番となっているが、次の総裁がドイツや北欧から選ばれた場合、来年秋以降、ユーロ圏の金融政策正常化観測は人事面からも強まるだろう。

ECBによる金利正常化を市場が意識してユーロ/ドル相場の水準訂正が起きる場合、米国で利上げ打ち止め感が台頭するタイミングにもよるが、いずれユーロ/ドルはマイナス金利導入前の水準だった1.40ドル前後を目指した失地回復に向かうのではないだろうか。

政治が混乱していて金利の低いユーロは、現在非常に不人気で保有が減っている。値上がりが始まっても利益確定売りや戻り売りが出にくいため、意外にスッキリ上がる可能性がある。

現在、「金融政策の正常化」をテーマにした通貨選好は、先進国の利上げレースで先頭を走るドルに向かっている。ただ、主要国で一番早く利上げを始めた分だけ、打ち止めになる順番も米国が早くなる可能性を意識すべきだ。

来年どこかで「ECBが政策金利の正常化に動き始める」との期待が現実味を帯びてきたあかつきには、市場の通貨選好の重心が利上げ「先発組」の米ドルから「後発組」のユーロに移ってくることが想定される。ドラギECB総裁の顔色を注視しつつ、そのタイミングを見極めたい。

植野大作氏  三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト(写真は筆者提供)
 11月13日、内憂外患の政治リスクを抱え込む低金利通貨のユーロを、あえて買い進む理由は見当たらないが、来年のどこかでユーロ/ドル相場は底打ちし、失地回復に向かうと三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏は説く。2016年撮影(2018年 ロイター/Toby Melville)

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍、国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

*本稿は、「外国為替フォーラム」に掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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編集:下郡美紀

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