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コラム:ユーロ本格反転への遠い道のり=唐鎌大輔氏
2017年10月27日 / 01:33 / 23日後

コラム:ユーロ本格反転への遠い道のり=唐鎌大輔氏

[東京 27日] - 前回のコラムでは、主に2つの理由から、巷間言われているユーロ高長期化シナリオに疑義を唱えた。第1に、欧州政治が不安定化する可能性。第2に、欧州中銀(ECB)による金融政策正常化が大して進みそうにないことだ。

前者に関しては、マクロン仏大統領の支持率急落に加え、9月にドイツ、10月にオーストリアそしてチェコと相次いで極右政党が躍進を果たし、今春の仏大統領選後にユーロ買いの契機を提供した「欧州の政治安定」というテーマは雲散霧消したと言える。

後者に関してもおおむね想定通りの展開だ。10月26日に実施されたECB政策理事会は拡大資産購入プログラム(APP)に関し2018年9月まで9カ月延長した上で、月間購入額を600億ユーロから300億ユーロに半減させた。量の縮小こそ決断したものの、APP廃止まで視野に入れること(いわゆる真の意味でのテーパリング)はかなわなかった。2018年6月頃には延長可否を巡って再び同種の議論を交わす羽目に陥るだろう。

延長期間を6カ月ではなく9カ月と長めにとったことも予想できた話だった。仮に2018年6月までの半年間しか延長しなかった場合、同年4月の政策理事会までに延長可否を判断する必要がある。2018年5月までにイタリアで総選挙が行われることを踏まえれば、微妙なタイミングだ。2018年9月まで延長しておけば、総選挙の行方を見極めた上で、同年6月のスタッフ見通し改訂とともに延長可否を検討できる。

いずれにせよ、通貨高を嫌気する中央銀行ができる正常化には限界がある。確かに、欧州債務危機を経て、緩和一辺倒だったECBが逆方向に舵を切ったことは大きな潮目だ。しかし、ユーロ相場の本格反転を見越すにはどうしても障害となるものが残っている。それはECB預け金(当座預金および預金ファシリティー)に課された0.40%という大幅なマイナス金利の存在である。これが残置される限り、本格的なユーロ高基調への転換は難しいというのが筆者の基本認識だ。

<ユーロ安の底流に投資家の域外シフト>

こうした想定は資金フローに裏付けられたものである。ECBは四半期に一度、「ユーロ圏投資ファンド統計」を公表している。同統計はユーロ圏投資家の保有資産に関し、域内・域外の内訳を明らかにしているほか、その商品別(株・債券など)の構成なども確認できる。

筆者が注目しているのは、域内資産と域外資産の比率だ。同統計として遡及可能な2008年12月時点では域内資産が2.27兆ユーロ、域外資産が1.20兆ユーロで、前者を後者で割った比率(以下、域内・域外比率)は1.89だった。つまり、ユーロ圏の投資家は域内資産を域外資産のおおむね倍、保有していた。

だが、2017年6月時点では域内資産が4.97兆ユーロ、域外資産が4.85兆ユーロで域内・域外比率は1.02である。両者の差はほぼ消滅している。

実は域内・域外比率は欧州債務危機が沈静化した2013年3月にはいったん底打ちし、上昇に転じていた。具体的には2013年3月に1.10だった同比率は上げ基調に入り、2014年3月には1.24まで戻っていた。しかし、2014年6月以降は再び下げ基調に入り、足元では両者がほぼ均衡する状況に至っている。

2014年6月と言えば、ECBがマイナス金利導入を決断したタイミングだ。その後、2015年1月には国債を対象とする量的緩和も決断され、域内金利はさらに低下し、その上でマイナス金利も断続的に深掘りされてきた。マイナス金利導入がユーロ圏投資家の域外シフトを促した可能性は容易に想像される。世界最大の経常黒字を稼ぎながらユーロ相場の上値が重かった背景には、そうした経常取引を相殺するだけの資本取引があったからという面もあろう。

実際、域内・域外比率低下とともにユーロドル相場は水準を切り下げてきた。域外資産が域内資産に対して増えた以上、2つの通貨の交換比率である為替レートもこれに応じた動きになるのは当然である。ユーロ圏投資家の域外シフトの動きがユーロ安の底流である可能性は高い。

<ユーロ圏に投資は戻っているのか>

ところで、9月7日の政策理事会の議事要旨には、ユーロ高の背景としてユーロ圏への対内証券投資が復活しつつあることが指摘されていた。

確かに、ユーロ圏の国際収支統計を見ると、域外から域内への対内証券投資は2017年に入ってから買い越しが維持されている。今年7月にはECB経済総局のスメッツ局長が域内資産への資金回帰が発生していると述べたことも報じられており、ECB内では「域外から域内への投資拡大がユーロ高の原因」という考え方が支持を得ていそうだ。

しかし、域外から域内への対内証券投資が増えている一方、域内から域外への対外証券投資が増えているのもまた事実である。2017年に入ってからの対内・対外証券投資をネットアウトした資本フローはおおむね均衡しており、どちらかに偏っているという印象はない。

つまり、入ってくるお金も増えているが、出ていくお金も増えているのであり、これがユーロドル相場が今ひとつはっきりと基調転換できない理由の1つと思われる。

<足かせが外れるのは2019年以降>

ユーロ圏内の居住者(投資家)が域外に目を向けざるを得ない背景にマイナス金利の存在があるというのは、さほど的外れな想定ではあるまい。ユーロをポートフォリオに組み込むユーロ圏外の非居住者は過去数年で相当程度、ユーロ建て資産を処分してきたと思われる。

しかし、腐ってもユーロは世界第2位の通貨だ。緩やかとはいえ、ECBが正常化局面に入ったのならば、ある程度の「量」は復元しておきたいという思いを抱く向きもあろう。だからこそ対内証券投資も相応の回復を見せているではないか。

片や、ユーロを「母国通貨」として保有するユーロ圏内の居住者にとって、ECBの預け金にマイナス0.40%をチャージされ続ける状況では他通貨に目を向けざるを得ないという実情は、依然あると推測される。しかも、目下、ECBが毎月600億ユーロの資産購入をしている最中であり、チャージ対象の残高は増えるばかりだ。

結果、「ユーロは現金で持ちたくないから域内債券に投資。そして域内利回りが低下し、対米金利差は拡大」という展開に至り、ユーロの投資妙味が落ちることになる。その帰結が上述した域内・域外比率の低下だったのだろう。

もっとも、前述の通り、ECBの本音は「正常化は進めたいがユーロ高は勘弁してほしい」というものである。そのためにはマイナス金利を適度に保ちつつ、量的緩和を縮小するという現状の政策運営が実は最も心地良いのかもしれない。

そのように考えると、ECBの正常化プロセスが正念場を迎えるのはAPP廃止が本格的に視野に入ってからになる。APPがなくなれば、次は政策金利を修正するしかなくなる。

そして、マイナス金利という足かせが外れて初めてユーロ圏居住者にとってのユーロ建て資産の相対的な重要性が復元し、資本取引面でもユーロ買いの需給が逼迫(ひっぱく)してくるだろう。その際、ユーロ相場の騰勢は間違いなく強まるはずだ。

しかし、10月の政策理事会を含めた年央からのECBの情報発信を見る限り、見通せる将来においてECBがその覚悟を持てるようになるとは筆者は思えない。

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位、13年は2位。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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