December 29, 2017 / 2:38 AM / 16 days ago

コラム:2018年の円高を見込む「これだけの理由」=唐鎌大輔氏

[東京 29日] - 2017年のドル円相場は近年稀に見る静かなものだった。高値(118.60円)と安値(107.32円)の変動率は10.5%程度。これは、過去30年で3番目に小さい。

方向感を予想するアナリスト、相場を張るトレーダー、値動きを追うメディア、いずれにとっても2017年の為替は難しい相手だった。片や、安定を志向する企業経営にとっては無難な年だったと言える。

とはいえ、動かなかったのはドル円に限った話である。為替市場全体では、年初来のドルの名目実効為替相場が11月までの間に5.7%下落しており、2017年が「ドル安の年」だったことは間違いない。

為替は常に「相手のある世界」だ。「ドル安の年」にもかかわらず円高が進まなかったということは、ドル売りの「受け皿」が他に存在したということである。具体的にそれはユーロとメキシコペソだった。

5.7%のドル下落のうち、3.6%ポイントがこの2通貨の上昇で説明できる。ゆえに、2017年のドル安は「ドルが弱かったというよりも、ユーロやメキシコペソが強かった」という説明の方が腹落ちする。

実際、ドル相場を駆動するはずの米10年金利は、年初来で2.3%から2.5%程度の狭いレンジで終始した。米連邦準備理事会(FRB)が複数回の利上げやバランスシート縮小という話題を提供した年ではあったが、米長期金利は反応薄だった。だからこそ、日米金利差に敏感に反応するドル円も動かなかったのだ。

<リスクは円高方向に放置されたまま>

だが、2017年初頭までの5年間で30%弱も上昇していたドル相場が、いまだ5.7%しか下落していないという事実は残る。後述するように、今後、米金利上昇の公算が小さそうなことなども踏まえれば、ドル高の調整は途上だと筆者は考えている。

今後、上述の2通貨に代わってドル売りの「受け皿」となってくるのはどの通貨だろうか。それは「実効ドル相場におけるウエートは大きいが、まだ調整の進んでいない通貨」となるだろう。現在、その条件に当てはまるのが、円である。上述した5.7%のドル下落のうち、円が「受け皿」として寄与したのは、0.3%ポイントにとどまる。

その上で円は米財務省が為替政策報告書で指摘するように「実質実効為替相場で見て、長期平均よりも20%割安」な状況からほとんど動いていない。2017年にドル売りの影響を受けなかった分、円相場のリスクは円高方向に広がったまま放置されていると言える。

<金利差拡大に賭ける危うさ>

2018年の為替相場予想に関しては、1ドル=120円以上の円安を見込む向きも珍しくないようだ。筆者が知る限り、そうした円安予想の多くは「FRBの利上げに応じて日米金利差が拡大し、円売りが加速する」というロジックの一点張りである。

だが、2017年の相場が証明したように、「FRBの利上げ回数」は「ドル相場の動き」とあまり関係がない。むしろ、2017年は利上げを横目に長期金利とドル相場の軟調な動きが続いた。FRBの正常化プロセス継続は円安見通しの「気休め」にはなっても「決定打」にはならないと考えたい。

歴史的に見ても、FRBの利上げは短期金利上昇にはつながっても、長期金利上昇にはつながってこなかった。往々にして、利上げに着手した段階で、イールドカーブのフラット化、すなわち長短金利差の縮小が始まるのである。カーブのフラット化は米経済の先行き不透明感の高まり、市場においては株価に代表されるリスク資産価格の調整を示唆するものである。当然それは、正常化プロセスの停止をも示唆するものだ。

ここでフェデラルファンド(FF)金利誘導目標と米10年金利、そしてFRBメンバーによる中立金利見通しを重ね合わせると有用な事実が見えてくる。まず、利上げ局面における米10年金利は「利上げの終点」を天井に推移してきた(例えば前回の利上げ局面の終点は2006年6月の5.25%だが、米10年金利もおおむねその水準でピークアウトした)。

とすれば、本稿執筆時点でFRBが予想する「利上げの終点」である中立金利は2.75%、10年金利は2.50%弱であるから、このまま利上げを進めていったとしても、約25ベーシスポイント(bp)程度しか上昇余地はないという話になる。近年、ドル円との相関が指摘される日米長期金利差の拡大が見込めないのであれば、円安シナリオはやはり難しいのではないか。

2018年最大のテーマは、景気後退のサインである「逆イールド(長短金利の逆転)」が発生するかどうかだとすら言われている状況である。逆イールドとなれば、もはや米金利の上昇をあてにしたドル買いは望めまい。

<中立金利が上方修正される可能性は>

2.75%という現在のFRBの中立金利見通しが過剰に低いという見方もある。確かに、名目金利が2.75%、インフレ率が2%とした場合、米経済の地力である潜在成長率と近似する均衡実質金利(自然利子率)は0.75%(2.75%-2%)という計算になる。米国の潜在成長率に関しては2%前後という声が多いため、2.75%という想定が低過ぎるという議論はあり得る。これが引き上げられれば、米長期金利の上昇余地も生まれてくる。

だが、それは2%のインフレ率を前提にした議論である。世界的にインフレ率を2%で固定(アンカー)させることが難しくなっており、今や1%台前半で推移している現実を直視したい。仮にインフレ率が1%で安定するとしたら、均衡実質金利は1.75%になる。これならば2%前後と目される潜在成長率と比較しても違和感は小さい。

中立金利見通しが大きく上方修正され、これに伴い米長期金利も上昇、日米金利差の拡大がドル高・円安をけん引するという展開に関し、筆者はあまり可能性が高いとは思えない。

<需給と実勢相場の「ねじれ」>

最後に、筆者が国際収支統計から算出している基礎的需給バランスをチェックしておきたい。基礎的需給バランスは、「経常収支+対内証券投資+対外証券投資(預金取扱金融機関と政府を除くベース)+直接投資」で算出する。

これは年初来(1―10月)合計で約2.6兆円と「円買い超過」となっている。前年同期の約17.9兆円の「円売り超過」と比べれば需給環境は一変したと言える。主に日本から海外への対外証券投資の鈍化が響いているが、これはFRBの正常化プロセスの持続性に自信を持てない投資家が多いことの裏返しではないか。

しかし、需給環境が円買いに傾斜しているにもかかわらず、大して円高が進んでいないのはすでに述べた通りだ。筆者が懸念するのは、こうした需給と実勢相場の「ねじれ」であり、2018年の円安予想の難しさはここにあると考えている。

振り返れば、2017年秋以降、円安になるだけの材料がたくさんあった。IMM通貨先物取引に見られる投機筋の円売りの持ち高は、一時約4年ぶりの水準まで積み上がり、日経平均株価は16連騰、FRBは3回利上げしてバランスシートの縮小まで決断した。だが、これだけの材料を背にしながら115円にすら届かなかった。需給環境が円買いに傾斜していることが一因だったのではないか。

今後、投機筋は必ず反対売買しなければならない時がくる。株価は高値警戒を指摘する声がいよいよ強い。すでに見たように、FRBの正常化プロセスは金利上昇を伴わないだろう。とすると、2018年のドル円は、これらの円安材料が剥落するなか、需給が示唆する円買い圧力と対峙せざるを得ないのではないか。

少なくとも「100―105円」程度までの調整は購買力平価から見て違和感が小さいことや、実質実効為替相場で見れば円の過小評価が示唆されていることは覚えておきたい。水準をピンポイントで予想する難易度は高いにせよ、2018年の方向感として円高を見込むこと自体、さほど無理のない話だと筆者は考えている。

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位、13年は2位。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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