April 25, 2018 / 5:06 AM / 7 months ago

コラム:円安サインは本物か、節目迎える投機ポジション=唐鎌大輔氏

唐鎌大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

 4月25日、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏は、投機ポジションの揺り戻しを受けて、ドル相場が息を吹き返したようにみえるが、円高予想を変える必要はないと指摘。写真はポーランドのワルシャワで2011年2月撮影(2018年 ロイター/Kacper Pempel)

[東京 25日] - ドル円相場が堅調に推移している。理由はさまざまだが、米長期金利の上昇や北朝鮮の核実験・大陸間弾道ミサイル発射中止を理由に挙げる向きは多い。後者に関しては、地政学リスクが過去1年間のドル円相場の重しとなってきたのは事実であるため、この点はうなずける(もっとも北朝鮮の主張をどこまで信じるかという別の問題はある)。

かたや、米金利上昇の要因は今回のテーマではないので詳述しないが、国内物価が加速していない状況で起きている以上、その副作用も警戒したいところだ。現在、金利上昇の理由に挙げられている米債増発懸念や原油価格上昇はいずれも米実体経済にとっては足かせとなる話であり、楽観視はできない。

こうした状況下での米金利上昇は、端的に言えば、「どこまで株価が耐えられるか」という視座から注目すべきだろう。好景気(需要ひっ迫)に応じた物価上昇が確認できないにもかかわらず金利だけが上がる状況は、米連邦準備理事会(FRB)が許しても株式市場が許すまい。事実、株価が金利上昇を嫌気する動きが始まっている。

<円高見通しを惑わす投機ポジションの変化>

とはいえ、為替相場見通しを検討する立場からすると、短期的には一方向に傾斜し過ぎた投機ポジションの反動を気にせざるを得ない。本稿の趣旨は、「そうした動きは本質的な動きではないので惑わされてはならない」というものだ。

過去1年間、為替市場における投機ポジションの主たるトレンドはドル売り・ユーロ買いであり、昨秋頃からはこれに円買いも加わった。背景にある理由はさまざまだが、主には欧州中銀(ECB)の正常化着手、そしてFRBの正常化プロセスの終点が視野に入ってきたことなどが、そうした相場の動きを規定していたと考えられる。

円買いの理由は判然としない面もあるが、少なくとも今年に入ってからはトランプ米政権の通貨・通商政策を受け、これと整合的な円高・ドル安が進んだという解説が適切だろう。もちろん、朝鮮半島情勢の緊迫化も円買いポジションを構成する一要素だったかもしれない。理由はどうあれ、過去1年間で投機ポジションがかなり一方向に傾斜したのは間違いない。

数字を具体的に見ると、IMM通貨先物取引に現れる円ポジションは今年4月3日、2016年11月22日以来約1年4カ月ぶりにネットロング(円買い越し)に転じるという節目を迎えた。本稿執筆時点で最新となる4月17日においても、その状況は不変だ。要するに、「円ショートの巻き戻し」という従前の円高を支えてきた材料は使い果たされた状況とも言える。

必然的に短期筋を原動力とする円高相場は目先、動きが鈍くなる。今後、FRBの正常化プロセスの雲行きが怪しくなってくれば、ネットロングの拡大に伴い本格的な円高地合いになろうが、今はまだその時ではない(後述するように、いずれそうなると筆者は予想している)。

<ユーロは「買われ過ぎ」、ドルは「売られ過ぎ」>

投機筋のポジションが節目を迎えているのは円だけではない。円よりも大きなポジションの偏りが見られているのがユーロであり、4月17日時点では234.22億ドルの買い持ちと史上最大を更新している。「買われ過ぎ」を理由として売られても不思議ではない状況と言えよう。

ユーロの実効為替相場に目を向ければ、実質と名目の双方で、達成感を得られる水準まで上昇している点も見逃せない。例えば、実質に関しては3月時点で長期平均対比マイナス1.7%まで割安感が修正されており(昨年はマイナス10%弱まで広がっていた)、理論的には上昇余地はもう大きくない。

名目に関して言えば、3月時点で長期平均対比プラス10%の割高である。名目実効為替相場が長期平均に収れんする必然性はないが、やはり「買われ過ぎ」の雰囲気は漂う。

こうした現状に加え、ECBが依然として0.40%という先進国の中で最も深いマイナス金利を採用している事実も勘案すれば、ここからの上昇余地は大きくないというのが筆者の考えだ。そもそもユーロ高に対する嫌悪感を隠そうとしないECBの基本姿勢を見る限り、現在目の当たりにしている史上最大のユーロ買いポジションには強い不安を覚えるのがまっとうな感覚ではないか。

このような状況下、ドル全面安を主軸としてきた過去1年間の為替相場の雰囲気は目先、やや変わらざるを得ない。IMM通貨先物取引に関し、主要8通貨(円、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、カナダドル、メキシコペソ、オーストラリアドル、ニュージーランドドル)の対ドルポジションを合成すると、足元のドルショートは2011年8月以来約6年8カ月ぶりの高水準に至っており、こちらは「売られ過ぎ」を理由に買われても不思議ではない。

非常にラフに言えば、今の為替市場は放って置いても「ユーロ売り・ドル買い」が出やすい地合いと思われる。すでにネットロングに転じている円も売りが出やすい面があり、例えば朝鮮半島情勢を巡る緊張ムードの後退はこうした地合いを補強する材料として使われやすい。

<疑わしきは米金融政策正常化プロセスの持続性>

だが、このような短期筋の情勢変化を受けて円高予想を変える必要はない。筆者が最も重視している論点はFRBの正常化プロセスの持続性であり、この点は相変わらず疑わしさが残る。

ボラティリティー・インデックス(VIX指数)の急上昇が相場を下落させた2月初旬の「VIXショック」ほどの動きはそう繰り返されたりはしないだろうが、あの頃から「米金利上昇、米経済減速、株売り」という、金融引き締めの結果としてはごく自然に想定されるロジックが取り沙汰されるようになった。足元から将来にかけて気にしなければならないのはやはりこの点だろう。

中央銀行が政策金利を引き上げ続けているにもかかわらず、実体経済が全く動揺しないという想定は無理がある。また、量的緩和に関しても、「量」を増やす時に緩和効果をけん伝したにもかかわらず、これを減らす時の副作用がないと言い切るのも納得することは難しい。

筆者は、日米金利差拡大とドル円相場上昇の順相関を前提にする見通しには否定的だが、米金利が上昇を続けるにもかかわらずドル円相場が無反応を貫くのも困難だとは思っている。円金利の悲惨な運用環境を踏まえれば、どこかで順相関にはなろう。

問題は、その「上がり続ける米金利」に米経済・金融情勢が耐えられるという前提である。FRBが「正常化」プロセスの先に中立金利を超えた「引き締め」の局面まで視野に入れ始めている以上、金利感応度の高い消費・投資が今後加速することは考えにくく、これを見越した株価も軟化が予想される。

そもそも理論的に株価は将来利益の割引現在価値なのだから、金利上昇はやはり株価の押し下げに効く。株高を背景とする資産効果が旺盛な米個人消費を支えてきたことを思えば、この波及経路はFRBとて軽視できない。実体経済に影響が及び始めた時、FRBの政策運営にも当然変化が出るだろうし、それはドル相場にも反映される。

その際に起きるドル全面安を受けて、円もユーロも堅調さを取り戻すというのが筆者の為替見通しである。当面、為替市場では投機ポジションの揺り戻しを受けて、ドル相場が息を吹き返したようにみえるだろう。朝鮮半島情勢の緊張緩和や原油価格の上昇もその確信を強めるかもしれない。

しかし、だからと言って実体経済の現状や展望から目をそらしてはならない。真の論点は「米経済が引き締め(金利上昇)に耐えられるか」という極めて基本的なものであり、その点に照らせばやはり先行き不安は拭えないと筆者は考える。

唐鎌大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト(写真は筆者提供)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位、13年は2位。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月)

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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