June 21, 2018 / 4:31 AM / a month ago

コラム:「日銀置いてけぼり」は本当か、ECB正常化の険路=唐鎌大輔氏

唐鎌大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

 6月21日、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏は、6月の欧州中銀(ECB)政策理事会で示された本当に重要な情報は、「量的緩和終了」ではなく「マイナス金利継続」だと指摘。写真はドラギECB総裁、独フランクフルトで4月撮影(2018年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

[東京 21日] - 6月14日に開催された欧州中央銀行(ECB)政策理事会で拡大資産購入プログラム(APP、以下単にQE)の年内打ち切りが発表されたことが話題になっている。

日本では海外中央銀行がタカ派寄りの金融政策を決定すると、すぐに「日銀が置いていかれる」という解釈をしたがる向きが多く、今回も例によって「ECB、QEを年内で終了」との見出しとともにそのような論調が目立った。

しかし、理事会後のユーロ相場急落が明示するように、この会合で示された本当に重要な情報は「QE終了」ではなく「マイナス金利継続」である。

金融市場は「QE終了」をほとんど気に掛けていない。これはQEの年内終了はもともと既定路線と言われていたからだ。あえて意外だった点を挙げるとすれば、その発表が7月ではなく6月だったことくらいだろう。

今回の見どころは、1)QE終了、2)保有資産の再投資継続、3)当面のマイナス金利継続、の3点が決定されたことにある。メディアの関心は1点目に集中したが、今後にとって重要な意味を持つのは2点目と3点目だ。特に、2点目に関し「2019年夏以降、できる限り長く、政策金利を現行水準(マイナス金利)に据え置く」という表現が用いられたことが、強烈なユーロ売りにつながった。

以下、今回話題となったECB理事会を解説したい。

<タカとハトの双方に花を持たせた格好>

繰り返しだが、QE終了は既定路線だった。「年内で終わり」という方向で意見集約は進んでいたし、それが市場予想でもあった。その方針を7月ではなく6月に早出しした理由は定かではないが、筆者はタカ派への配慮があったと読んでいる。一部報道にもあるが、政策理事会メンバーの中には金利に関し、「2019年半ばの利上げ可能性を示唆してほしい」という強気な意見もあったという。

しかし、上で見たように、低金利方針に関する「2019年夏以降、できる限り長く」との新たな表現はそのようなタカ派好みの強気な意見とは全く相いれない表現だ。ゆえに、せめて(既定路線である)QEに関してはタカ派の意をくんで早期に終了宣言を出すことにしたのではないだろうか。ドラギECB総裁会見でも今回の決定について記者から「ハト派とタカ派の均衡ないし妥協」だという感想が漏れていた。

結局、「QEはタカ派」「利上げはハト派」といったように、2つの重要論点について双方に花を持たせようという政治的な配慮が働いた可能性があると筆者はみている。

<もたもたしていると「選挙の罠(わな)」に>

次に2点目の再投資継続に伴うバランスシートの規模維持に関しては依然、情報に乏しく、見通しを語るのは尚早だろう。会見では「再投資はどのくらい続けるつもりなのか。利上げ開始時期との関連はあるのか」と尋ねた記者もいたが、ドラギ総裁の回答は「再投資方針については議論していない。これは将来の会合で議論する」と素っ気なかった。やはり現段階で現実感を持って議論できるような論点ではないのだろう。

景気に恵まれ、通貨高をさほど気に掛けない米連邦準備理事会(FRB)ですら2014年10月にQEを終了させてから再投資方針を停止するまでに丸3年かかった。これから景気が山をつける可能性が高く、通貨高に嫌悪感を示しがちなECBはもっと時間がかかっても不思議ではないだろう。

仮にFRBと同じ3年で道筋をつけたとしてもバランスシート縮小の決断は2021年6月というイメージになる。「0.40%というマイナス金利が金融機関を痛めつけるからこそ、早めの出口を模索するのではないか」との見方にも一理はあるが、可能性が高いとは思えない。

これらの議論と総合すると「2019年9月に利上げに着手し、2020年中にプラス金利へ復活し、2020年後半から2021年にかけてはバランスシート縮小」というのが最速イメージだろうか。だが、時間をかけるほど欧州は各国の重要選挙が循環的に巡ってくる。

特に2019年秋にはギリシャやポルトガルといった財政上、大きな問題を抱えそうな国々が総選挙の季節を迎える。2021年まで引っ張れば、「ポスト・メルケル」を賭けた総選挙がドイツで行われるし、2022年になればフランス大統領選挙がある。極右候補の台頭がないとも言い切れまい。欧州では、もたもたしていると、すぐにこうした「選挙の罠(わな)」にはまるリスクがある。

<FRBが利上げを止めるタイミング>

QEを止めるのは既定路線、再投資停止は遠い未来の話となると、ECBにとって喫緊の問題は3番目の論点、利上げの処遇である。いや、利上げそれ自体が問題ではない。厄介なのは利上げに乗じて発生するユーロ高である。

6月に改訂されたECBスタッフ見通しによれば2018―20年までのユーロ圏消費者物価指数(HICP)はプラス1.7%とされており、2018―19年については前回3月予想のプラス1.4%から上方修正されている(2020年は1.7%のまま)。

しかし、上方修正の主たる理由は原油価格上昇であって賃金インフレをベースにしたものではないし、何より2020年まで見通してもプラス2.0%に到達できないという状況は変わっていない。かかる状況を前提にして、一段の通貨高を推し進めようとする政策運営が果たして可能なのだろうか。

ECBはマイナス金利を導入した2014年6月以降、実に4年間にわたってユーロ安を享受してきた。この間、ECBが頻繁に主張してきたのが対米金融政策格差の存在だった。確かに、2015年12月から数えて7回の利上げを行い、バランスシート縮小にまで着手したFRBに比べれば、ECBの正常化プロセスは著しく劣後しており、政策格差は確かにあった。この点、欧米金利差に応じてユーロ売りが続いてきたという主張にも、相応の正当性はあったと言えよう。

しかし、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも明らかになったように、順調に行けば2019年秋にはフェデラルファンド(FF)金利が中立金利すなわち「利上げの終点」に到達している可能性がある。恐らく、その頃までには不況の有力なサインである逆イールド(長短金利差の逆転)も発生していよう。

今回の声明文を見る限り、ECBが最速で利上げを実施できるとしたらまさにその2019年秋ごろなのだが、「FRBが利上げを止める」のと同時に「ECBが利上げを始める」という運営が果たして可能なのか。仮に、そのような欧米金融政策格差が一転縮小する局面に入るのだとしたら、ユーロ相場は騰勢を強めよう。もとよりユーロ安の元凶はマイナス金利だと言われていただけに、利上げ着手のニュースだけでもユーロ相場は急騰する可能性がある。

過去1年でユーロは対ドルで最大15%程度上昇したが、ECBはそうした為替相場に対し不快感を隠さなかった。そのような気質のECBが、立ち往生するFRBを尻目に利上げに邁進するのはそれなりに勇気が要ることだろう。

さらに言えば、年初来のユーロ圏の基礎的経済指標悪化はユーロ高に起因する部分もありそうだ。ストライキやインフルエンザ流行などの一時的要因だけが原因ならば、4月以降に急回復しても不思議ではないが、現実はそこまでの明るい兆候はない。

特にけん引役となるドイツは輸出の失速に応じて成長減速が見込まれており、その要因としてユーロ高が無関係だったとは考えにくい。少なくともECBが利上げに至るためにはこうした基礎的経済指標が明確に改善してくる必要があろう。この点、すでにユーロ圏の景気拡大が歴史的な長さで持続していることを踏まえると、難しいように思える。

よって、2019年の利上げは最大でも9月以降に1回、経済・金融情勢を考えればゼロ回という可能性も否定できないというのが筆者の見立てである。

唐鎌大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト(写真は筆者提供)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位、13年は2位。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月)

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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