November 14, 2018 / 1:26 AM / a month ago

コラム:四面楚歌のユーロ相場、来年1.10ドル割れも=唐鎌大輔氏

[東京 14日] - 昨今の金融市場では、米金利の上昇やそれに付随するドルの上昇が取り沙汰されやすい一方、ユーロは単にドルの動きの結果として処理されることが多い。インターコンチネンタル取引所(ICE)が算出するドルインデックスの半分がユーロで構成されているため、そのような理解が間違っているわけではない。

 11月14日、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏は、ドル相場が強いことの裏返しとしてのユーロ安という側面はあるものの、ユーロ側にも売られる要因が数多くあると指摘。写真は欧州中央銀行(ECB)旧本部前にあるユーロのサイン。2017年11月にドイツのフランクフルトで撮影 (2018年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

しかし、ユーロ圏は政治・経済面に照らして四面楚歌とも言える状況にあり、必然的なユーロ安がドル相場を押し上げているという欧州側からの視点も重要と考える。

今のユーロ圏は、直感的に思いつくだけでも、1)域内経済の減速、2)新年度予算編成を巡るイタリアの政局、3)英国のEU(欧州連合)離脱(ブレグジット)交渉、4)「ポスト・メルケル」を目前にしたドイツの政局、5)対米貿易摩擦──という5つの不安を挙げることができる。

本稿執筆時点では3)に関し、英政府とEUが草案の合意に至ったとの速報が流れているが、英議会を無事に通過できなければ何も合意したことにはならない。また、後述するように、ブレグジット交渉の行く末は数ある不安のうちの1つに過ぎない。

1)は、今年下半期に入ってにわかに注目を浴び始めた論点である。例えば製造業の購買担当者景気指数(PMI)は、今年1月に59.6だったものが10月には52.1へ、景況感指数も114.9から109.8へ急低下している。イタリアのPMIに至っては2014年12月以来の50割れを記録しており、統計上は景気の縮小を示す局面に突入している。

こうした減速感は、国内総生産(GDP)を筆頭とするハードデータにも現れている。昨年10─12月期から今年7─9月期の実質成長率は、順に前期比プラス0.7%、プラス0.4%、プラス0.5%、プラス0.2%と、はっきりと減速傾向を示している(ちなみにイタリアの7─9月期の成長率はゼロ%)。

ユーロ相場の上値が重い理由として、「そもそも実体経済に難があるから通貨が買われていない」というストレートな解釈がもう少し浸透しても良いだろう。

周囲からは、人目を引きやすい2)から4)のような、政治的リスクがユーロ相場に与える影響について質問されることのほうが多い。しかし、イタリア政府と欧州委員会、英政府と欧州委員会の軋轢(あつれき)の先行きは、もはや合理的に予想できる範囲を超えており、回答に窮すると言わざるを得ない。

<イタリア政府の強行突破リスク>

それでも、最も近い将来にすう勢がはっきりしそうなイタリアの問題に関しては、あえて解説を加えたい。欧州委員会は8日発表した秋季経済見通しで、イタリアの財政赤字が2019年に対GDP比で2.9%、2020年に3.1%と、安定・成長協定(SGP)が定める財政規律の基準3%未満を破るとの予想を示した。

これは、イタリア政府が提出済みの2019年度予算案に盛り込んだ2019年2.4%、2020年2.1%、2021年1.8%という見通しからかなり乖離(かいり)がある。3%未満という「水準」ばかりか、常に赤字が縮小していくという「方向感」の見通しまでずれているのだから、両者の溝は相当に深い。

常に「間を取る」ことが妙案と考えがちなEUの悪習を鑑みれば、財政赤字目標を両者の主張の間に落とすことで合意に持ち込む展開が、最もあり得そうなシナリオだろう。金融市場も、「どうせ今回もそうなる」と踏んでいると思われる。

EUの定める期限内に必要な修正措置をイタリアが行わなかった場合、名目GDP比0.2%相当の制裁金や補助金の凍結といったペナルティが用意されている。これを回避するために妥協が組まれる、というのがメインシナリオだが、イタリア政府が制裁を受けた上で欧州委員会の勧告を無視し、意のままに予算編成を行うことは技術的に不可能なことではない(そうした財政政策に関する強制力の欠如こそが、ユーロの本質的な欠陥である)。

本稿執筆時点では、イタリア政府は欧州委員会の修正要請に全く取り合う姿勢を見せていないだけに、頭の片隅に置きたいシナリオではある。

この場合、行政府としての欧州委員会の機能に疑義が生じる話になるため、ユーロは大きく売られる恐れがある。現状、イタリア財政問題を巡る最大のリスクは、こうした強行突破の展開だと筆者は考えている。

<ユーロ側にも売られる要因が満載>

また、メルケル首相退任後のドイツに関しては、キリスト教民主同盟(CDU)の党首辞任の一報が伝えられた際、ユーロ相場が売りで反応したことが思い返される。しかし、中長期的に見た「メルケルなきEU」の青写真は、その良し悪しを含めてまだ予想の形成が進んでいるとは言えない。

メルケル政権が晩年に推し進めた無防備な移民・難民受け入れ政策が修正され、経済面では緊縮路線の修正が見込めるなど、ポジティブな面を指摘できるかもしれない。一方で、メルケル首相の退場は極右政党「ドイツのための選択肢」の躍進と表裏一体であり、現状では「右派ポピュリズムの台頭でEU瓦解」という連想から、ユーロを手放す動きに寄与するニュースと考えるのが無難だろう。

ドイツの政局は、まず12月のCDU党首選が重要であり、「ミニ・メルケル」とも揶揄(やゆ)される党幹事長のクランプカレンバウアー氏が選ばれれば、すぐにメルケル氏が首相の座を追われるようなことはないとみられる。

反メルケル陣営に位置づけられるシュパーン保健相や、メルケル首相のかつての政敵であるメルツ元院内総務が選ばれれば、現政権の寿命はそう長いものにはなるまい。ドイツの政局がにわかに流動化していることも、ユーロの上値を押える要因と考えられる。

米国との貿易摩擦についても、中間選挙で米議会が「ねじれ」になったという事実をもってしても、トランプ政権の保護主義の矛先がEUに対して鈍ることはないだろう。引き続き、欧米の通商問題もユーロ相場のノイズとなるはずだ。

結局、当面のユーロ圏は減速している実体経済のもとで、内外の政治リスクを片付けていかなければならないという状況にある。冒頭指摘したように、ドル相場が強いことの裏返しとしてのユーロ安という側面はあるものの、そもそもユーロ側にも売られる要因が満載であるという事実は強調しておきたい。

<6つ目の不安はECB>

以上のような5つの不安に加え、6つ目の不安があるとすれば、こうした不安定な状況にもかかわらず、ECBが金融政策の正常化路線に固執することだろう。12月13日の政策理事会では再投資方針の行く末に議論が及ぶことになっているが、果たしてどこまで踏み込んだ正常化が可能、または適切なのだろうか。

10月の政策理事会では、「空気を読めていないECB」に疑義を呈するような質問が記者から目立ったが、筆者も同様の感想を抱いた。現在織り込まれている来年に1─1.5回の利上げというのは、かなり厳しい情勢になっていると思われる。だが強気の情報発信のせいなのか、いまだ2019年の利上げ開始を信じている市場参加者が多いように見受けられる。

筆者は来年にかけて高過ぎるドルが調整局面に入り、「敵失のユーロ高」が生じる可能性があると見込んでいる。しかし、足元のドル高基調が維持された状態で、ECBに対する利上げ期待がはげ落ちるようなことがあれば、ユーロ相場が1.10─1.15ドルを主戦場とし、1.10ドル割れを視野に入れる展開も否定できないとみている。

(本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

(編集:久保信博)

唐鎌大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト(写真は筆者提供)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below