January 16, 2019 / 8:11 AM / a month ago

コラム:ゲームチェンジの兆候、FRBは年内の利下げ視野=宇野大介氏

[東京 16日] - 米国は年末までに利下げに追い込まれるとみている。昨年11月の中間選挙で予算の決定権を握る下院を民主党が奪取したことにより、トランプ政権は財政面からの景気テコ入れが困難になったことに加え、景気循環面からも、米国の「1人勝ち」はこれ以上持続不可能と考えるためだ。

 1月16日、三井住友銀行の宇野大介氏は、米連邦準備理事会(FRB)が年末までに利下げに追い込まれると予想し、これまで通りに物事が進まない「ゲームチェンジ」の兆候が見受けられると説く。写真はFRBのパウエル議長。10日撮影(2019年 ロイター/Jim Young)

これまで通りに物事が進まない「ゲームチェンジ」の兆候は、さまざまな場面で観察されている。

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、中間選挙前に行われた昨年9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、トランプ陣営にエールを送るかのように、米国経済が「とりわけ輝かしい局面(Bright Moment)」にあると表現した。

中国の通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)幹部が逮捕されたことによる「ファーウェイショック」を経た昨年12月19日のFOMC声明文でも、「労働市場が引き締まり続け、経済活動が力強い速度で拡大し、家計支出は力強い伸びを続けた」と述べ、相変わらず強気の経済・金融見通しを披露していた。

しかし、昨年12月以降の株価急落を受け、FRBはこれまでの強気姿勢を放棄し、急に白旗を振り始めた。

パウエル議長は10日、FRBは追加利上げの判断を忍耐強く行うことができるとの認識を示し、段階的な利上げを当面棚上げする可能性を示唆。端的に言えば、金融緩和までの「時間稼ぎ」に入ったと言えるだろう。

市場参加者の中には、ボラティリティーが低かった昨年秋までのように、米経済に対しても、市場に対しても、楽観的な見方を続ける向きがあるようだ。

だが、株価急落を受けたFRBの翻意や、メキシコ国境の壁建設を巡る米国政治の混迷をみても、現在は大きな構図が変化するタイミングに差し掛かっているとの認識を持つことが必要だ。

金融市場の反応も変わってきた。米株式市場は、これまで1日や2日大きく下げることがあっても、その後切り返して反発後、一段高となり、史上最高値を更新する地合いにあったが、今の市場にはそうした弾力性や反発力はみられない。

<景気循環>

長期トレンドもゲームチェンジの様相を呈している。経済活動が全体として活発な時期と不活発な時期が、交互に入れ替わって現れる景気循環の中でも、設備投資を軸とする10年周期(中期循環)においては、直近の谷はリーマンショック翌年の2009年であり、次の景気の谷は19年となる。

振り返れば、14年に成長率がピークに達した米国景気は、15年のオバマ政権2期目もそこそこ輝かしかったが、同年8月と16年1―2月の2度にわたる上海株の急落(チャイナショック)を受けて、ピークアウト後の陰りを見せようとしていた。

利上げに尻込みするパウエル議長が現在、引き合いに出しているのは、ほぼ1年にわたって金利を据え置いた16年当時の米国だ。

このような状況下で登場したのが16年11年の大統領選で勝利したトランプ氏だ。トランプ大統領がインフラ投資や大型減税等の財政支出による成長維持に奔走する中で、米企業は利益を伸ばし、低金利環境下での社債発行で得た資金で自社株買いを活発化させ、株価を下支えした。トランプ氏により経済も株式市場も延命策が取られたことになる。

しかし、ここへきて企業利益の伸びは鈍化し、減税効果は減退している。また、中間選挙で予算編成の決定権を失ったトランプ政権は、追加財政政策の発動が難しくなった。

さらに、自らまいた種である米中通商戦争は、その反動がブーメランのように旋回して米国自身に跳ね返り、一部の経済指標を悪化させている。中国が売り上げの2割を占める米アップルは年末商戦を含む第1・四半期(12月29日まで)の売上高見通しを下方修正した。

<慣性の法則>

当初4回の利上げを想定していた2016年には、利上げが1度にとどまった結果、長期金利が押し下げられ、金融情勢の引き締まりが多少緩和された経緯があったが、今回は事情が異なる。

タカ派一辺倒できた市場参加者には、いわゆる「慣性の法則」が働いている。

FRBの段階的な利上げに加え、FOMCメンバーによる先々の利上げ予想まで刷り込まれているため、市場が見方を軌道修正するには時間を要しそうだ。

米先物取引所大手CMEグループのフェドウオッチによると、1月15日時点でフェデラルファンド(FF)先物2019年12月限は、1月15日時点でFRBが今年、FF金利を現行の2.25―2.5%に維持する確率が70.4%、1回の利上げ確率が16.5%、2回の利上げは1.3%となっている。

これに対して、1回の「利下げ」を見込むのは11.2%、2回の「利下げ」は0.6%と、現状維持や利上げ派に対して、金融緩和を予想する参加者は依然少数派だ。

これは、パウエル議長が4日に「適切なら経済を支える政策手段を総動員する用意がある」と明言しているにもかかわらず、だ。

今後も市場が本格的に利下げを織り込み始まるまでには時間を要するだろう。その過程で、経済指標の悪化の積み重ねや、米国債市場における逆イールドの形成、10年金利がFF金利上限である2.5%を割る動きが早晩、観察されることになろう。

19年は、内政・外交・経済・市場などで、従来とは逆サイドに物事が振れることが見込まれる。ガードを高くして、それに備えておきたいところである。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

宇野大介氏 三井住友銀行 チーフストラテジスト(写真は筆者提供)

*宇野大介氏は、三井住友銀行のチーフストラテジスト。1990年3月慶應義塾大学経済学部卒業後、同年4月住友銀行(現三井住友銀行)入行。1991年から市場分析・相場予想に携わる。

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編集:森佳子

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