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コラム:日銀緩和の株高円安効果、9月復活へ=木野内栄治氏
August 31, 2016 / 5:56 AM / a year ago

コラム:日銀緩和の株高円安効果、9月復活へ=木野内栄治氏

[東京 31日] - 筆者は、9月から日銀の政策による株高・円安効果がよみがえると考えている。まず、上場投資信託(ETF)購入増額の株高効果が、2日以降に顕在化するだろう。

周知の通り、日銀は7月末にETFの年間購入額目標を3.3兆円から6兆円に引き上げた。日銀は別途3000億円の株式売却の計画があるので、今後は年間で5.7兆円の買い越しペースの公算だ。しかし、結果的に8月の購入ペースは鈍い。増額した形でのETF購入は、8月30日までで4回しか実施できていない。

年間5.7兆円ペースの購入目標額を消化するためには、毎月7回程度の買い入れ実施が必要だ。日銀はこれまで前場に市場がそれなりに下落したことをトリガーにして、後場にETFを購入してきたように見えるが、このトリガーを変える必要に迫られている。

日銀はすでに8月中旬にもトリガーを変える方向に内規を見直しているようにも感じるが、公表されている購入金額は毎月第二営業日から変更されることが常態化している。よって、日銀がより積極的に行動し始めるのは9月2日からになる可能性が高いと考える。

<日銀ETF購入で最大約3000円の株高効果>

5.7兆円の株高効果は大きい。過去25年間を見て、この規模以上の買い越し主体が登場した年は5回しかなく、そのいずれの年も日経平均は上昇している。これらの年の大幅買い越し主体は結果的にすべて外国人投資家だったが、元来リスクテイク能力の大きい外国人は日銀のETF購入に追随すると考えるべきだ。

つまり、5回の中でも買い越し額が大きい上位の3回が参考にできると思う。2013年、2005年、1999年で、最大買い越し主体(外国人投資家)の買い越し額はそれぞれ15.1兆円、10.3兆円、9.1兆円、日経平均の上昇幅は5896円、4623円、5092円だ。5.7兆円当たりの上昇幅に換算すると、2000円から3000円程度となる。

日銀の大規模な購入に対し、まとまった売却ができるのは、結果的に国内機関投資家しか残らないと思う。「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)+4共済」の保有株式は昨年度末に約38.8兆円で、この時価が14.7%上昇すると5.7兆円の時価上昇となり、その分、新たな売却余地が生じると言える。

乱暴な試算だが、やはり日銀による5.7兆円の買い入れインパクトは、年間で2000円から3000円程度、日経平均を持ち上げる要因と推計できる。

<ETF購入はリスクオフを和らげる金融緩和策>

ところで、ETF購入に関しては誤解が多い。日銀のETF購入時に市場がどう反応しているかを、統計的に分析した結果、株価が下落していることが多いとの主張を目にすることがある。これは、上述のように下落したときに買っているのだから当然だ。因果関係が逆転した分析である。

一方、下落したときだけ買うのだから下支えになりこそすれ、株高にはならないとの指摘もある。しかし、どんな投資家でも安い時に仕入れたいと行動している。下値が切り上がるなら複数日ベースでは株高に作用するだろう。

また、日銀によるETF購入(株式買い支え)が金融緩和策と言えるのかと揶揄する声もあるが、日本株が下落してしまう場面では、同時に円高が進んでしまうことも8月には多かった。ETF購入による株式市場での安心感が、円高を阻止していた面があったことが明白になったと言える。ETF購入はリスクオフを和らげる立派な金融緩和策であることが証明された。

さらに、日銀のETF購入はコーポレートガバナンスを歪めるとの批判にも事実誤認が多い。議決権行使などは日銀が行うものではなく、運用会社が自らの判断で実行している。ETFの運用会社はどこも厳しく株主としての立場を貫いていると思うので、平均的な小口の投資家よりも企業へのプレッシャーは強い株主だと言える。日銀によるETF購入はコーポレートガバナンスが強化される方向に作用していると思う。

<ドル円は今年6月に底を打った可能性大>

日銀の金融政策とは離れるが、筆者は足もと円安にもなりやすいと思う。まず、8月30日には英ARMホールディングスの株主総会でソフトバンクによる買収が了承された。9月5日には買収完了となる公算だ。

ソフトバンクからは買収資金の為替レートは固めていると発表されているが、米スプリント買収時にも2013年7月10日の買収完了に向けて円安傾向が示現した。足もと円の需給は軟弱な可能性が高い。

また、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長は8月26日、カンザスシティー連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)のスピーチで非農業部門雇用者増加数の3カ月平均に言及した。この3カ月平均で見た非農業部門雇用者数は、昨年12月に利上げに踏み切った時点では21.8万人の増加だった(当時の最新ベース)。

今回は3カ月平均から外れる5月分のデータが小さい関係から、8月分が10.7万人しか増加しなくても3カ月平均は昨年12月時点と並ぶ。利上げのハードルはかなり低くなったと思う。米利上げ予想は円安要因だ。

これには伏線がある。5月27日にイエレン議長はハーバード大学での講演と質疑で、物価と雇用は改善が続き、今後数カ月内での利上げがおそらく適切だろうと指摘し、6月、7月の利上げの地ならしを行った。しかし、その一週間後に発表された5月の非農業部門雇用者増加数が激減してしまい、イエレン議長の面目がつぶれたと同時に、利上げは先送りとなった。

この経験からか、あるいはそもそも雇用統計がブレのある統計だからか、今回は3カ月平均を持ち出した。8月の雇用統計が発表されれば、3カ月平均からこの5月のデータが外れる。おのずと平均値は上昇しやすい。イエレン議長には今度こそ利上げをしたいとのひそかな決意があるのかもしれない。

なお、歴史的なパターンとして、米国で利上げが開始されるとドル高材料がいったん出尽くし、ドルはピークを形成してしまうことが多い。しかし、利上げ開始から6カ月程度でドル反落トレンドが終了するのも、よく見られるパターンだ。

よって、今回なら利上げを開始した昨年12月から半年経過した今年6月のドルボトム/円ピークが、ドル安トレンドの終焉だった可能性が高い。特に6月のボトムは英国民投票での欧州連合(EU)離脱選択に伴うショック安で形成されたので、1ドル99円を簡単には割り込まないと考えられる。

ドル円レートは、下値を更新しないならば、その25日線は応当日の関係から9月2日から6日に上向きやすい(一目均衡表で言えば遅行スパンが現在値を上回る好転が示現しやすい)。チャート面では円安加速のきっかけになる可能性がある。

余談かもしれないが、株式市場でも騰落レシオ(25日)は、すでに底入れた可能性があり、遅くても9月5日を境に上昇に転じやすい。足もと、日本の金融市場はリスクオンとなる可能性が高い時期と言えるだろう。

<総括検証は黒田日銀が神通力を取り戻す好機>

そして、日銀が9月21日に公表する総括的な検証にも期待がかかる。金融庁は日銀のマイナス金利政策による銀行への影響を調査し、収益悪化が銀行の貸し出し余力の低下につながるとの懸念を日銀に伝えたと報じられた。調査結果は総括的検証の材料になるという。

実際、マイナス金利を導入した国の株価収益倍率(PER)は、そうでない国と比べて3倍から4倍ほど低くなってしまうことが観測される。2014年以前は英国とドイツのPERはピッタリ連動していたが、欧州中銀(ECB)がマイナス金利政策を導入してからは大きく差がついてしまった。英国と日本のPERも2014年頃は連動していたが、いまでは大きな差がある。

日本の株式市場では、マイナス金利政策によって銀行株が大きく値を崩した。金融庁の指摘を市場は事前に理解していたと言える。ただ、マイナス金利政策がいったん棚上げされたり、深掘りがあってもイールドカーブが立ってくるような複合的な施策が打たれたりするならば、銀行株中心に株式市場ではリスクオンムードが広がろう。マイナス金利政策の弊害を差し引いても緩和効果が高いならば、日本のPERは上昇するはずだと思う。

9月の総括的検証で金融緩和効果が復活するとなれば、株高・円安は継続しよう。日銀に対する市場や社会からの不満が収まり、アベノミクス相場の新たなステージに進むことが期待できるだろう。

*木野内栄治氏は、大和証券投資戦略部のチーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジスト。1988年に大和証券に入社。大和総研などを経て現職。各種アナリストランキングにおいて、2004年から11年連続となる直近まで、市場分析部門などで第1位を獲得。平成24年度高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。現在、景気循環学会の理事も務める。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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