January 24, 2019 / 1:21 AM / 24 days ago

コラム:ユーロ相場、域内失速でも堅調の訳=唐鎌大輔氏

[東京 24日] - 世界的に景気の停滞感が強まる中、ユーロ圏の減速は特筆すべきものがある。国際通貨基金(IMF)は21日、昨年10月に公表した世界経済見通しを改定し、2019年の成長率見通しを3.7%から3.5%へ引き下げた。このうちユーロ圏は1.9%から1.6%へ下方修正した。

 1月24日、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏は、ユーロ堅調の理由として、域内の政治・経済が勢いを欠いているために投資家のセンチメント改善が進まず、対外的にリスクを取る動きが盛り上がらない側面があると指摘。写真はユーロの貨幣と地図、旗を組み合わせたもの。2015年5月にボスニア・ヘルツェコビナのゼニツァで撮影(2019年 ロイター/Dado Ruvic)

とりわけ失速著しいのが、18年7─9月期の成長率が14・四半期ぶりのマイナスに落ち込んだドイツであり、19年の見通しは1.9%から1.3%へ0.6ポイントも引き下げられた。

18年9月に施行された新たな排ガス基準への対応が遅れ、自動車生産が一時的に落ち込んだだけという見立てが多いが、そもそも世界経済が減速基調にあることを思えば、ドイツ経済の要である輸出の先行きは悲観的にならざるを得ない。この先、ドイツの成長が加速する公算は大きくなさそうだ。

他のユーロ加盟国に目をやると、民衆の抗議デモにあえぐフランスの成長率が1.6%から1.5%へ、政局混乱から新年度の予算編成がもたついたイタリアが1.0%から0.6%へ下方修正され、ユーロ圏3大国の成長率がさえない結果となった。

これまでは、好調なドイツ経済がユーロの一部加盟国のもろさを糊塗(こと)してきたわけだが、現状はそれとは真逆の様相である。なお、米国の見通しについては据え置かれ、日本については上方修正された。日米欧3極の中で、ユーロ圏の劣後感が一段と際立つ格好となった。

<ユーロ相場を支える資本フロー>

ところが、誰が見ても不調と言わざるを得ないユーロ圏の政治・経済情勢とは裏腹に、ユーロ相場には底堅さが漂う。

昨年11月以降、ユーロ/ドルは1.14ドルを挟んでほとんど方向感が乏しかったが、19年の年明け直後には1.16ドルに迫る場面すら見られた。これは昨年の秋からドル相場が急落しているという「敵失」による部分が大きく、決して域内情勢を前向きに評価したものではない。

ただ、ユーロ堅調の理由はそれだけとも言い切れない。域内の政治・経済が勢いを欠いているために、投資家のセンチメントの改善が進まず、対外的にリスクを取る動きが盛り上がらないという側面もあるのではないだろうか。その結果、為替市場におけるユーロ売り・外貨買いも抑制されている可能性がある。

域内情勢が影響し、域外から入ってくる資本フローは当然多くない。その一方、域外経済を目指して出て行く資本フローも統計上は多くない。こうした事実は、ユーロ圏の国際収支統計における対内・対外証券投資の動向から確認できる。

まずは対内証券投資に目をやると、直近3年間でユーロ圏への積極的な買い越し(流入)が見られたのは、17年前半と18年前半(厳密には1─4月ごろ)ぐらいである。それ以外はユーロ建て資産を物色しようという雰囲気はあまり見て取れない。

17年前半の前者の時期は、マクロン仏大統領誕生に端を発する欧州連合(EU)の政治安定化への期待が強まり、メルケル独首相と合わせた「ダブルM」や「メルクロン」といった造語も飛び交っていた。英国ではEU離脱(ブレグジット)に向け、米国ではトランプ大統領の誕生を受けて情勢が混沌としていただけに、独仏の政治的な安定に寄せる期待が膨らむのも無理はなかった。

18年前半の流入は、欧州中央銀行(ECB)の金融政策正常化プロセスを見込み、ユーロ建て資産への投資が活気づいていたタイミングと重なる。

しかし、18年後半に入ると、ユーロ域内への証券投資はほぼ途絶している。ブレグジット交渉の混迷に加え、域内の基礎的な経済指標が軒並み悪化し続けている状況を受けて、ユーロ圏を敬遠する投資家が増えたのではないかと推測する。

一方、域内から域外への対外証券投資は買い越し(流出)基調だが、こちらもその勢いはにわかに衰えており、18年9月以降は売り越し(流入)が膨らんだ。域内企業が域外に留保していた資金を還流(レパトリエーション)させた結果、ネット資本フローが大幅流入に転じている。

<細る「欧州から米国」のフロー>

ユーロ/ドル相場と資本フローの関係性を見る上では、ユーロ圏と米国間の証券取引動向にも目を配りたい。米財務省が公表する「対米証券投資統計(TICデータ)」が参考になる。

この統計にはユーロ圏というくくりが存在しないため、「英国を除く、その他欧州」の数字を使うが、基本的に両地域間を流れる資本の方向感は、「欧州から米国」ではなく「米国から欧州」である。なお、欧州からの投資は英国を経由している部分が小さくないと推測されるため、実際は相当額の「欧州から米国」のフローが存在するとみられる。しかし、18年に限って言えば英国から米国への資本流入も細っている。

統計の中身を具体的に見ると、欧州から米国への証券投資は17年通年で約650億ドルの売り越しだった。それが18年1─10月には、売り越し額が約1138億ドルとおおむね倍のペースで膨らんでいる(TICデータは本来11月分まで出ているはずだが、米政府機関閉鎖の影響で10月までしか確認できていない)。

一方、英国から米国への証券投資は17年通年で約2839億ドルの大幅な買い越しだった。それが18年1─10月には約820億ドルの買い越しへと急ブレーキがかかっている。

こうしたデータを見る限り、政治・経済の混沌とした状況などを背景に域内のリスク許容度が低下し、欧州から米国への資本フロー(対外証券投資)が抑制されている傾向がうかがえる。数字上のこうした事実は、ユーロ(やポンド)の対ドル相場を考える上では「追い風」だろう。また、世界最大の経常黒字を抱えるユーロ圏が域外への投資を控えれば、実需もユーロ買いが優勢となりやすいはずである。

ユーロ相場が堅調に推移している背景には、「ドル安による敵失」というシンプルな理由以外に、資本フローが域内に偏在しがちであるという事実も考慮したいところである。域内・国内の政治・経済情勢が芳しくなくても、当該通貨が値を下げないどころか騰勢を強めることもある。それは、災害時などにレパトリが起きやすい日本でおなじみのメカニズムだ。

ユーロとドルは基本的に「弱い者比べ」の様相が続くと思われるが、金融政策とそれに付随する金利が巻き戻す余地が大きい分、年内のユーロはむしろ対ドルで強含みやすい局面が続くのではないだろうか。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

(編集:久保信博)

唐鎌大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト(写真は筆者提供)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

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