August 1, 2019 / 9:45 AM / 4 months ago

コラム:根強い米利下げ期待、ドル円に下方圧力=亀岡裕次氏

[東京 1日] - 米連邦準備理事会(FRB)が7月31日に決定した25ベーシス・ポイント(bp)のフェデラル・ファンド金利(FF)引き下げは、2009年6月から10年余り続く米国景気拡大局面において最初の利下げとなった。

 8月1日、大和証券のチーフ為替アナリスト、亀岡裕次氏は、米国では利下げ期待が根強く残り、金利が上昇しにくく、リスクオフと長期金利低下がドル円に下押し圧力として働く可能性が高いと指摘 。写真は連邦公開市場委員会後、会見するFRBのパウエル議長をモニターで視聴するニューヨーク証券取引所の職員。7月31日、ニューヨークで撮影(2019年 ロイター/Brendan McDermid)

米連邦公開市場委員会(FOMC)声明は、今後の情報が示唆するものを注視して「適切に行動する」としたが、パウエル議長が長期緩和サイクルの開始を否定したため、追加の利下げ期待がやや後退した。

資産縮小停止を9月末から8月1日へと2カ月前倒ししたものの、FRBは市場が期待するほど金融緩和継続に積極的でないとの印象を与えたようだ。リスクオフの株安や、イールドカーブのフラット化を招く一方、短中期債を中心とする米金利上昇により、ドル円は109円を超えて値を上げた。

ここでは今後のドル円相場の展開がどうなるか、過去の利下げ局面を参考に考えてみる。

<カギは米長期金利の動向>

前回の米利下げ期間は07年9月から08年12月にかけての15カ月間で、FRBはFF金利誘導目標を10回にわたり5%ポイント余り引き下げた。米国の株価は07年10月から09年3月にかけて17カ月間下落し、景気は07年12月から09年6月にかけて18カ月間、後退局面となった。

当時のドル円相場を見ると、利下げ開始前の07年7月から、FRBが利下げ完了後に量的緩和を行っていた11年10月まで下落が続いた。利下げや景気後退が終わっても、中長期債の金利が底打ち(米2年国債金利が11年9月、10年国債金利が12年7月に底打ち)するまで、下落トレンドが続いたのだ。また、利下げ期間中でも中長期債金利が反発するとドル円は上昇しており、中長期債金利の動向がドル円を左右しやすいことが分かる。

一方、今回は米国景気が「減速」しても「後退」に至らないうちに底打ちする可能性があるため、米利下げの期間と幅は前回に比べてはるかに小さくなりそうだ。米長期金利がいつ上昇基調に転じるかが、ドル円相場のカギを握るだろう。

<小幅利下げでは米長期金利は上昇しにくい>

参考となるのが、米国が利下げを継続する中で景気が後退していた08年3月に、米長期金利とドル円が反発した局面である。FRBが07年9月に利下げを開始し、誘導目標を5.25%から4.75%へ引き下げた当初、FF金利は米10年国債金利4.48%を上回っていた。利下げを続ける中で長期金利も低下し、FF金利が米10年国債金利を上回る状況が続いたが、08年1月にFF金利が3.00%まで引き下げられると、米10年国債金利3.70%を大幅に下回った。

08年3月の米供給管理協会(ISM)製造業景況指数が50を割り、全米経済活動指数(3カ月移動平均)がマイナス0.80へと大幅に低下するなど、景気後退懸念が強まったために、米10年国債金利は3月にかけて3.30%まで低下した。だが、同月にFF金利が2.25%まで引き下げられると米長期金利は反発し、ドル円も上昇に転じた。

つまり、米景気後退懸念が強くても、長期金利を大幅に下回る水準まで利下げしたことが、米長期金利とドル円の反発につながった。

ただ、ISMの製造業新規輸出受注指数が08年9月まで50を上回っていたことからも分かるように、当時はロシアやブラジルなど新興国の台頭が世界経済の成長を支えていた。そうした中で米国が利下げを大幅に進めたことが、ドル安と商品市況高を招き、インフレ期待の高まりもあって米長期金利が上昇に転じた。

米国は景気後退への懸念が強まる状況にあったが、FRBの大幅な利下げと堅調な世界経済が、米長期金利とドル円の反発につながったと考えられる。

08年当時と比べ、米国の最近の景気減速は緩やかだ。ISM製造業景況指数は19年6月時点で51.7と50を超え、全米経済活動指数(3カ月移動平均)は5月時点でマイナス0.17と、景気後退の目安とされるマイナス0.7以下を上回っている。

ただ、中国、欧州、日本など世界的に経済が減速し、金利が低下傾向にあるため、米国が利下げしてもドル安と商品市況高を招きにくく、むしろドル高が進んでいる。米国の景気後退懸念が小さいからと言って、FRBの小幅な利下げによってインフレ期待が高まり、長期金利が上昇に転じやすいわけではないだろう。

現状、先物市場は2020年6月までにFF金利が1.50―1.75%へ引き下げられると予想しており、米2年国債金利は1.90%近辺、米10年国債金利は2.05%近辺の水準にある。FF金利が米10年国債金利を下回り、2年国債金利と同等の1.75―2.00%か、それ以下の水準まで引き下げられないと、景気減速懸念が緩和せず、米長期金利とドル円は反発しにくいのではないか。米国の景気指標が悪化した場合には、米長期金利とドル円が反発するのに必要な水準まで利下げ幅は拡大するだろう。

<ドル円の上昇が進むには時期尚早か>

米経済指標の一部に改善の動きが見られるが、予断は許さない。7月に米地区連銀製造業景況指数が回復したのは、6月の指標に悪影響を及ぼしたメキシコに対する追加関税懸念が後退したためだ。7月の新規受注や未決済受注の指数はマイナス(悪化超)となっているものが比較的多く、景況改善が続く可能性は高くない。

一方で、15年12月以来の水準へ大幅に低下した7月のシカゴ景況指数など悪化した指標もあり、ISM製造業景況指数が明確に改善するとは考えにくい状況だ。6月に市場予想を上回った米非農業部門雇用者数の増加幅が7月に明確に縮小すると、景気減速懸念が再び広がり始める可能性がある。

FRBの利下げで景気減速に歯止めがかかるとの期待が強まって、米長期金利とドル円が上昇していくためには、景気指標に改善の兆候が広がる必要があるだろう。

今回のFOMCでは、ごく一部に50bpの利下げ期待もあったが、引き下げ幅は大方の予想通り25bpとなった。パウエル議長が長期緩和サイクルの開始ではないとしたことで利下げ期待はやや後退したが、追加利下げの可能性も示唆している。

結局は今後の経済指標次第だろうが、市場には世界経済減速とインフレ低迷の見通しが根強く残り、利下げ打ち止め感は出にくいものと思われる。そうした中でFRBが金融緩和に消極的と市場にみなされればリスクオフを招きやすいだろうし、リスクオフが景気に悪影響を与えることで利下げが続きやすくもなる。

しばらくは利下げ期待が根強く残って米金利は上昇しにくく、リスクオフと米長期金利低下がドル円に下押し圧力として働く可能性の方が高いだろう。FRBの利下げを受けて米長期金利とともにドル円の上昇が進むと見るのは、時期尚早かもしれない。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

(編集:久保信博)

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