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コラム:トランプ政権が招く「意図せざるドル安」=熊野英生氏
2017年4月12日 / 08:25 / 8ヶ月前

コラム:トランプ政権が招く「意図せざるドル安」=熊野英生氏

[東京 12日] - トランプ政権は、意図せざるドル安・円高を招いている。第1の理由は、経済政策の看板の1つとして掲げてきた法人税減税の行方がますます見えなくなっていることだ。

議会は上下院とも共和党が多数派なのに、医療保険制度改革法(オバマケア)の代替案を通すことができなかったことで、法人税減税はもっと難しいのではないかとの暗雲が立ち込めている。

年内に有効な景気刺激策を発動できなければ、2018年秋の中間選挙は、共和党が不利になる可能性がある。今よりも議会運営が楽になることが望めないとすれば、米経済のシナリオを少し前のように楽観視できない。

さらに不都合なことも起こってきた。シリア・アサド政権に対するミサイル攻撃に加えて、北朝鮮に次なる制裁圧力をちらつかせていることだ。米ロ関係は一時の楽観ムードが変わり、中国もトランプ政権が期待するようには動いてくれない。地政学リスクの高まりは円高要因である。

結局、「アメリカ・ファースト(米国第一)」を掲げても、米国は孤立主義にはなり得ない。軍事・外交の主導権を軍人や国務省のベテランが担うと、米国中心の覇権を手放すようなことはできなくなる。オバマ前政権の弱腰を批判しても、中東・アジアの火種を放置することはできず、逆に介入度合いを深めてしまったのが実情だ。この方針のぶれが、トランプ外交の前途を不安視させる。これがドル安要因である。

<救いは経済の強さ>

経済思想には、「政府が何もしないのが、一番の景気対策になる」という保守の見解がある。意図せざる結果として、現状もそうなってきている。

大減税もインフラ投資もやらなければ、オバマ前政権が築いた財政赤字の抑制が守られる。国境税の導入も止めてしまえば、輸入コストが上がらずに貿易促進を続けられる。

米経済は雇用改善が完全雇用へと進んで、トランプ大統領が望んだ状態に近づいている。舵取りは米連邦準備理事会(FRB)に任せて口を出さずに利上げを見守るのがよい。FRBが2018年初になってインフレなき成長を成し遂げて、かつ、ドルの短期金利が上昇していれば、そのままイエレン議長を再任して何の問題もない。

実は、下手な介入をせずに経済の追い風を持続させることこそが、ドル高要因である。つまり、目先、トランプ政策が不発で、軍事・外交もリスクを高めても、経済分野の強さがあるから大幅なドル安にならずに済んでいるとみることができる。

<不気味な米長期金利>

筆者は、米経済が必ずしもバラ色だとはみていない。むしろ、上昇しない米長期金利には潜在的な不安が投影されているのではないかと感じている。本当ならば、2017年初から物価指標が上向きになって、FRBの利上げ観測と相まって米長期金利はさらに上昇してよいと思っていた。その期待はこれまでのところ裏切られている。

上がりすぎた米株価が調整されて、債券にシフトしたと説明すればわかりやすい。それでも物価の基調が2%になって、米長期金利が2%台前半という相対関係は、米成長シナリオと矛盾しているように思える。これは短期の需給では説明できない。長期の成長見通しが強気になれない姿が隠れていると思う。低金利の構造問題と言ってもよい。

筆者は、1)トランプ失策、2)地政学リスク、3)低金利構造の3つがドル安要因として重なっているとみている。一方、ベースとなっている経済ファンダメンタルズは、雇用と物価が改善し、消費者心理がそれを反映して好転していく状況にある。これはドル高要因だ。

本来は、ファンダメンタルズの好調さによってドル高になってもおかしくないが、3つのドル安要因がじりじりと存在感を増している。最も気掛かりなのは、低金利構造の行方だ。ここには、成長見通しが昔のように上向かず、長期停滞のリスクを気にかける臆病な投資家心理が横たわっているとみている。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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