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コラム:黒田日銀総裁の勇み足=熊野英生氏
2017年6月6日 / 05:07 / 5ヶ月後

コラム:黒田日銀総裁の勇み足=熊野英生氏

[東京 6日] - 日銀の黒田東彦総裁によって口火が切られた出口戦略の議論は、どうしても勇み足のリスクを感じてしまう。本当に、2%の物価上昇を達成した後に、日銀が長期国債の買い入れを減らせるのだろうか。そして、その先に昔のように民間金融機関が主体になった債券取引で長期金利が決定する世界に戻れるのだろうか。

出口戦略がどうしても遠い彼方だと感じさせるのは、物価上昇2%のハードルがあるからだ。急激な円安と原油上昇なくしては、消費者物価は2%まで上がらない。そこまで円安になるには、米長期金利上昇がもっと進み、ドル高が起こる必要がある。米長期金利は2%台前半からなかなか動けず、インフレ率の前年比が上昇しても反応薄である。米実質金利は、低下しているのが実情だ。

日銀が円安を待っているうちに、米経済が減速すれば、今度は逆に円高対策として緩和策を用意しなくてはいけなくなる。そのとき、人々は、現在の黒田総裁の出口戦略への言及について、「あれは勇み足だった」と述懐することになろう。筆者は、そうなることを心配する。

<今しかないと黒田総裁が思う理由>

なぜ、今、出口戦略を語らなくてはいけないのかを考えると、理由は1つしかない。黒田総裁の退任が近づき、次期総裁が遠からず決まるからだ。

黒田総裁は、自分が巨大な緩和策を打ち出した手前、出口戦略を語ることなく去ることは無責任だと批判される。だから、自分の責任において、量的緩和をどう手じまっていくのかという道筋をつけたいのだ。

この方針は、次の総裁に引き継がれ、出口戦略を無視できなくさせるだろう。政府に対しても、財政再建を進めなくては、出口戦略に伴う混乱が大きくなると感じさせて、財政規律を意識させることになろう。

黒田総裁は、2018年4月8日までの任期中に出口政策そのものに着手することができないと自覚しながらも、そこへのレールを敷くだけで十分に意義があると感じているだろう。

逆に言えば、2%の物価上昇に手が届いていなくても、未来の出口を語ることで、多くの人々に出口の用意を促せるのである。

<総裁再任への「布石」説>

出口戦略のレールを黒田総裁がどんなに用意周到に準備したとしても、量的拡大の効果を信じる人物が次期総裁になれば出口戦略は水の泡と消える。政治の意向が強く働いて、出口戦略を全く許さない人物が総裁候補として浮上してくる可能性は否定できない。

後から「黒田総裁は出口を語らなければよかったのに・・・」と批判されることにもなりかねない。この場合も、寝た子を起こしたのは、やはり勇み足だったということになる。

反対に、全く違った思惑を予想することもできる。黒田総裁再任シナリオである。自分が始めた緩和の幕引きまで自分がやりたいと、黒田総裁が暗に意思表示をしているという穿(うが)った見方である。

それができる人物が見当たらないのならば、黒田総裁再任は他の人物が仕切って巨大緩和を引き継ぐよりも無難と言える。もしも再任が実現すると、黒田総裁は積極的に出口戦略を実行できる大義名分を得たも同然である。実は、勇み足にみせておいて、自分しかうまく出口戦略を仕切れる人物はいないことを強調する。

こんなストーリーが成功すれば、きっと黒田総裁は「マジシャン」と呼ばれるに違いない。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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