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コラム:財政危機はフィクションではない=熊野英生氏
October 6, 2017 / 8:36 AM / 2 months ago

コラム:財政危機はフィクションではない=熊野英生氏

[東京 6日] - 2020年度に基礎的財政収支(PB)を黒字化するという目標が先送りされる。次なる期限はまだ決まっていない。

以前から、2020年度の達成実現は無理という意見は根強かった。2017年度の見通しは18.4兆円(国+地方)の赤字。これを2020年度に8.2兆円の赤字まで減らしたとしても、まだ黒字化までの距離感は途方もなく大きかったからだ。

2019年10月に2%の消費税率引き上げで5.6兆円の税収増が見込めたとはいえ、それで黒字化は無理だ。安倍晋三首相は、そこから少なくとも2兆円を教育などの無償化に流用するという。消費増税分の使途変更というよりも、それ以前にPB赤字幅の縮小がうまく進められなかったという理解が正しいと思う。

<五輪前後に財政出動が繰り返される恐れ>

困ったことは、次なるPB黒字化の目標をどこに置くかが見えにくいことだ。2020年には東京五輪がある。五輪効果が見込めたとしても、そこで財政出動をしてしまうと、必ず五輪が終ってから景気に反動が表れる。五輪景気の反動が不況をもたらすリスクである。

その不況に対して、大型経済対策を打ち出すと、そこでまた財政出動となる。五輪前に財政出動すればするほど、五輪後にも別の財政出動が必要になるというのは極めて変な理屈だ。

冷静に考えると、東京五輪では何の作為をしなくても景気効果があるのだから、余計に財政出動などせずともよい。余計な事前の財政出動を控えるほど、反動不況は小さくて済む。

実は、2020年度をPB黒字化の期限にしていたことは、余計な財政出動をしないための重しになっていたのである。ならば、消費税の使途変更をしたとしても、2020年度にPB黒字化するという公約を、2019年10月頃まで我慢強く維持するという手はあったと思う。それは、五輪直前まで大盤振る舞いができない堅牢なブロックの意味である。

筆者は、まだ2017年秋なのに、早々と2020年度の期限を後ろにずらそうとすることを非常に悔しく思う。

<投資家の疑心暗鬼が生むリスクプレミアム>

自動車でも飛行機でも事故が起こったときは厳しく責任が追及される。メーカーや事業者は、事故の兆候があったかどうかなどを論じるまでもなく、事後的な責任をとらなくてはいけない。無過失責任が問われる。

では、財政運営についてはどうだろうか。金利上昇や資本流出による輸入インフレといった弊害が、財政リスクが顕在化したときには警戒される。そうした心配は、未来に対してゼロと言ってよいのだろうか。

財政リスクなど単なるフィクションにすぎないという見解は根強くあり、現在でも相当の求心力を持つ。ただし、そうした見解に便乗して財政再建を放棄した後で、財政リスクが顕在化したときには、オピニオンリーダーたちは何の責任もとらないだろう。これは危険な構図だ。

すでに財政リスクは、日本国債の信用力を映すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料に表れてきたという見方もある。そのレートが0.4%であれば、長期金利0―0.1%の間では逆ざやになってしまう。

CDSの買い手は、保有する国債を売却することなく、リスクヘッジをしたいと考える投資家であろうから、CDSのニーズ自体に歪みがあって、正しく財政リスクを表現しているかどうかはわからない。長期金利の水準も、PB黒字化の延期によって多少は上昇したように見えるが、この変動幅も財政リスクを正しく反映しているとは言えない。

全体で見て財政再建の漂流はまだマーケットプライスの中に反映されていない。議論すべきは、変化がないということをもって財政リスクなどないと言い切ってよいかどうかである。

もしも、財政リスクを映す鏡がなく、どんどんリスクが高まる出来事が起これば、リスクは突然に襲ってくる。そのときは、投資家の疑心暗鬼がリスクプレミアムとして加わる。そのことがより恐ろしいことに思える。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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