January 11, 2018 / 2:04 AM / 3 months ago

コラム:2018年の「円安シナリオ」を疑え=熊野英生氏

[東京 11日] - 2018年のドル円レートは、円安に向かうように見える。そうした材料がそろっているから仕方がない。

その材料を大きい順に並べると、1)米連邦準備理事会(FRB)の利上げ継続、2)完全雇用下で徐々に切り上がっていく労働コスト、3)トランプ米政権の減税政策による需要超過への後押し、である。

これらの材料が、従来上昇しにくかった米長期金利を大きく上方シフトさせれば、ドル高円安が実現しそうだ。しかし、考えてみると、こうした展望は2017年中にずっと裏切られてきた円安予想をまた繰り返し述べているにすぎないと思える。問題の本質は、なぜ米長期金利が上昇しにくいのか、という点だろう。

そこが変わらない限り、せいぜい2017年と同じように1ドル=108―115円のレンジで為替レートは循環的に変動することになるだろう。

<拡大しにくい日米金利差>

日銀の黒田東彦総裁は、5年の任期中、円安をてこにした物価上昇を一貫して狙ってきた。我慢強く緩和を続けていれば、いつの日にか米長期金利が上がって円安になってくれる。その信条にすがりついて、今後のインフレ期待を定着させようと考えている。

しかし、国内をマイナス金利にして、極度の運用難をつくり出した結果、国内資金は米債券投資へと向かう。その効果は、米長期金利の低下である。日本が徹底した金融緩和を行うと、日米金利差がかえって拡大しにくくなる。

なぜ、そうした常識に反することが起こるかと言えば、米国でも低金利によって景気が過熱する状況を生み出せなくなっているからだろう。正確に言えば、需要超過で価格上昇が相次いでインフレ率が押し上げられる経験則が成り立ちにくいのである。

減税効果も、本来ならばすでに相当のインフレ圧力になっているはずである。企業行動は、減税によって手元のキャッシュが増えるから、設備投資に回るというものにはならないだろう。投資はその期待収益率がある程度見込めるから増えるものだ。投資機会があって資金制約に直面した企業ならば投資を増やす。そうでない企業は、自社株買いなどに余剰資金を回すだろう。米国もまたカネあまりが実需につながりにくくなっている。

<大幅なドル安円高は杞憂か>

米景気が盤石であれば大幅なドル安円高にはならないという見方は根強い。北朝鮮リスクなどが一時的な円高要因として存在するが、それは継続的なものではないだろう。

むしろ、米金融政策の利上げ見通しが大きく慎重化して、米長期金利が低下する可能性を考える方がよい。この点は、米景気がしっかりしているから、金利低下にはならないというのが大勢だろう。筆者のメインシナリオも、米長期金利はそれほど低下しないというものだ。2018年も2017年とおおむね同じレンジで推移するとみている。

リスクシナリオは、バブル気味になった米株価が急落して、長期金利を押し下げることである。FRBの引き締めが、米連邦公開市場委員会(FOMC)に参加するメンバーが変っていくことで予想外に進みそうだとの見方が広がる可能性は十分にある。株価のバブルがしぼむのは、実体的ショックではなく、シンボリックな出来事で起こる。米金融政策の見通しや、トランプ政権の突飛な行動、それから中間選挙も、動揺を生み出す材料と思える。

ならば、2018年は円高方向にレンジを広げるという見方ができる。その時期は年央以降になるだろう。当面は、減税効果への期待感が株価上昇を演出するだろうが、それは長持ちせず、人々を「それでもインフレが起こらなかった」と思わせる。そうやって、ドル高円安シナリオは、また裏切られるだろう。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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