August 3, 2018 / 2:21 AM / 12 days ago

コラム:日銀版「ムーンウォーク」=熊野英生氏

[東京 3日] - 日銀は7月会合で発表した方針に、「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」という名前を付けているが、いま1つメッセージ性が伝わらない。引き締めなのか、緩和強化なのか、よく読んでも分からないからだ。

 8月3日、第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、日銀が7月会合で示した方針は緩和強化ではなく、4月会合でのインフレ目標達成期限の廃止に続く「脱リフレ」の第2弾だと指摘。写真は黒田日銀総裁。都内で2016年7月撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

黒田東彦総裁は会見で、展望レポートで物価見通しを引き下げて、物価安定目標の2%達成がまだ先になると、今度は副作用が強まって緩和継続ができなくなると困るので、副作用対策をしっかりやって我慢強く緩和を続ける、と言っている。

対策の1つは、長期金利変動を容認して、金利上昇に対して過敏に買い入れオペを打つのは手控えることである。すでに、最近の長期金利は、日銀の姿勢を受けて少し上昇していた。

黒田総裁は変動幅を2倍、つまりマイナス0.2%からプラス0.2%の範囲で動くことを容認すると言った。これは、国債市場機能をごく一部回復させて、金利上昇は金融機関が債券を買ってくるのを待つ姿勢をとるということだろう。

高い金利で債券を買えることは金融機関の収益にプラスである(そのくらいでは金融機関の収益は本質的にはよくならないことは気になるが)。

また、日銀がめどとして定めている年間80兆円の国債買い入れをより減額することも、民間金融機関に買い入れのチャンスを与えることになる。そのことは、先にある出口のところで、市場が自律的に金利上昇を抑える能力を高めることにもなるだろう。

さらに、日銀当座預金残高のうち、マイナス金利が適用される部分も、現在の平均10兆円程度から、5兆円程度へと変更する方針である。これは、大手行など預金が集ってマイナス金利の適用が避けられない金融機関の痛みを和らげることになる。

理由はともあれ、筆者は副作用対策を行ったことを評価する。黒田総裁は会見で、国債市場の機能低下だけが副作用のように話していたが、それは違う。本当の副作用は、巨大緩和が金融機関の収益に打撃を与えて、そのことが今後、金融システムに取り返しのつかないダメージを及ぼすことである。

<「脱リフレ」の第2弾>

今回の大きなポイントは、「政策金利のフォワードガイダンスの導入」だ。2019年10月の消費税率の引き上げまでは「当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している」と記した。この一文があるために多くの人は、今回の措置は緩和強化とみている。

このフォワードガイダンスは「当分の間」というところに力点がある。日銀は今回の措置を出口と関係ないというが、この文学的表現をこれからは微修正して、出口へと向かっていくことが感じられる。

この手法は、まさしく総合判断である。つまり、機械的なインフレターゲットの色は大きく薄まった。4月末会合での物価目標2%達成期限の廃止に続く「脱リフレ」の第2弾である。まさに、足を交互に滑らせ、前に歩いているようにみせながら後ろ向きに進む「ムーンウォーク」のようだ。

原田泰審議委員は反対票を投じて、「物価目標との関係がより明確となるフォワードガイダンスを導入することが適当である」とその理由を述べている。インフレターゲットから総合判断に変わったことがはっきりと分かる。原田委員は、皮肉なことに反対票を投じたことで機械的なインフレターゲットをやめたことを明確に伝えてしまっている。

もう1つ重要なのは、2019年10月まではフォワードガイダンスを働かせるというコミットメントが、消費増税を人質にしている点である。仮に消費増税をやめれば、このフォワードガイダンスが反故(ほご)になって金利変動が起きる可能性がある。

このタイミングは、欧州中銀(ECB)が利上げに動くと予定される2019年夏よりも後の時期と重なっている。ECBが利上げに動くと、それに対してそれほど遅れることなく、日銀も出口へと動けるような構えをとっている。ここは、黒田総裁が2期目の任期内で、出口戦略をしっかりやるぞという気構えが表われたところと言える。

熊野英生氏(写真は筆者提供)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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