May 11, 2016 / 2:22 AM / 2 years ago

コラム:日本の為替介入は本当に可能か=熊野英生氏

[東京 11日] - 4月28日の日銀金融政策決定会合で追加緩和が行われなかったことで、日本政府は為替介入を封じられているのではないかという思惑が強まった。ドル円レートは、為替介入が実施されないという観測が強まって、一時1ドル=105円台まで円高が進んだ。

一方、麻生太郎財務相が、「介入する用意がある」と5月9日に発言したことによって、再び介入警戒感が高まり、一時1ドル=109円台まで戻す展開になっている(日本時間5月11日午前11時現在は108円台後半)。

筆者は、為替介入が完全に封じられているとはみていないが、そのハードルはかなり高いのではないかと考えている。もしも為替レートが「無秩序な値動き」や「急激な変動」になれば、日本の為替介入は可能だろう。しかし、明らかに衆目が「無秩序だ」と一致する状況にならなければ、為替介入に対する説明責任に応えられないことになる。

日本の為替政策が、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議などの場でけん制されるのは、米国の政治情勢の変化を受けているのだろう。米大統領選挙では、実業家のドナルド・トランプ候補が共和党の指名をほぼ確実にしている。

仮にトランプ候補が日本の為替政策に手厳しい批判を加えるようなことがあれば、オバマ政権としては嫌なはずだ。これは、民主党のヒラリー・クリントン候補に不利に働くからである。オバマ政権は、トランプ候補から揚げ足取りをされたくないので、日本の為替介入に消極姿勢をみせるだろう。

<協調行動を求めるサミット議長国としての制約>

為替レートの変動に対して、為替介入も辞さないという日本側の姿勢もまた複雑である。

景気情勢は不安定であり、円高が企業収益に与える悪影響は警戒を要する。政治日程をみると、7月に参議院選挙を控えていることから、安倍晋三政権は円高・株安は好ましくないと考えているだろう。

また、安倍首相は、先行きの経済情勢や、金融市場動向をつぶさに観察しながら、5月末の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)後に消費税率の引き上げを予定通りの2017年4月に実施するかどうかを最終確認するとしているようだ。もしも急激な円高が景気情勢の先行きを不透明にするということであれば、政府も日銀も、必死で円高阻止に動こうとするだろう。

一方、安倍首相にとっては、サミットの議長国として、サミット開催までは為替介入に踏み切ることをなるべく避けたいと思っているだろう。なぜならば、サミットで各国に協調して財政出動を要請しようというときに、日本だけが手前で単独の為替介入をしたとなると、協調行動を呼びかけるときの説得力を低下させてしまう。この点も、日本が為替介入に踏み切るとすれば、よほどの円高にならなければ動きにくいと予想される背景である。

<日本経済は相対的に強いとみられている>

日本が為替介入をできるとすれば、原則として、日本経済が危機的だとみられているときである。安倍首相は、協調的な財政出動を各国に呼びかける際、世界経済は大きなリスクを抱えており、予見しがたい部分があると訴えているとされる。

この認識が共有されていれば、協調的な財政出動に動きやすくなり、潜在的に危機の下に置かれた日本の為替介入にも一定の理解を得られるチャンスはある。しかし現状は、日本経済はまだ相対的に強いとみられており、リスクへの共有がなかなか得にくいのではないだろうか。

仮に日本の政策に賛同が得られるとすれば、先の原則とは反対に、日本の経済成長によって他国が恩恵を受けると期待される場合だろう。例えば、日本とドイツが同時に財政出動を行って、それが米国などの輸出増加に寄与すれば、他の景気てこ入れにも賛同を得やすい。

おそらく、そうしたかたちで各国を説得するためには、一時的な円高阻止だけではなく、日本が成長戦略を今まで以上に強力に推進するというアピールが不可欠になろう。

今後、サミットを前にして、財政出動に話題が集まりがちになると思われるが、為替介入を含めて日本政府が自由度を得るためには、日本の政策全体が持続的な成長を期待させるという別の政策メニューがなくてはならないだろう。サミットまでの残された時間に、安倍政権が新たにどんなメッセージを発するか注目しておく必要がある。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below