July 6, 2016 / 2:32 AM / 3 years ago

コラム:英ショックが招く世界経済の緩慢な衰退=熊野英生氏

[東京 6日] - 英国民投票の日は、肝を冷やした人が多かったことだろう。あのときは、リーマンショックの再来と叫ぶ人も多かった。しかし、時間の経過とともに、状況が少しずつ違っていることがわかってきた。

まず、実体経済はほとんど変わっていない。もともと英国は、米国の次に利上げをすると目されていた国である。英国が欧州連合(EU)との間で従来通りの自由な交易ができなくなるとしても、それは先の話だ。

次に、英国の次期首相選びとEUへの離脱通告、そしてEU側の対応などの政治運営はゆっくりとしか進まない。時々刻々と出来事が消化されていく市場のスピード感とは歩調が合わない。いったんは様子見で買い戻しとなるのも自然に思える。

7月1日時点の米国株式市場でダウ平均株価は、英国ショックの直前ピークをほぼ取り戻している。もちろん、ショックに伴って生じた円高がじわじわと打撃を与えることは心配だが、「日本経済への悪影響はいかに」と問いただした人々はきっと肩透かしを食らっていることだろう。超大型の補正予算が必要という意見も、振り上げた拳(こぶし)の落としどころが見えにくい。

<成長ポテンシャルは低下>

筆者は、英国発のショックが即座に表れてくる性質ではなく、じわじわと経済活動を脅かす点で油断してはいけないと考える。例えば、日欧の経済連携協定(EPA)交渉や、米大統領選挙後の環太平洋連携協定(TPP)などとの関係で、自由な取引を阻害する流れが強まったとみられる。欧州の不協和音はこれから顕在化するだろう。

11月の米大統領選挙もまたきな臭い。同様のリスクの火種が株価、為替に大きな変動を及ぼすのではないかという連想も働く。欧州の保護主義の兆しが、米国に飛び火したとき、波乱は本格化する。

まさしく世界の関心事の振り子が、経済から政治へと振れて、政治も収斂(しゅうれん)から分裂へと向かっているように思える。これらの変化は、ゆっくりと自由貿易のメリットを低下させて、世界経済のポテンシャルを低下させることだろう。

<ゆっくりと日本化する欧米>

もう1つ、変化のポイントとしてリスク回避志向を挙げたい。米株価などはうまくリバウンドしてきたが、米長期金利をはじめとして各国金利が異様に低下したまま戻ってこない。

表現を変えると、ゆっくりした悪い変化が起こったとき、短期資金はすぐに戻ってきても長期資金はすぐには戻ってこず避難を続けることになる。そこには金融政策が慎重になったという見通しの変更もあろうが、投資マネーが臆病になっていることもある。超低金利が投資マネーを刺激するよりも、膨大な資金が行き場をなくして滞留したまま続くという「不全」である。

こうした状況を眺めると、リーマンショックから8年が経過した欧米はゆっくりとカネ余りの先進国である日本をなぞって動いているように思える。一頃言われた金融政策の限界論はその代表例に見える。もしも米連邦準備理事会(FRB)が追加利上げを断念するならば、日本の2000年の経験が語られることになろう。

<経済成長が求心力を持てない時代>

常々、筆者は人々が激しい変化に直面したときは機敏に対応できても、ゆっくりとした変化には適切な対応が取れないと考えている。

英国のEU離脱は当初、金融市場で大騒ぎになったので、日本などでは高い関心が持たれたが、その成り行きがゆっくりだったために、自由貿易体制などが脅かされるデメリットがあまり意識されず、各国が自由貿易の原則を守ろうと一致協力できない。

経済成長が求心力を持っている時代には、自由貿易に歩調を合わせやすいが、各国の人々が民族主義や格差に心を奪われると、協調による成長のシステムには遠心力が働く。

また、リーマンショック後の危機対応は、投資銀行が過度なリスクテイクを行ったことの反省から、投機的取引を抑制するような規制強化だったが、おそらく、あれから時代は変わってしまった。現在はこれだけ過剰流動性を生み出しても、かつてのようなリスクテイクは行われず、経済成長率はいつまで経っても以前のようには飛躍しない。長期的な課題として、規制のあり方も今一度問い直す必要がある。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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