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コラム:冷たい適温経済、金融政策頼みの罠=熊野英生氏
2017年9月6日 / 02:28 / 18日前

コラム:冷たい適温経済、金融政策頼みの罠=熊野英生氏

[東京 6日] - 米国経済は、昔話に例えられ、熱すぎもせず、冷たすぎもしない「ゴルディロックス(適温)」の状態にあると言われることが多くなった。要するに、米連邦準備理事会(FRB)が引き締めに前のめりにならずに景気拡大が低金利の維持によって長持ちしそうだという意味で「適温」なのである。

8月の雇用増は前月比15.6万人と少しペースが鈍いようにもみえる。9月の連邦公開市場委員会(FOMC)は、利上げを手控えて、バランスシートの圧縮に着手するにとどめることになろう。米長期金利は、利上げペースが慎重になることを見越して、7月ごろからじりじりと低下している。

そうなると、日米長期金利差も縮小する。米長期金利が上昇するとき、日本の長期金利も引っ張られて上昇するが、その際は結果的に日米金利差は拡大しやすい。今は、その逆が起こっているのだ。

ドル円レートに加わるショックとして、北朝鮮の軍事的挑発が円高要因とされるが、その下地には日米金利差縮小によって円高傾向になっていることがある。米国にとって適温に思えても、それが円高傾向を生み出す点を勘案すると、日本にとっては必ずしも適温とはならない。

両国の株価を並べてみても、適温の恩恵は米株価を押し上げているが、日本の株価は円高の重しが加わって、相対的には上昇していない。

<日銀にとっては「適温」>

日本の長期金利低下を歓迎しているのは、日銀である。長期国債の買い入れペースを縮小できる。過度な介入をしなくても、自然に長期金利が低下するのを見守ればよい。政府の利払費が少なく済むので、金融緩和への圧力も高まらない。

さらに言えば、少し前に話題になった出口政策への言及も減った。これは、日本の長期金利に上昇圧力がかかったとき、先々の出口政策でもっと金利が跳ね上がるのではないかという思惑が強まるからだ。

人々はゲンキンなもので、目先の長期金利上昇のときはその延長線上の出口政策を強く警戒するが、一転して長期金利が低下すると、遠い将来の出口政策を忘れてしまう。日銀は先々の出口政策は腹の中でじっくりと冷静に検討すればよいと思っているはずだ。

<低体温の裏に経済の虚弱体質>

筆者は、多くの人がインフレ率の加速を伴わない景気拡大を「適温だ」と色をつけてみていると感じている。米国も欧州も程度に差はあれ、バブル崩壊後の日本のように低インフレ時代に移行している。

FRBも欧州中銀(ECB)も徹底した金融緩和でリーマン・ショック後の停滞を乗り切ってきたが、いざ正常化に転じようとすると、以前よりもインフレ圧力が弱いことが正常化を阻んでくる。

インフレ圧力が弱いから適温なのではなく、金融緩和をある程度は続けなくては景気持続ができそうにないという脆弱性こそが問題なのだろう。低体温から感じ取れることは、経済の虚弱体質である。そう認識すれば、必要なことは金融・財政といった政策ツールではなく、構造改革、そして競争力の強化策となる。

その点、トランプ米政権は経済政策がFRB任せになって、今のところはそれでうまく回っていると錯覚されている。格差の背後にある中間層の没落が、選挙のときにトランプ大統領を生み出すエネルギーになった。トランプ大統領の政策を期待外れという人もいるが、もともと現実的な処方箋などなかったとも言える。

日本でも、没落する中間層に対して、働き方改革や人づくり革命などエコノミストとは全く関心の違った政策メニューが並ぶ。経済がインフレ体質ではなくなった理由を見つめ直すことなく、金融政策任せになっている状態が、「適温経済」の背後に隠れている問題だ。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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