September 3, 2018 / 2:41 AM / 22 days ago

コラム:日米FTAは「今がお買い得」か、米加交渉にヒント=熊野英生氏

[東京 3日] - 米国とメキシコは8月27日、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の2国間協議で大筋合意した。トランプ米大統領はこれまでNAFTAを痛烈に批判し、国境に壁を築くなどと言っていた割に合意内容は厳しくない。

 9月3日、第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、 カナダがNAFTAで良い妥協点を掘り出せれば、日米FTAが好条件で落としどころを見いだせるとの類推解釈が成り立つと指摘。写真左は安倍首相、右はトランプ米大統領。米ワシントンで6月撮影(2018年 ロイター/Kevin Lamarque)

米国との貿易交渉に当たっては2つの立場がある。1つは、正論を譲らず徹底抗戦する立場だ。もう1つは、特定分野で妥協しても早く合意すれば名を捨てて実が取れるという立場である。メキシコは後者を選んだ。

争点となっていた自動車関税をゼロにする基準「原産地規則」については、現地調達率を現行の62.5%から75%に引き上げることで合意。また、完成車の40─45%を、メキシコの平均賃金の約2倍に当たる時給16ドル以上の労働者によって生産することで合意した。この条項は、時給の安い労働者が製造するメキシコ製品ではなく、米国製品の使用を求めるものだ。

細かい点はともかく、自動車分野でトランプ大統領が得をしたと感じる条件を受け入れれば、残りは自由貿易のルールが守られる。今更ながら、環太平洋連携協定(TPP)交渉をするのと本質的に何が違っているのかが分からない。

もっとも、TPPの原産地規制は55%であり、日本は40%とより低い調達率を希望していた。この点は少し厳しい。

恐らくトランプ大統領には、独特の戦略がある。最初に2国間自由貿易協定(FTA)で妥協したのは、韓国だ。この米韓合意は、早く妥結すれば、好条件が与えられるというメッセージを感じさせた。その後、欧州連合(EU)、メキシコとの間で割と甘い条件で合意が決まった。

<日本の自動車に対する条件も今なら甘くなるか>

日米FTAは、合意が遅れるほどに条件が厳しくなるのだろうか。こうした疑心暗鬼に襲われるところが、トランプ流の交渉術である。11月に中間選挙を控えたトランプ大統領は、早期合意を目指している。だから、「今がお買い得」と思わせる。

そのときに焦点になりそうなのが、自動車と農産物である。特に、自動車は完成車の対米輸出が厳しい扱いになりそうだ。

周知の通り、トランプ大統領はすでに自動車関税を表明して脅しをかけている。ただ、メキシコはNAFTA再交渉では、域内調達率を引き上げることによって、この関税をかわした。日本の自動車に対する条件も、今ならば甘い内容になるかもしれない。

また、農産物については、日本が米国とのFTAよりもTPPを先行させると、米国はカナダやオーストラリアに対して不利になる。そのため、米国はある程度甘い条件で早期合意を目指す可能性がある。

そもそも、日本はすでにTPP交渉である程度の開放条件を受け入れて、農業分野の対策予算を組んでいる。日米FTA交渉では、農産物の方が自動車よりも追加負担は小さくなるのではないか。

<カナダが良い妥協点を見いだせるか注目>

日米FTAに進むべきか否かの判断は、カナダと米国のNAFTA再交渉にかかっている。なぜならば、カナダのトルドー首相とトランプ大統領の仲が険悪なことは万人の知るところだからだ。

トルドー首相の国内的支持は、トランプ大統領に下手に妥協しないことで高まっている。そのカナダが、NAFTAで良い妥協点を掘り出せれば、日米FTAが好条件で落としどころを見いだせるとの類推解釈が成り立つ。

トランプ大統領は、成果を急いでいる。中間選挙もあるが、トランプ大統領は対中貿易戦争に集中しようとしている。なるべくならば、日本との間で早急にFTAを結びたいと思っているに違いない。

他方、すでにTPPと日欧経済連携協定(EPA)の合意にこぎ着けた安倍晋三首相にとっては、残された大きな貿易連携は日米FTAだけである。トランプ大統領に対して、最小限の条件悪化で手打ちにするかが、秋以降の課題となる。

熊野英生氏(写真は筆者提供)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

 9月3日、第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、 カナダがNAFTAで良い妥協点を掘り出せれば、日米FTAが好条件で落としどころを見いだせるとの類推解釈が成り立つと指摘。写真左はトランプ米大統領、右はトルドー加首相。カナダのシャルルボワで6月撮影(2018年 ロイター/Christinne Muschi )

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