October 29, 2018 / 7:48 AM / 20 days ago

コラム:中間選挙が最後のチャンス、消える市場の楽観論=熊野英生氏

[東京 29日] - 10月の株価下落は縁起が悪い。1987年のブラックマンデー、1929年の大恐慌、いずれも10月に米ニューヨークのウォール街で株価が暴落したことから始まった。

 10月29日、第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、米中間選挙後にトランプ大統領が対中制裁を緩めれば経済にはプラスだが、その可能性は低いと指摘。写真は中間選挙の演説に立つトランプ氏。10月26日、ノースカロライナ州シャーロットビルで撮影(208年 ロイター/Kevin Lamarque)

しかし、10月という季節と株価下落の因果関係は合理的な説明ができないため、この縁起の悪さはアノマリー(合理的な説明が難しい過去の経験則)だと考えられる。

今回の連鎖的な株安は、トランプ米大統領が仕掛けた米中貿易戦争が主犯とみれば分かかりやすい。両国がともに関税率を上げると、中国経済の方から先に悪くなる。上海総合、香港ハンセン指数、韓国総合はともに2018年初めから下落を続けている。この間、日本株は米株に引きずられるように動いたが、ここにきて米国、欧州、アジアの下落に巻き込まれるようになってきた。

米国を中心に経済のファンダメンタルズが強い中での株価下落は、先行きの景気悪化を警戒した反応にみえる。であれば、トランプ大統領が対中制裁のペースを緩めれば、今ならまだ事態の悪化を防げる可能性がある。トランプ政権は2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品に課している10%の制裁関税を、19年1月から25%に引き上げる方針だが、それを中断すれば良い。11月6日の中間選挙が、強硬姿勢を修正する最大のチャンスだ。

<打ち砕かれる希望的観測>

こうした見方はかなり楽観的かもしれない。トランプ大統領は、株価下落を米連邦準備理事会(FRB)による利上げのせいだと責任転嫁している。それは、貿易問題で強硬姿勢を取り続けるための言い訳と考えられる。そうだとすれば、残念ながら、中間選挙直後に矛を納めるという希望的観測を打ち砕くものだ。

FRBのパウエル議長も、トランプ大統領から批判されたからといって利上げの方針を見直すようなことはしないだろう。極めて低い失業率の中で、関税率の引き上げが物価上昇圧力につながることへの警戒感のほうが強い。

市場の不安をさらに高めているのは、サウジアラビアの記者殺害問題だ。サウジの政府関係者が事件に関与したことが明らかになり、捜査を進めるトルコのエルドアン大統領は攻勢を強めているが、トランプ大統領はサウジを擁護できない。

もしサウジへの経済制裁が大きく拡大し、同国が報復として石油の禁油に踏み切ると、原油高になる可能性がある。これはまだ懸念に過ぎないが、弁明を迫られるサウジアラビアは歩が悪く、悪い予感が広がりやすい。

対中関税のコストアップに原油高が加われば、物価上昇圧力につながり、FRBが利上げに慎重になりたくてもできなくなる。サウジ問題は、本当に悪いタイミングで発生したと言える。

<トランプ減税という麻酔>

トランプ大統領の政策は、中間選挙という折り返し地点を前にますます悪い方向へ向かっているようにみえる。後から振り返ったとき、中間選挙が最後のチャンスだったと多くの人が悔やむかもしれない。サウジ問題が浮上した直後、今度は中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱することを表明した。世界の目をサウジ問題からそらそうという意図かと疑ってしまう。

非難しているのはロシアに対してだが、陰には中国の軍事的脅威への反応もあるのだろう。米ソ冷戦を終結させた同条約から米国が離脱すると、世界が再び軍拡の道に逆戻りする不安が頭をよぎる。米国の財政赤字が国防費の増加によって拡大してしまうことも、経済問題として悩ましい。

減税効果で企業業績が好調な中、米株価が下落しているのは、中国に貿易戦争を仕掛けつつ、あちこちで問題に火をつけて回るトランプ流の手法に、金融市場がいよいよ不安を強めたという見方ができる。「あれはトランプ流の演出だ」とこれまで高をくくっていた人も、この先ずっと後戻りできない摩擦が続くことを認めざるを得なくなりつつある。

中間選挙で民主党が下院の多数派に転じると、トランプ大統領の手法はますます悪化するのではないかと心配になる。こうしたシナリオは、以前から分かっていたことだが、企業業績と株価を押し上げていたトランプ減税に、誰もが麻痺させられていたということなのだろう。

(本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

熊野英生 第一生命経済研究所 首席エコノミスト (写真は筆者提供)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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編集:久保信博

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