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コラム:原油安・ドル高の「ねじれ」は続くか=熊野英生氏

[東京 4日] - 新年の相場は、大幅株安と円高で始まった。今後を見通すキーワードは、原油安とドル高のねじれだ。為替の先行きを考えるとき、原油動向も含めて検討するのが便利である。

 1月4日、 第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、原油安・ドル高シナリオが崩れるとすれば、新興国ではなく、先進国経済が予想以上に強くなり、原油需要が高まるときだと指摘。提供写真(2016年 ロイター)

よく知られている経験則は、ドル安の時にはコモディティーが高くなる逆相関関係である。現在は、新興国の需要不振により原油安が進み、一方で米利上げによるドル高が共存する。ドル金利が上昇すると、利息の付かない金保有は不利になって、金価格が低迷する関係もある。

では、2016年にドル高・円安の流れはどう変わるだろうか。米連邦準備理事会(FRB)が利上げに着手する段階では、経験則としてドル高局面の終幕を迎えるという見解は根強い。確かに、年初は円高に振れる荒い展開にみえる。いや、今回はゆっくり利上げをするから米経済は軟着陸してドル高は継続する、という対照的な見方もある。

ここに原油動向という軸を加えて考えると、当面、原油安が継続するとすれば、ドル高傾向も続くという見方になる。中国をはじめとする新興国経済の成長率は2016年も加速感を取り戻すことは難しいだろう。1バレル30ドル台の極端な原油安は、多かれ少なかれ継続するという見方が妥当だ。

このシナリオが崩れるとすれば、新興国ではなく、先進国経済が予想以上に強くなり、原油需要が高まったときである。FRBは米経済の強さを前提にして、利上げペースを加速させ、それがドル安観測を強める。そのときは、かえって米長期金利は低下し、日米金利差の縮小によってドル安・円高に向かうだろう。

筆者の見通しは、当面、米経済は緩やかな成長にとどまるというものだ。原油安でインフレ懸念も起こりにくい。利上げを急ぐシナリオは見当たらない。だから、ドル高・円安といっても、それほど大きくは進まないとみる。

FRBは一時的に雇用拡大が進んでも、その持続性をいくらか時間をかけて見極めながら年4回のペースを基本にして、利上げを急がないだろう。市場は、そうしたFRBの姿勢に迷いを感じ取って、為替レートは乱高下しやすくなる。FRBは利上げをしたいが、そう簡単に利上げをできないから、それも2016年を象徴する「ねじれ現象」なのだとみている。

<米国の利上げリスクは大別して3つ>

2016年を展望するとき、米利上げの影響について考察する必要がある。ごく簡単に利上げの悪影響を整理すると、次の3点になる。

●短期金利の上昇、そして米家計債務の増加が消費拡大を抑制する。

●ドルの資金調達コストが上昇し、投機的な金融取引が縮小する。

●新興国経済のドル債務が増えて、新興国の収支を悪化させ、通貨安を加速させる。

これらの影響は、前者2つがドル安要因、最後がドル高要因になる。米経済が頑健で、新興国経済がそもそも脆弱であるというメインシナリオに沿って考えると、前者2つの悪影響は限定される。現実化しそうなのは、3番目のリスクだが、それが顕在化したときでも、米経済が堅調ならば、新興国通貨が売られてドルが買われる展開になろう。

しばしば、米利上げの影響について、米経済の悪化と、新興国通貨の乱高下が、同列に扱われる見解を聞くが、それぞれ別々の論点とみた方がよい。確かに、新興国問題は、世界の金融市場の火種として問題視される。3番目のリスクが2番目のリスクに飛び火することは十分に起こり得る。しかし、米経済が頑健であるという前提が崩れなければ、2番目の悪影響は短期間に吸収されるとみることもできる。

<日銀の緩和姿勢維持につながる「ねじれ」>

上記の見方に、原油安の効果を加えて考察してみよう。まず、原油安をめぐる経済環境の変化は、米経常収支における赤字縮小要因になる。特に、米国産原油が40年ぶりに輸出解禁されることは、今後の米対外収支を改善させる効果を持ち、米経済の強さをサポートする。

これを裏返しにみれば、中東などのオイルマネーの先細りを意味する。そして、米国の対外債務(ドル債務残高)は拡大しにくくなる。かつて、ドルの流動性のジレンマという議論が唱えられたことを思い出す。米対外収支が改善すると、基軸通貨ドルの流動性が世界中で逼迫(ひっぱく)し、逆に米対外収支が悪化すると、ドルの流動性は流通するが、次第にドルの信用が低下するという理屈だ。

実は、原油安・原油輸出で米収支が改善すると、流動性のジレンマのロジックからすれば、ドルの信認は高まる。

もう1つ、原油安が続くと、日銀と欧州中銀(ECB)の金融緩和が継続・強化される流れになる。ドルの代替通貨であるユーロが安くなり、円もそれに続く。特に、日本の消費者物価は、円安による輸入物価上昇と原油安という別のねじれがあって、総合指数の伸び率が止まった状態にある。

日銀は、独自の論理を駆使して、原油安については外生的要因であり、時間が経てば一巡して、もう一方で円安効果が継続して物価を上昇させると説いている。しかし、このシナリオは、原油安と為替のねじれが続くことで裏切られ、日銀は緩和姿勢を維持せざるを得ない。

<日本が景気後退に陥るリスクは>

当面の展開を考えると、1)米経済の頑健性、2)金融市場の不安定化、3)新興国経済・通貨の変動、の3つの相互作用をつぶさにみておく必要があると考える。繰り返すが、新興国経済が悪化しても、それが即座に米経済にダメージを与えることにはならない。

前者2つの論点は分けてみる発想が重要になる。注意したいのは、新興国の悪化が、2)金融市場の混乱を介して、1)米経済の頑健性を脅かすのではないかと警戒されやすい点である。

もっとも、米経済の頑健性が高ければ、ドル高の流れは変わらず、むしろ原油安のメリットが享受できる。心配すべきは、米経済が不安定化することだ。そうしたリスクシナリオが顕在化すれば、円高と新興国経済悪化を通じて日本経済は、景気後退の波乱に陥るだろう。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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