July 6, 2015 / 1:49 AM / 5 years ago

コラム:ギリシャ瀬戸際外交の敗北必至、ドル高持続へ=熊野英生氏

[東京 6日] - ギリシャの国民投票は、緊縮受け入れに反対する意見が多数派になり、チプラス政権が勝利宣言を行った。ネガティブ・サプライズである。

まさかギリシャ国民は、自分の首を絞める選択はしないだろうと思っていた。間違った選択である。これで、ギリシャをめぐる金融支援交渉は、再び前途多難の方向に向かうだろう。

筆者は、ギリシャ国民の多数が緊縮反対と表明したことを受けて、ドイツ、フランスなどの欧州連合(EU)首脳が今後の交渉でギリシャの要求に表立って妥協することはしないと見る。それこそ、第二、第三のギリシャの事例を出さないための規律重視を示したいからだ。

ギリシャのチプラス政権は、緊縮反対という民意を、あたかも人質にとったかたちで、金融支援継続を求めている。EU首脳がギリシャの人質作戦に妥協すれば、今後の金融支援ルールが信用されなくなる。だから、人質をとった籠城策には妥協しない。

実のところ、EU首脳たちは、逆にギリシャに対する人質をとっている。欧州中央銀行(ECB)の緊急流動性支援(ELA)である。もしもECBが保有するギリシャ国債が償還不能、実質デフォルト(債務不履行)と見なされて担保価値を失えば、ギリシャ中銀に対する支援を打ち切る可能性も現実味を帯びてくる。実際にそうなれば、ギリシャの民間銀行は破綻の道を歩む。

現状でもギリシャ政府は預金引き出しを1日60ユーロ(約8000円)に制限する資本規制、つまり事実上の預金封鎖を敷いている。この預金封鎖は恐らく長期化せざるを得ないだろう。

もしもECBがギリシャのユーロ離脱を覚悟すれば、ELAを打ち切って、ギリシャの銀行が資金繰りに窮するのを放置するだろう。ギリシャは6月30日に国際通貨基金(IMF)融資の実質的デフォルトを起こしている。当面、同じようなデフォルトが続いて不良債権は累増しかねない。

ギリシャ政府は、国内銀行破綻に際して、通貨発行権を持っていないので、現在、年金支払いに充てている借用証書(IOU)と同じものを預金者に渡して凌ぐしか選択肢はないだろう。このIOUは、新しい通貨(新ドラクマか)と同じ性格のものである。しかし、国民は新通貨を信用せず、低い価値しか認めないだろう。政府がIOUの支払いを乱発することでハイパーインフレに陥るリスクも高い。

結局、今回、緊縮反対に票を入れたと考えられる低所得者層が、ハイパーインフレの犠牲者になる。地下経済は拡大して、富裕層はさらなる資産保全に走る。こうした破滅のシナリオが見えているから、ECBがELAを絞り込むようなことはせず、EU首脳たちはチプラス政権が完全降伏するのを兵糧攻めで待つことになるだろう。

<大幅な円高は進まない>

筆者の読みでは、ギリシャの瀬戸際外交は勝利せず、EUの大国であるドイツやフランスの外交的勝利によって、ユーロの秩序は保たれる。ギリシャは、ユーロ離脱を選択できず、多かれ少なかれ緊縮財政を受け入れる命運にあると予想される。

短期的には、ギリシャ問題の解決が見えにくくなることで、リスク回避の円高という反応が表れるだろう。しかし、ギリシャへの兵糧攻めがユーロの秩序を回復させていく展望が見えていくと、事前には緊縮反対に傾いた国民投票はドル円レートを大幅な円高にするという懸念があったが、それほど大きな円高には進まないだろう。

ドル円レートのレンジは当面、120円から125円のレンジで推移するだろう。基調はドル高であり、国民投票で不確実性の霧が一部晴れた部分もある。日米株価に対するギリシャの波乱の悪影響もまた、ごく一時的なものにとどまり、短期間で乱高下は収束すると予想される。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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