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コラム:欧州政治のトランプ化、実はEUの救世主=嶋津洋樹氏
2017年3月14日 / 02:36 / 8ヶ月前

コラム:欧州政治のトランプ化、実はEUの救世主=嶋津洋樹氏

[東京 14日] - 筆者は昨年6月のコラムで欧米政治の急進化を中道左派勢力の退潮と結び付けて論じた。その流れは、米大統領選でクリントン民主党候補が敗北し、トランプ共和党候補が勝利したことで一段と加速したと言えるだろう。

しかし、トランプ氏の米大統領就任をきっかけに、その潮目が変わりつつある。実際、欧州各国では最近、急進的な公約を掲げて台頭した政治勢力の人気に陰りや伸び悩みが見える一方、中道左派や中道がじりじりと支持を集めている。

例えば、15日に総選挙を控えるオランダでは、反移民や反イスラムを掲げる右派の自由党(PVV)の支持率がじりじりと低下。ルッテ首相の率いる中道右派の自由民主国民党(VVD)との差は一時に比べてかなり縮小した。ただし、必ずしもVVDが支持率の主な受け皿となっているわけではなく、中道左派の労働党(PvdA)や民主66(D66)、中道系のキリスト教民主アピール(CDA)の党勢回復が目立つ。

また、ドイツでは「ドイツのための選択肢(AfD)」内で路線対立が表面化。AfDはユーロ圏の解体などを主張し、今秋に予定される連邦議会選で第3党への躍進が予想されていたが、今や分裂の危機さえ報じられている。この間、メルケル首相の率いるキリスト教民主同盟(CDU)/キリスト教社会同盟(CSU)は安定した支持を確保。そこへ、最近はシュルツ前欧州議会議長が党首に就いた中道左派の社会民主党(SPD)が追い上げ、接戦となっている。

これらとは対照的に、フランスでは依然として国民戦線(FN)のルペン党首が高い人気を誇る。しかし、候補者が乱立する中、第1回投票を首位で勝ち抜くことはできても、決選投票を制することは難しいとみられている。それどころか、最近では中道系のマクロン元経済相が幅広い支持を獲得。第1回投票を首位で通過した上、決選投票を制するとの調査結果も報じられ始めた。

むろん、米大統領選でのトランプ氏勝利や英国民投票での欧州連合(EU)離脱選択の経験は、こうした調査がそれほどあてにならないことを示しており、結果をうのみにするわけにはいかない。ただ、トランプ大統領は移民の受け入れや環境保護など、欧州で重要視される価値観の尊重に消極的で、それに関連した大統領令への署名が国際的な物議を醸してさえいる。欧州の人々が似たような公約を掲げる政治勢力への支持を続けるとは考えにくい。

一方、トランプ大統領の掲げる経済政策への共感が、欧州での中道左派や中道系の復調につながっている可能性もある。というのも、トランプ大統領の掲げる経済政策は米共和党の保守派が好む自由主義と明らかに一線を画しているからだ。このことは、党内保守派が反対するオバマケア(医療保険制度改革法)の代替案に賛成したことからも明らかだ。企業の意思決定に介入してまで自国の雇用を重視する姿勢は、左派的とさえ言えるだろう。

<中道左派の失地回復で欧州が再び団結する可能性>

筆者は、欧州の中道左派や中道系の支持率回復について、トランプ大統領の左派的な経済政策に対する実利的な共鳴なしで説明することは難しいと考えている。もちろん、トランプ大統領の政治的な思想に対する感情的な反発を抱く人はいるだろうが、それは左右を問わず中道系の追い風になるはずだ。そして、今のところ、中道左派や中道系に比べると、中道右派の支持率回復は限られている。

欧州政治を分析した「The Franco-German Axis in European Integration」(2001年刊、Gisela Hendriks/Annette Morgan著)では、ドイツとフランスをけん引役とする欧州統合の共通理念として、共同体的な社会を重視する「キリスト教的民主主義イデオロギー(Christian-Democratic ideology)」と、社会的な配慮の必要性を説く「ラインラント資本主義的経済モデル(’Rhineland capitalism’ economic model)」が指摘されている。

この2つの基本理念こそ、トランプ大統領に対する欧州世論の反発と共鳴という一見矛盾した反応をもたらしたと考えられる。トランプ大統領の誕生は、欧州統合の基本理念を問い直すきっかけとなった可能性があるのだ。

なお、英国は「キリスト教的民主主義イデオロギー」と「ラインラント資本主義的経済モデル」のいずれとも縁遠い。英国が昨年、EUからの離脱を決めたこともまた、欧州が統合の基本理念に立ち返るきっかけとなったかもしれない。

こうしたことを踏まえると、欧州主要国の中道左派や中道系は今年の選挙でかなり善戦する可能性がある。それどころか、欧州各国がEUやユーロ圏という枠組みで団結を取り戻すことも考えられるだろう。

欧州における中道左派や中道系はもともと右派や中道右派に比べて親EU、親ユーロ色が濃く、統合の深化や促進に前向きな傾向が強い。ドイツでシュルツ前欧州議会議長の率いるSPDが政権を獲得すれば、欧州内の遠心力も弱まりそうだ。

というのも、ドイツでの政権交代は、世界的な緊縮財政路線の見直しを加速させると考えられるからである。それは、欧州での政治的、経済的な緊張も緩和させる可能性が高い。欧州債務危機以降のドイツは、国内世論の支持を取り付けるためとはいえ、原則論を振りかざし、域内の被支援国を中心に一方的な緊縮財政を求めてきた。そうした姿勢が、ドイツ以外の国でのポピュリズムや急進勢力を台頭させた可能性は否めないだろう。

メルケル独首相は今年、3期目を終え、4期目を目指している。トランプ米大統領の誕生で、メルケル首相を自由主義世界の盟主と仰ぐ向きも少なくないが、それは買いかぶり過ぎというものだ。15日のオランダ総選挙では、PVVの動向に加え、中道左派や中道系の躍進にも注目する必要がある。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネジャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。共著に「アベノミクスは進化する」(中央経済社)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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