March 18, 2018 / 9:47 PM / 6 months ago

コラム:恐怖指数低下でも油断大敵、リーマン前夜の教訓=嶋津洋樹氏

[東京 19日] - 「恐怖指数」の名称で知られるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー・インデックス(VIX)は2月6日に一時50を超える水準まで急騰したものの、翌週の14日には20を下回り、3月9日には13近辺まで低下した(3月16日は15.80)。

米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)など先進国の主要な中央銀行が金融緩和政策の縮小を継続する中、さすがに1桁台への低下は難しそうだが、米1月雇用統計などをきっかけとした金融市場の動揺はほぼ収束したと言えそうだ。

もっとも、2000年以降でVIXが一時的であっても50を超えたのは、リーマン・ショック後の2008年10月から2009年3月の断続的な期間と、中国が2015年8月11日に人民元の実質的な切り下げに踏み切った後の同24日の2回のみ。リーマン・ショックはもちろん、人民元の実質的な切り下げも、その後、金融市場が安定するまではそれなりに時間がかかったことを踏まえると、今回の収束はかなり早いと言えるだろう。

筆者はこうした過去との違いについて、世界的に良好なファンダメンタルズ、トランプ米政権の積極的な財政政策、投資家の警戒感によって説明が可能だと考えている。

実際、グローバルな購買担当者景気指数(PMI)は直近でも拡大を示す50超を維持。欧州ではソフトデータを中心に景気拡大がピークを越えた可能性を示す指標も散見されるが、労働市場は日米も含め、需給の逼迫(ひっぱく)が懸念されるほど好調である。そのことが、主要な中央銀行における金融緩和政策の縮小を正当化するとはいえ、財政政策を含め、ファンダメンタルズに急ブレーキをかけることまでは想定しにくい。

また、1月までの世界的な株高に対し、少なくない数の投資家が違和感を覚え、短期的な調整リスクを意識し、それに備えていたことも、その後の金融市場の早期安定に寄与したと考えられる。ロイターが2月5日に報じたように、今回の金融市場の動揺は、「システム(アルゴリズム)系のプレーヤー」とされる「リスク・パリティ・ファンド」などの短期資金の巻き戻しに起因するとの見方も多く、実体経済が変調する兆しとの声はほとんどない。

しかも、米労働省が今月9日に公表した2月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比31.3万人増と大幅に増加する一方、平均時給は前月比プラス0.1%と賃金上昇の圧力が限られていることを示唆。1月の雇用統計をきっかけに浮上したインフレの上振れと、それを受けた利上げペースの加速が結果的に景気減速を招くとの懸念はとりあえず後退した。

<恐怖は油断で危機となる>

とはいえ、今回の金融市場の動揺が今後、ファンダメンタルズに想定以上の影響を及ぼすリスクには注意が必要だろう。実際、長期金利の水準は世界的に上方へシフト。一方、多くの主要先進国で物価上昇率は目標を下回っており、基調も強くはない。

つまり、実質金利は金融市場の動揺を受けて上昇した可能性が高い。そうだとすれば、従来と同じペースで金融緩和政策を縮小すれば、ファンダメンタルズには想定以上の負荷がかかる。

筆者は、今回の金融市場の動揺だけで、深刻な危機や景気後退が始まるとはみていない。しかし、それは金融政策を含む政府・当局の対応次第だろう。実際、2008年のリーマン・ショックを振り返れば、最初の変調は米国の住宅市場が失速するところから始まった。それがHSBCの損失として表面化し、金融機関への影響が意識されたのは2007年2月。一般的に危機の始まりとされるパリバ・ショックは2007年8月と、半年も遅れる。

当時を振り返ると、事態の深刻さはほとんど理解されていないことが分かる。例えば、日銀は2007年2月20―21日の金融政策決定会合で追加利上げを決定。さすがに米FRBは様子見を続けたが、利下げに転じるのはパリバ・ショック後の2007年9月18日である。

そのFRBも2008年4月30日にフェデラルファンド(FF)金利を2.00%まで引き下げると、リーマン・ショック後の10月8日まで再び様子見。欧州中央銀行(ECB)は2008年7月3日に政策金利を引き上げている。

もちろん、2007年は原油価格が1バレル=100ドル台に向かっていく途中だ。リーマン・ショック後には落ち着くものの、その前の2008年7月には150ドル近くまで上昇し、200ドルとの見方もあった。そうした中で、中央銀行が金融緩和政策ではなく、金融引き締め政策を模索するのも当然だろう。しかし、そうしている間にも米国の住宅市場は調整が続き、その影響が金融市場を通じて、他の国にもじりじりと広がっていた。

歴史に「もしも」はないし、リーマン・ショックを含む世界的な金融危機が金融政策だけで発生したとも思えない。まして、米国の住宅市場の調整があれほどの広がりを見せると予想することもできなかっただろう。しかし当時、その影響を軽視し、見逃したことが結果的に大惨事につながったことも事実ではないだろうか。

FRBやECBが今回の金融市場の動揺を受けて、その影響を十分に見極めないまま、従来と変わらないか、それを上回るペースで金融緩和政策の縮小を続けようとしていることについて、筆者は胸騒ぎを覚える。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネジャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。共著に「アベノミクスは進化する」(中央経済社)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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