June 21, 2018 / 5:46 AM / 5 months ago

コラム:限界に近づくドル高、夏の終わりに待つ円高=嶋津洋樹氏

嶋津洋樹 MCP チーフストラテジスト

 6月21日、MCPチーフストラテジストの嶋津洋樹氏は、ドル高は足元から1―2カ月がピークで、夏場以降は対円、対ユーロともに徐々に上値が重くなる可能性が高いと指摘。写真はドル円チャートと日米国旗、都内の金融機関で2013年12月撮影(2018年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 21日] - ドル高が止まらない。主要6通貨に対するドル指数は20日に一時95.299と昨年7月以来の水準まで上昇。ドル高派にとっては、引き続き「予想した通り」の展開となっている。

とはいえ、ドル高派が年初から一貫して順調だったわけではなく、4月中旬まではむしろ、苦難の連続だった。特に2月初めにかけては、米10年債利回りが年初の2.5%を下回る水準から、当面の上限と目されていた2.75%を突破し、2.9%手前まで上昇。ドルも連動して上昇すると予想されたが、実際はむしろ下落し、2月以降はほぼ横ばい圏での推移にとどまっていた。

年初からのドル安が4月中旬に転換したきっかけはあまりはっきりしていない。

しかし、良好な企業業績が確認される中で、習近平・中国国家主席が講演で金融業や自動車製造業を含む分野での外資出資制限の緩和や関税引き下げ、知的財産権の保護強化の方針を示したこと(4月10日)、原油がWTI先物価格で約3年5カ月ぶりとなる1バレル=69ドル台を回復したこと(4月19日)、それを受けてインフレの上振れ観測が強まり、米10年債利回りが3%を突破したこと(4月24日)などが複合的にドルを押し上げたと筆者は考えている。

6月に入ると、イタリアで新政権が発足し、ユーロが買い戻されたこと(6月1日)、米中通商協議が新たな合意などがないまま終了(6月3日)し、両国間の貿易摩擦が激化するとの懸念が広がったこと(6月4日)を受けて、ドルが反落。その後、米朝首脳会談(6月12日)などを控えて、レンジ相場となったが、米連邦公開市場委員会(FOMC)後に公表されたドットチャート(フェデラルファンド=FF金利の予想分布)を受けて、米連邦準備理事会(FRB)が今年末までにあと2回、合計4回の利上げに踏み切るとの見方が強まったことで、再びドル高が勢いを盛り返した。

この間、アルゼンチンやトルコなどで金融市場が動揺し、米国の利上げやそれを受けたドル高が新興国の経済、金融市場にとって逆風になるとの見方が台頭。市場参加者は足元で新興国への投資スタンスを慎重化させ、資金の一部を米国へ回帰させている。ドルは基軸通貨としての安心感がある上、足元の政策金利が1.75―2.00%と、ゼロ近辺ないし大幅なマイナス圏にあるユーロや円、スイスフランなどの主要通貨と比べて、魅力的な資金の退避先である。FF金利が今後さらに引き上げられるとの見通しを前提にすれば、ドルはなおさら魅力的に見えるだろう。

つまり、足元のドル高は絶対的なFF金利の水準に加え、金融政策の相対的な位置付け、それを正当化する米国のファンダメンタルズの相対的な良好さなどが材料視されていると考えられる。

<ドル指数の100超えは望み薄か>

もっとも、過去を振り返ると、こうした材料でドルを説明できる期間はそれほど長くない。特に金融政策の転換点が近づくにつれて、市場参加者は足元の実績よりも先行きの見通しを強く意識し始める。このため、ドルは実際の金利や金利差、ファンダメンタルズなどとは連動しにくくなる。FOMC参加者の多くがFF金利の中立水準を3%程度と考えている中で、FF金利が1.75―2.00%にまで引き上げられたということは、米国の金融政策が転換点に近づきつつあることを示唆している。

このことは、とりもなおさず、足元のドル高が意外と短期間で終わる可能性も示している。

例えば、IMM通貨先物の非商業部門(いわゆる投機筋)の取り組みを見ると、主要10通貨に対するドルの売り越し額は4月17日までの週に2011年8月以来の高水準を記録した後、急速に縮小。5月29日までの週には2017年12月末以来の水準まで低下したが、その後は2週連続でドルの売り越し額が増加した。きっかけはともかく、4月中旬以降の急速なドル高は、投機筋のドル安ポジションが解消される中で起こったと言える。それが6月に反転したことがFOMC前までのドル反落をもたらしたと考えられる。

12―13日のFOMC後、投機筋がドル安とドル高のどちらにポジションを傾けたかは現段階では分からない。だが、米国の金融政策が転換点に近づきつつあるとすれば、ドル高のポジションを今から積み上げるという方針はそれなりに勇気が要る戦略と言えるだろう。

もちろん、ドルと裏表の関係にある商品市況は米中の貿易摩擦が激化するとの懸念から軟化。その中でも最も影響の大きい原油は、サウジアラビアがトランプ米政権の要請を受けて、ロシアとともに相場安定に向けた増産を模索していると報じられている。こうした環境は、ドルの上昇とともに、商品そのものや、そうした一次産品の輸出に大きく依存する新興国の資産下落に賭ける取引に大きな収益をもたらす可能性がある。ドルが北半球で夏休みが本格化する8月までに一段と上昇することもあり得ると筆者は考えている。

しかし、主要6通貨に対するドル指数が100を超えて直近高値の2017年初の水準を目指すかというと、それはさすがに難しそうだ。今年2月から直近ピークの半値戻しにあたる96がせいぜいではないか。

その理由は、まず米国景気の回復が成熟過程にあると考えられること。そのことが金融政策の足元までの正常化につながっているわけだが、上述した通り、FF金利は徐々に中立水準に近づきつつある。米国のイールドカーブがフラット化し、景気後退を示すとされる逆イールドが意識されているということは、景気回復と金融政策の正常化が折り返し地点を越えて、後半戦にあることを端的に示していると言えるだろう。

<ドル高圧力減じる政策・政治要因>

次に、米国に追随するように、欧州でも金融政策が正常化へ向かっているため、ドル高の圧力は徐々に減衰すると考えられる。

実際、ドラギ欧州中銀(ECB)総裁は政策金利の引き上げ時期こそ、2019年の夏終了以降と慎重な姿勢を示したが、資産購入プログラム(APP)については年内に終了すると明言。イングランド銀行(英中銀、BOE)も当初に市場参加者が想定していたよりはゆっくりとしたペースであるものの、利上げを継続する姿勢を示している。北欧でも、ノルウェー中銀は9月、スウェーデン中銀は12月にも最初の利上げに踏み切るとの見方が多い。

日本は、黒田東彦日銀総裁が現行の金融緩和策を粘り強く続ける姿勢を繰り返し強調。一見すると、欧米の中銀と一線を画しているようにみえるが、そうとも言えない。というのも、物価が1%を下回り、欧米との距離が広がっているにもかかわらず、国際決済銀行(BIS)や欧米の中央銀行と同じトーンで金融安定の重要性を説いているからだ。

6月のロイター調査では、日銀が次に金融政策を変更する場合は、「引き締め」だと予想する専門家が41人中38人と圧倒的。日本経済が本来目指すべき安定した物価水準については、17人もが1.0%付近と回答している。こうした日銀とそれを取り巻く専門家の姿勢は、日本が円高を容認しているという国際的な見方につながりかねない。

そこへ「アメリカファースト(米国第一)」を唱えるトランプ大統領である。夏休みが終われば、11月の中間選挙まで2カ月程度。そのタイミングでドル高が続いていれば、トランプ大統領だけではなく、多くの米国の政治家が黙っていないだろう。全米を遊説しながらマスコミやSNSを通じて、米国以外の国が自国通貨を意図的に安く誘導し、米国の労働者から仕事を奪っていると批判するトランプ大統領の姿が目に浮かぶ。これまでの経験を踏まえれば、その相手国には中国や韓国、ドイツとともに日本が入るだろう。

ドル高は足元から1―2カ月がピークで、夏場以降は対円、対ユーロともに徐々に上値が重くなる可能性が高い。その段階で日銀が金融安定を優先し、物価安定の目標達成へのコミットメントを後退させたり、目標そのものを柔軟化させようとすれば、一気に円高に振れるリスクがある。

嶋津洋樹 MCP チーフストラテジスト(写真は筆者提供)

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネジャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。共著に「アベノミクスは進化する」(中央経済社)

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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