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コラム:G20の日本批判、ドイツの身代わりか=嶋津洋樹氏
2016年3月7日 / 08:18 / 2年前

コラム:G20の日本批判、ドイツの身代わりか=嶋津洋樹氏

[東京 7日] - 中国・上海で20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を終えて帰国した日本の関係者らは、自分たちが現地で得ていた手応えと、国内での評価との差に驚いたに違いない。

もちろん、声明に金融、財政、構造改革というすべてを盛り込んだことについて、具体性が乏しいとか、実際の協調は困難との批判は覚悟をしていただろう。しかし、あたかも日本の通貨政策や金融政策が懸念材料となり、批判の対象となったかのような論調が強まるとは夢にも思っていなかったのではないだろうか。

実際、直前の報道では、米国が中国や欧州、日本などを対象に積極的な財政政策を求めると同時に、国際的な資本規制を容認する姿勢に転じたことが伝えられていた。日本にとっては、前者は追加の景気対策を正当化し、後者は金融市場の安定につながることで、年初からの円高・株安の流れを止めることになる。

そもそも、円は2月1日以降、上海G20の開催前日の同月25日までに実効為替ベースで7%の上昇と、北欧やオセアニアなどを含めた主要通貨のなかで最も買いを集めていた。日銀が「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定した1月29日以降でも6.6%の上昇である。

しかも、国内ではマイナス金利の効果に懐疑的な見方が多く、実際に円高がかえって進んだことを「副作用」と批判する声すらあった。それが、日本が競争的な通貨切り下げを行っているとの懸念や批判があったとの話になったのだから、日本の当局側もキツネにつままれたような気持ちになったのではないだろうか。

<ユーログループ議長発言の謎>

きっかけは、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)のダイセルブルーム議長が日本を名指しして、競争的な通貨切り下げを行うことへの懸念があったと述べたと報じられたこと。それと前後して、為替相場の下落につながるような政策決定を行う際には、事前に通知することで合意したことも明らかにしたと伝えられたことで、国内では日銀の追加緩和が難しくなるとの指摘も相次いだ。

その後、日本政府関係者がダイセルブルーム議長に確認したとして、円について議論がなかったこと、発言がミスクオートされたとの説明があったことも報じられているが、イングランド銀行(英中央銀行、BOE)のカーニー総裁が2月26日に上海で講演した際、マイナス金利について「近隣窮乏」環境を生む恐れがあるとの見解を示したと伝えられていたこともあり、上海G20では日本が議論の中心になったとの印象は今のところ、必ずしも払拭(ふっしょく)されていない。

筆者はこうした上海G20に絡む一連の報道について、違和感を覚えずにはいられない。まず、日本が競争的な通貨切り下げを行うとの懸念は、上述した通り、現実と大きく異なっている。そして、もし仮にダイセルブルーム議長がその現実を知らずに日本を名指ししたとすると、それはダイセルブルーム議長がマイナス金利の通貨に与える影響を信じていることを意味するだろう。このことは、国内で「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の副作用としての円高を指摘する見方や、そもそも効果がないとする見方と完全に矛盾する。

ちなみに、2月25日時点の円は、日銀が「量的・質的金融緩和」の導入を決定した2013年4月4日と比べると7.8%の下落となるが、13年12月31日と比べると2.8%の上昇である。それに対して、ユーロはそれぞれ5.5%の下落、9.7%の下落となっている。ダイセルブルーム議長が日本を競争的な通貨切り下げを行う国として名指しできる立場にはない。

また、「為替相場の下落につながるような政策決定」に金融政策が含まれるかは必ずしも自明ではない。それよりも、為替介入を対象にしていると見るのが自然だろう。中国が15年8月に実施した人民元の対ドル中心レートの切り下げ発表や、価格決定の方法変更なども念頭にある可能性が高い。そして、金融政策が含まれるのであれば、主要国の中央銀行で事前通知を迫られるのは、日銀ではなく、欧州中央銀行(ECB)である。

<構造改革の進展度合いはドイツより日本が上>

さらに、カーニーBOE総裁はマイナス金利について、金融機関の経営を圧迫することを通じて、国内需要を十分に刺激することができない場合は輸出の増加に依存せざるを得ないため、近隣窮乏化を招くと指摘しているのであって、マイナス金利そのものを否定しているわけではない。それどころか、金融緩和は、それがマイナス金利であろうがなかろうが、一般的に国内需要を刺激することで、世界景気の回復に資すると説明している。

カーニー総裁はこのことをマネーフローの観点から、過剰貯蓄を海外に押し付けるため、世界的な中立金利水準の低下につながると警告している。その典型的なパターンは、金融緩和が国内需要の十分な刺激につながらないことで、輸入よりも輸出が増加し、貿易収支の改善を通じて、経常収支の黒字が拡大する国だろう。反対に、国内需要が盛り上がり、経常収支が悪化する国では、国内での資金を海外から調達せざるを得ないため、世界的な貯蓄過剰の解消に役立つことになる。

ショイブレ独財務相は、カーニー総裁の講演の前日である2月25日に、ECBの緩和的な金融政策がドイツの経常黒字の拡大につながっていると発言している。この発言は恐らく、追加緩和を模索するECBに対するけん制だろう。

しかし、カーニー総裁に言わせれば、金融緩和にもかかわらず国内需要を十分に盛り上げず、輸出の増加をけん引役に国内景気の回復を謳歌するドイツこそ、近隣窮乏化で世界経済の足を引っ張る犯人である。

結局、上海G20で議論の俎上(そじょう)に上がった国は日本ではなく、ドイツだった可能性が高い。ドイツと同様に経常黒字の拡大が続くオランダなどの北部欧州もその対象だったと考えられる。そして、ダイセルブルーム議長の出身国はオランダである。今となっては、ダイセルブルーム議長が日本を名指ししたかどうかまではわからないが、自国への批判をかわそうとして、経常収支の黒字幅が拡大する日本の名前を出した可能性は否定できない。

なお、経済協力開発機構(OECD)が上海G20に向けて公表した報告書によると、2011―14年における日本の構造改革の進展度合いは、評価の対象となった38カ国で上から25番目だった。一方、欧州はギリシャを筆頭に、ポルトガル、アイルランド、エストニア、スペインと、欧州債務危機の震源地となった国を中心に上から5番目までを独占している。しかし、オランダは28番目、ドイツは29番目と、日本よりも評価が低い。

ドイツのバイトマン連銀総裁やショイブレ財務相は上海G20を前にダイセルブルーム議長らとともに、金融政策や財政政策の限界と、構造改革の取り組みの重要性を繰り返し強調していた。OECDの報告書に従えば、日本で構造改革への取り組みが必要なことは疑いようもない。しかし、自国のことを棚に上げて、批判の矛先を日本へ向けたと思われても仕方がない今回のやり取りは、国際政治的には上手な振る舞いと言えても、個人的には違和感の残るものである。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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