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コラム:G7で隠すドイツの本音は財政拡大か=嶋津洋樹氏

[東京 24日] - 20―21日に仙台市で開催された主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は、事前に報道されていた通り、各国が世界経済の成長確保に向けて金融・財政・構造政策を活用していくことで合意し、閉幕した。ただし、日本にとっては、実りに乏しく、なんとか体裁を整えたという印象が拭えない。

 5月24日、SMBC日興証券・シニアマーケットエコノミストの嶋津洋樹氏は、仙台G7で財政出動協調に消極姿勢を見せたドイツだが、実際には同国の予算規模は拡大傾向にあると指摘。提供写真(2016年 ロイター)

実際、現在の為替相場について、ルー米財務長官が「無秩序な状況とするためのバーは非常に高い」と発言し、麻生財務相の「明らかに秩序だった動きとはいえない」との認識の違いが改めて浮き彫りになった。

また、ショイブレ独財務相の「いかなる大きな決定もしなかった」との言葉は、日本がドイツに求めていた財政政策の拡大が受け入れられなかったことを示すだろう。日本経済は今後も円高圧力と世界経済の足取りの重さという外部環境の悪さに悩まされそうだ。

<実は緊縮財政の緩和に向かうドイツ>

もっとも、ルー米財務長官は日本の消費増税について、「景気の足かせにならないように慎重に判断すべきだ」と景気への影響に懸念を示し、「選択肢はいろいろある」と述べたようである。麻生財務相はこれに対し、ルー米財務長官に「(消費増税は)予定通りという話を申し上げた」と明らかにしたが、今後も日本の景気の足取りが鈍い場合、消費増税の延期や、大規模な景気対策と合わせた実施などが正当化される環境が一段と整ったと言えるだろう。

また、上述した通り、為替介入で円高を阻止するハードルは上がったが、ルー米財務長官は「日本の金融政策は、国内での目的のために国内ツールを利用するとの合意に沿っている」とも発言した。金融政策の目標が為替相場でないのは当然だが、実力以上の円高が輸入物価や輸出競争力の低下などを通じて、物価安定に悪影響を及ぼすリスクがある以上、日銀が金融緩和で対抗することは引き続き、批判の対象にはならないと考えられる。

しかも、ショイブレ独財務相の「債務を伴う成長モデルは限界」との言葉とは裏腹に欧州では財政再建の取り組みが後退している。例えば、欧州委員会はスペインとポルトガルの財政赤字が2016年、17年とも欧州連合(EU)の規定する3%を上回る可能性が高いことに強い懸念を表明しつつも、両国に対する処分の決定を先送りした。また、イタリアの16年度予算について、柔軟性を認めたとも報じられている。

反EU、反ユーロを掲げる政治勢力が、ギリシャやイタリア、スペインのみならず、ドイツやフランスなどでも拡大するなか、「債務を伴う成長モデルは限界」だとしても、国民の反発を招く緊縮財政を強くは押し出せないというのが現実だろう。17年にドイツで総選挙、フランスで大統領選と議会選挙を控えていることを踏まえると、ユーロ圏で目先、財政再建の取り組みが本格化することは考えにくい。

それどころか、財政政策の活用に否定的なドイツでも16年のユーロ圏主要国で最も緊縮財政が緩和することが見込まれる。例えば、国際通貨基金(IMF)の最新の財政モニターによると、16年のドイツのプライマリーバランス(基礎的財政収支)は景気循環の影響を除いたベースで前年比マイナス0.8%ポイントと、15年の同プラス0.1%ポイントからマイナスに転じることが予想されている。

<ショイブレ独財務相は減税の可能性に言及>

また、独財務省16―20年度の財政計画では、16年度、17年度の予算規模がそれぞれ3169億ユーロ、3255億ユーロと15年度の3114億ユーロから拡大することが示されている。15年7月に公表された15―19年度の財政計画では15年度の予算規模が3016億ユーロにとどまっており、難民の流入などを背景にドイツでも最終的な予算規模が拡大する傾向にあることを確認できる。

フォンデアライエン独国防相が「国防予算を現在の約340億ユーロから20年までに390億ユーロに増額」する方針を示し、独政府が「電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車の購入者を対象にした総額10億ユーロ規模の新たな補助金制度の計画」を公表した点なども併せて考えると、ドイツは従来ほど財政支出の抑制に積極的ではないと言える。それどころか、ショイブレ独財務相が21日、17年の総選挙後に減税を実施する可能性に言及したことで、ドイツの財政政策の転換は明確になったとすら考えられる。

こうしたドイツの変化は、メルケル独首相が難民の受け入れに前向きな姿勢を修正しない限り続くだろう。ドイツ国民がいかに寛容であったとしても、自らの生活が脅かされると感じれば、そうした精神状態を維持することは難しい。

ドイツは東西統一に伴うバブル崩壊以降、年金制度の改革や失業保険の要件厳格化など、痛みを伴う改革を幾度となく断行している。その分、難民よりも自分の生活に配慮して欲しいとの意見が国民のなかで強まっても不思議ではない。そして、政治家はそうした国民の声に敏感である。次の選挙を控えていれば、なおさらだろう。

上述した通り、仙台G7は日本にとって確かにそれほど実りが多いとは言えなかった。しかし、財政政策に最も慎重なドイツの変化は今後、欧州全体に広がり、欧州景気が世界をけん引することもあり得るだろう。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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