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コラム:米ジャクソンホール、金融政策は脇役か=嶋津洋樹氏
2017年8月21日 / 04:16 / 3ヶ月後

コラム:米ジャクソンホール、金融政策は脇役か=嶋津洋樹氏

[東京 21日] - 今年も主要な中央銀行の「次の一手」に関するヒントがあるだろうと、8月24―26日に米ワイオミング州ジャクソンホールで開催される経済シンポジウムに市場関係者の注目が集まっている。

特にイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長とドラギ欧州中銀(ECB)総裁の発言は、2人がトップを務める中銀が9月にも現行の金融緩和策を修正する方針を明確にするとみられているため、飛び抜けて注目度が高い。

もっとも、大学教授なども参加するジャクソンホールでの経済シンポジウムは本来、やや長めで構造的な問題について、最新の理論や学術的な成果も踏まえて自由に議論しようというものだろう。この経済シンポジウムを主催するカンザスシティー地区連銀のウェブサイトには「参加者は、シンポジウムのトピックに関連した経済問題やインプリケーション、政策オプションを議論するために集められる」と書いてある。少なくとも1―2カ月先の自国の金融政策について情報発信をする場ではないはずだ。

もちろん、2010年にはバーナンキFRB議長(当時)が講演タイトルを当初の「ドッド・フランク法(金融規制改革法)の実施ついて」から「経済見通しと金融政策」へと変更し、今後の金融政策の選択肢について説明したことは記憶に新しい。事実上、次の行動の準備を示唆したことで、12地区連銀のうちの1つが主催するにすぎない経済シンポジウムへの注目度は急上昇した。次回9月19―20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)と同月7日のECB理事会の開催スケジュールを踏まえれば、金融市場の視線がワイオミング州の国立公園と湖に囲まれた観光地に注がれるのも当然と言えるだろう。

それでも、金融市場がFRBとECBの「次の一手」ばかりに集中しているのには違和感を覚える。というのも、2016年の経済シンポジウムは上述した2010年以降とはやや異なり、中央銀行や実務家、学者などとの間の情報交換という色彩が強まったと感じられたからだ。実際、筆者の記憶ではジャクソンホールを境に、主要な中央銀行がイールドカーブ全体を押し下げる傾向が後退。むしろ、期間の長い金利の上昇は容認し、積極的にイールドカーブをスティープ化させようとの雰囲気すら感じられた。

その先頭を走ったのが日銀で、ジャクソンホールでの経済シンポジウムからほぼ1カ月後の9月21日に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を決定。ECBはその2カ月余り後の12月8日に資産買い入れの期間を2017年3月から2017年末まで延長しつつも、2017年4月以降の1カ月あたりの購入額を800億ユーロから600億ユーロへ減額すると発表した。

また、スウェーデン中銀が12月21日に、国債購入の継続期間を6カ月延長するとともにその間の購入額を300億クローナとすると公表。もともと購入が打ち切られ、再投資だけとなる可能性もあったことを踏まえると、スウェーデン中銀のこの決定は必ずしもECBと同列に扱えないが、当時は緩和の縮小と説明する報道が目立った。

いずれの決定も偶然の一致の可能性は否定しないが、筆者にはジャクソンホールでの議論や意見交換がその後の金融政策の方向性を決めたように思えてならないのである。

<表看板から消えた金融政策の文言>

今年の統一テーマは「ダイナミックな世界経済を求めて(Fostering a Dynamic Global Economy)。カンザスシティー地区連銀のウェブサイトによると、詳細なスケジュールや出席者、分科会ごとの小テーマなどは24日に公表されるとのことである。足元の世界経済が回復の足取りをしっかりとさせつつあることを踏まえると、今回のテーマはやや遅きに失したとの印象も否めないが、伸び悩む生産性や賃金、設備投資などが焦点になりそうだ。

2015年、2016年と続いた「金融政策」との文言がないことも特徴だ。金融政策よりも財政政策や規制緩和が重要ということが改めて強調される可能性もある。

こうしたことは、イエレンFRB議長の講演テーマが「金融の安定」と報じられたこととも整合的だ。しかも、「金融の安定」は国際決済銀行(BIS)が6月25日に公表した年次レポートで緩和の巻き戻しの必要性を指摘して以来、主要な中央銀行で注目されているテーマである。実際、BIS年次レポートの公表直後には、FOMC参加者の中でイエレンFRB議長に近く、ハト派寄りとみられていたフィッシャーFRB副議長やダドリー・ニューヨーク連銀総裁が「金融の安定」を重視する姿勢を鮮明にしていた。

「金融の安定」を重視する姿勢は、前回7月25―26日開催分のFOMC議事要旨(8月16日公表)のみならず、7月20日開催分のECB議事要旨(8月17日公表)でも確認できる。筆者にはイエレン議長が今年の統一テーマと「金融の安定」とをどのように結び付けて話すのかまでは予想できない。しかし、それを重視すべきとBISの年次報告に沿った姿勢を示すのか、それでも物価安定の目標達成を通じて、雇用の最大化を目指す決意を示すのかで、FRBの今後の金融政策に対する見方は大きく変わることが想定される。

そして、昨年の経験に基づけば、上述した通り、ジャクソンホールでの議論は他の主要な中央銀行に広がる可能性がある。欧州北部の中央銀行はもともと「金融の安定」を重視する傾向が強いだけに、ECBが一段とタカ派シフトすることもあり得る。

もちろん、実際には各国のファンダメンタルズが異なるため、主要な中央銀行が一斉に「金融の安定」を声高に唱える可能性は低いと筆者はみている。日本のように、インフレ期待が他のどの先進国と比べても不安定な場合はなおさらそうだろう。それでも「金融の安定」は今年末から来年にかけて金融政策の方向性を左右する重要なテーマの1つとなりそうだ。

*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントなどを経て2016年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネジャーとしての経験を活かし、経済、金融市場、政治の分析に携わる。共著に「アベノミクスは進化する」(中央経済社)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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