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コラム:トランプ相場の賞味期限と円安余地=鈴木健吾氏
2016年11月17日 / 09:01 / 1年後

コラム:トランプ相場の賞味期限と円安余地=鈴木健吾氏

[東京 17日] - 正直、その奔放な言動と過激な政策などから共和党ドナルド・トランプ候補が当選した場合には金融市場のリスクオフ反応を予想していた。しかしこれまでのところ、トランプ氏が過激な政策の微修正や大統領職に真摯に向き合う姿勢を示していることで、期待がリスクに対する警戒感を上回る状況となっているようだ。

大統領選後1週間の値動きにはさすがに過熱感が強いものの、市場は金利上昇、株高、ドル高で反応し、ドル円は1ドル=110円を目指す動きを見せている。

筆者はこれまで一貫して、1)リスクの後退、2)テクニカル的な過熱感、3)ファンダメンタルズの見直し、の3つを理由に年末にかけて105円から110円程度の水準へ上昇する展開を予想してきた。今回の大統領選の結果そのものは想定外だったものの、市場がこれをリスク後退と認識したことで、ドル円の動きとしてはおおむね予想通りの展開となっている。年末にかけての予想がほぼ現実化したなか、視線をその先、来年前半にかけての相場に移していきたい。

<ドル押し上げ要因を打ち消す要注意リスク>

相場の方向には上昇と下降、そして横ばいの3つがあるが、基本的に来年半ばにかけては、横ばい・もみ合い・レンジ相場といった展開を想定している。この見通しについても「リスク」「テクニカル」「ファンダメンタルズ」が重要だ。

原油価格の急落や中国経済の急減速観測など、今年前半にかけて先鋭化したいくつかのリスクが緩和されたことがリスク回避の円高圧力を和らげ、ドル円上昇の1つの要因になったと考えているが、来年前半にかけてはまだ警戒すべきリスクがくすぶっている。

例えば、11月30日に予定される石油輸出国機構(OPEC)の総会で原油減産の話し合いが決裂するリスクがある。昨年も年末のOPECでの減産合意見送りをきっかけに原油価格が急落した経緯は記憶に新しい。

12月4日にはイタリアで憲法改正に関する国民投票が行われる。レンツィ首相はこれに政治生命をかけるかのような発言しており、否決された場合には首相辞任や解散総選挙の可能性が視野に入る。この場合、反欧州連合(EU)を掲げる政党の躍進などを含め政局の不透明感が高まるだろう。また、同日にはオーストリア大統領選挙も実施される。ここでも反EUを掲げる極右政党が勝利する可能性が指摘される。

12月14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げが行われると見ているが、万が一、見送られればドル円の急落を誘うだろう。加えて来年序盤にかけて警戒が必要なのがトランプ氏の言動と英国のEU離脱問題だ。

前述の通り、大統領選後、トランプ氏が奔放な言動を封印していることが好感されているが、「選挙戦で見せた奔放な姿こそが本性ではないか」との懸念が常に脳裏をよぎる。来年序盤にかけて閣僚人事決定や就任式、一般教書演説などの重要イベントが控えるが、現状、期待で大きくリスクオンに振れた分、その言動次第では大きく巻き戻される可能性には警戒が必要だ。

また、英国のEU離脱も要注意だ。メイ首相は来年3月までにEUに対して離脱を通知するとしたが、高等法院は11月、離脱の通知には議会の承認が必要との判決を行い、英国政府が最高裁に上訴している。この判決が1月にも出る予定だ。

議会承認が必要となれば、政府が経済的な損失を度外視してEU離脱に突き進む「ハードブレグジット」の可能性が低下する。他方、承認必要なしということになれば拙速な離脱に対する警戒感が高まるだろう。

後退していくリスクがドル円の押し上げ要因となる一方、このような要注意リスクが頭を押さえ、結果としてドル円の上下の方向性は限定的となるだろう。

<1ドル102―112円のレンジ相場へ>

テクニカル的な動きに関しては先月のコラムでも言及したが、2012年以降の値動きを振り返ると、半年以上にわたって値幅20円以上もの一方的なトレンドが続いた場合、その後、半年程度は横ばいの動きが見られている。

短期間の大幅な為替相場の変動を実体経済が織り込み、消化するために相応の時間がかかるためではないかと考えているが、今回も昨年末から約24円もの円高を実体経済が消化するなかで、ドル円相場は来年序盤にかけて、もみ合い・横ばいといった状況になるのではないか。

ファンダメンタルズ面もドル円の方向感を醸し出すには決め手に欠きそうだ。米国では緩やかな景気回復が継続しているが、今後は景気回復局面も後半戦入りが明らかになっていくだろう。米連邦準備理事会(FRB)も、利上げを模索しつつも非常に緩やかなペースで進めるとのスタンスは崩すまい。

トランプ氏の政策も、国内産業を重視する姿勢がドル安要因である反面、米企業に海外からの資金回帰を促す税制の導入などはドル高要因であり、ドル円の方向に与える影響についてはすぐには判断が難しいだろう。

日本サイドにおいても、円高要因とされる経常収支の増加がじわりと継続している一方で、対外証券投資による円安圧力も強まっている。日銀は9月の金融政策枠組み変更後、持久戦の構えを見せており、必要ならば躊躇(ちゅうちょ)しないとしつつも、目先、追加緩和に対しては腰が重いだろう。

このようにリスク動向、テクニカル、ファンダメンタルズなどからドル円相場は来年半ばにかけて横ばい・もみ合いの展開を想定している。具体的には1ドル=106―107円近辺を中心に、102―112円程度のレンジ相場となるのではないか。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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