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コラム:ドル円こう着招く欧州リスクと米国期待=鈴木健吾氏
2016年12月13日 / 08:02 / 1年前

コラム:ドル円こう着招く欧州リスクと米国期待=鈴木健吾氏

[東京 13日] - 米大統領選挙でドナルド・トランプ氏の優勢が伝えられた11月9日、ドル円は101.19円の安値をつけ、1カ月後の12月9日には115.37円まで上昇。22営業日(日米祝日含む)で実に14円を超える値動きを示現した。

筆者は約10年間にわたり為替のプロップディーラーをしていたため、つい値幅を意識してしまうのだが、正直、1カ月でここまでの動きはほとんど記憶にない。実際に2000年以降のドル円相場を調べてみたところ、今回と同程度の期間で同等以上の値幅が発生したのは2008年9月後半から10月にかけて、つまりリーマン・ショック直後だけだった。

短期間にこれだけ急激な値動きを示すには、ドルと円、両方の動きが組み合わさらないと難しい。例えば、今年前半のドル円相場は1月の121円台から6月の99円台まで半年で約22円も動いたが、この間のドルと円の動きを確認すると、ドルインデックスは横ばい、円インデックスは約2割の円高となっており、値動きの主語は「円高」だったことが分かる。

貿易収支の黒字転換や日銀緩和に対する限界論などもあろうが、大きく動く場面では「原油価格下落」「中国経済への懸念」「米景気腰折れ懸念」「英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)」といったリスク要因がリスク回避の円高をもたらす構図が見られてきた。

今回、トランプ次期米大統領の政策に対する期待が素直な「ドル高」につながった上、その期待が世界的な株高をもたらし、楽観ムードがリスクオンの「円売り」にもつながっている。石油輸出国機構(OPEC)が8年ぶりの原油減産合意に踏み切ったことや中国経済に対する懸念の後退も楽観ムードの背景としてあるだろう。

これらによる全般的なドルの上昇と円の下落が組み合わさった結果、ドル円はリーマンショック級の値幅を伴った値動きを示現している状況にある。

<ドルの下値を支える「トランプ期待」>

このドル円の上昇傾向が来年序盤も続くかに関しては、やはりドル高をもたらした「トランプ期待」の継続有無と、円高の鍵を握るリスク要因の見極めが重要になると見られる。

トランプ米次期大統領については、その言動と具体的な政策に注目が集まるだろう。大統領選での勝利以降、トランプ氏は過激な言動を封印し、真摯な姿勢で大統領職に臨む姿勢を示すとともに現実路線に舵を切っていることが市場に好感されている。

過激な言動はあくまで選挙対策用の仮の姿との見方もあるが、一方であの過激な言動こそが本来の姿ではないかとの懸念も脳裏をよぎる。直近では南シナ海問題などにおいて中国に対する厳しい表現も見られるなか、過激な言動が再び強まれば、政策に対する信用も低下しかねない。

トランプ新大統領の政策は1月20日に予定される就任演説に加え、1月末から2月中にかけての三大教書(一般教書、予算教書、経済教書)などを通じて徐々に具体性を増すだろう。ハネムーン期間と呼ばれる就任後の最初の100日間に、選挙中に公約した政策などについて立法化を目指すと予想される。

目玉となる大型減税やインフラ投資、財政出動の規模感、加えて為替市場で注目度の高いリパトリエーション減税(本国投資法)などが徐々に具体化する。全般的に、大胆な政策に対する期待はドルの下値を支え続けると考える。

ただ、すでに期待で上昇していることに加え、政策の実効性や有効性を見極めたいとの思惑が上値を押さえる要因になると予想されることから、大統領選後に見られたペースでのドル高は難しいだろう。

<リスク要因は中国より欧州>

リスク要因についてはどうだろうか。中国では2017年3月に全国人民代表大会(全人代)が予定されるが、2017年後半に共産党大会を控える中、すでに2016年11月29日の国務院常務会議や12月9日の中央政治局会議で、2016年からスタートした経済5カ年計画に沿った政策総動員での景気対策継続が示されており、リスクは限定的だろう。

足元では人民元の下落とともに外貨準備が急減しており、これが資本逃避を引き起こす可能性には一定の注意が必要だが、急減したといっても外貨準備の規模は世界ダントツ1位で2位日本の3倍前後となる300兆円規模だ。市場の動揺も限定的と見ている。商品市況に関しても鉄鉱石や銅相場の上昇基調に加え、12月の減産合意を受けた原油価格の堅調さもあり、2017年前半に市場のリスク要因とはならないだろう。

警戒が必要なリスクとして、欧州の2つのリスク、すなわち「ブレグジット」と「ポピュリズム伝播」に注目している。英国のテリーザ・メイ首相はEUに対する離脱の申告を2017年3月末までに行うとしている一方で、その方針はあいまいなままだ。

経済よりも難民問題を優先する「ハードブレグジット(強硬な離脱)」となるか、単一市場へのアクセスを優先する「ソフトブレグジット(穏健な離脱)」となるか、その道筋にはなお不透明感が残る。ハードブレグジットに加えてスコットランドが英国からの独立を目指すといった最悪のシナリオもくすぶる中、2017年3月にかけてのリスクとなろう。

世界的に反グローバリズムやポピュリズムの広がりが指摘されているが、2017年の欧州では選挙が多い。思えば2015年、ギリシャがEUの金融支援受け入れをめぐる国民投票で「ノー」を突きつけた時点ですでにこの流れが始まっていたのかもしれない。

今年のブレグジットやトランプ氏勝利もこの流れの中にあり、12月4日にはイタリアの国民投票で憲法改正案が否決された。イタリアでは次期首相が決まることで目先の総選挙は避けられる見通しだが、2017年の終盤以降、総選挙の可能性が残る。その場合、反EUを掲げる「五つ星運動」が第1党となる可能性が高い。

3月15日までに予定されるオランダの総選挙でも反EUの極右政党、自由党が躍進する可能性が指摘されている。4月から5月に行われるフランス大統領選挙でも反EUの極右政党、国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が有力候補となっており、秋にはドイツの連邦議会選挙もある。ドイツ、フランス、イタリア、オランダといったユーロ圏の中核4カ国で反EUの流れが強まればユーロ崩壊といった話が再燃しかねない。

<ドル円は110―120円のレンジ相場へ>

このように欧州の政治に対して一定の警戒が必要であると考えているものの、金融市場全般的には今のところ、今年前半のような悲壮感はない。欧州にしても経済指標の改善を背景に量的緩和縮小の可能性が指摘されるなど、最悪期は脱した可能性もある。原油価格や中国経済など後退したリスクを含め、リスク回避の円買いが進む状況とはなりにくいというのがメインシナリオだ。

結果、2017年半ばにかけてはトランプ次期米大統領の政策や欧州の選挙などをにらみつつ、ドル円は現状の1ドル=115円近辺を中心としたもみあいとなる展開を予想(トランプ氏の勝利と政策を反映して上方修正済み)している。レンジとしては110円から120円程度の値動きとなるのではないか。

メインシナリオではないが1ドル=110円を割り込むとすれば欧州のリスクが先鋭化する場合、一方で120円を超えるとすれば欧州のリスクが限定的に終わる中、世界的な景気回復傾向の強まりやトランプ次期米大統領の政策に対する期待が予想以上に盛り上がった場合などとなろう。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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