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コラム:ドル120円予想を支える2つの根拠=鈴木健吾氏
2017年2月17日 / 05:28 / 9ヶ月後

コラム:ドル120円予想を支える2つの根拠=鈴木健吾氏

[東京 17日] - 1月20日のトランプ米大統領誕生からほぼ1カ月が経った。この間、メキシコ国境の壁建設やイスラム圏7カ国からの入国禁止措置など過激な政策に加え保護主義的な発言もあり、円高リスクが意識される場面もあったが、日米首脳会談やイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言などを経て、そのリスクは後退したと感じている。

これまで示したシナリオ通り、年後半に1ドル=120円超えに向かう下地が徐々に整いつつあるようだ。

トランプ大統領の政策に対する評価はなお割れている。過激な政策に対して、戦略性がなく発言も場当たり的で、今後の政策運営も期待できないとのネガティブな評価もあるが、メキシコの壁もイスラム教徒への発言も昨年の選挙期間中からのことであり、公約を実行に移しているだけとも言える。今後は減税やインフラ投資など、景気刺激策に関する公約も有言実行の期待が持てる、とのポジティブな見方を筆者は抱いている。

予算措置が必要な政策は議会の立法が必要なものが多く、実行の順序が後回しになり、環太平洋連携協定(TPP)離脱といった大統領令ですぐに実行できるものが優先されているが、トランプ大統領が9日に「向こう2、3週間後に税に関する驚くべき提案を行う」と発言した通り、おそらく減税策などの景気刺激策が今後徐々に姿を現すだろう。

<日銀の手足が縛られる懸念は後退>

日米首脳会合の成果も大きい。トランプ大統領はオーストラリアのターンブル首相との電話会談で、難民・移民に関する話題で衝突し会談を途中で切り上げたとされるが、安倍晋三首相との会談では衝突する可能性のある貿易や為替に関する話題にほとんど触れず、友好関係を強くアピールした。

国防では、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを確認したうえ、在日米軍の受け入れに対する謝意まで述べた。これには2つの大きな意味がある。トランプ政権が中国に対する強硬姿勢をとる中、アジアの同盟国としての日本の重要性が確認されたこと。もう1つは誤った認識をあっさりと修正したことだ。

選挙期間中は「米国は日本を守っているが、日本は公平な負担をしていない」などと発言していた。日本との貿易に関してもトランプ大統領は「日本が通貨安攻勢をかけ、米国の製造業に不公平な競争を強いている」という意味合いの発言をしているが、今回の会談で日本サイドは、ここ5年ほど為替介入をしておらず、日本企業は米国で多くの雇用を行い、直接投資も英国に次いで2位、1980年代の貿易摩擦があった頃とは大きく違うことを説明しただろう。

巨額の対中貿易赤字などを意識してトランプ大統領の保護主義的な発言が大きく変わることはないだろうが、日本を名指しした批判は減る可能性が高い。また、会談後に公表された共同声明においても、「国内及び世界の経済需要を強化するために相互補完的な財政、金融及び

構造政策という3本の矢のアプローチを用いていくとのコミットメントを再確認」している。これにより通貨安誘導という批判によって日本の金融政策の手足が縛られる懸念は後退した。

さらに、日米首脳会談後、空席だった財務長官に下馬評通りムニューシン氏の起用が決定している。事実上為替政策の責任者になるが、これまで「長期的にはドル高が重要」などと発言しており、保護主義的な側面からしか為替相場を見ないトランプ大統領とは一線を画す。

トランプ大統領の在日駐留米軍に関する発言が、おそらくは来日したマティス国防長官の説明で変わったと思われるのと同様に、金融のプロであるムニューシン財務長官の為替に対する認識が大統領の考えに影響を与える可能性も十分にあるだろう。

<年後半の120円超えシナリオを堅持>

トランプ政権の現実路線シフトに加え、今年のドル高見通しを支えるもう1つの要因がFRBの利上げ姿勢だ。これまでイエレンFRB議長が1月18日に講演、2月14日に議会証言を行ったが、基本ハト派とされる議長の発言からも利上げに対する前向きな姿勢が明らかになっている。

1月18日の講演では「2019年末までに政策金利が長期的に中立な3%に達するとの見通しを、FOMC(連邦公開市場委員会)メンバーの大部分が共有している」とした。現状0.50―0.75%の政策金利を2019年末に3%にするには、1回0.25%として9回の利上げが必要だ。これから3年間、単純平均で年3回ペースでの利上げ実施を「大半のメンバーがおおむね共有」していることになる。

また、今月14日の議会証言では次回の利上げが比較的近い可能性にも言及した。「あまりに長く緩和の解除を待ち過ぎることは賢明ではない」として「目先開催されるいくつかの会合(upcoming meetings)でさらなる金利の調整が適切になる可能性がある」とし、3月の利上げ実施の可能性を排除しなかった(筆者のメインシナリオは6月実施)。FRBは目先も、そしてその後3年間も、利上げに対する前向き姿勢を打ち出している。

今後、最大の注目はトランプ大統領の具体的な景気刺激策となろう。米国企業に海外利益の本国還流(リパトリエーション)を促す優遇税制措置の有無をはじめ減税の規模や種類、インフラ投資・財政出動の具体策や規模などがどのようなものになるかが大きな鍵となる。

そもそも、トランプ大統領の景気刺激策による景気拡大や物価上昇期待が、株や金利、ドルの上昇やFRBの利上げペース加速期待を後押ししているわけで、その政策がこれまで以上に「過激」なものとなるかどうかが、今年のドル円相場の方向性を決めると言っても過言ではない。

現状、ドル円相場は年初の118円台から一時111円台まで下落する動きを見せているが、前回のコラムで言及した通り、春先に向けてはおよそ110円―117円程度のレンジを中心に調整的な動きを予想している。

その後は徐々に明らかになるトランプ政権の景気刺激策やFRBの利上げペース、欧州での選挙結果を確認しつつ、年後半には1ドル=120円を超える展開を引き続きメインシナリオにしている。現状、その下地が整いつつあるのではないか。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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