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コラム:米保護主義をしのぐドル高の地力=鈴木健吾氏
2017年3月13日 / 06:48 / 8ヶ月後

コラム:米保護主義をしのぐドル高の地力=鈴木健吾氏

[東京 13日] - 2017年に入って以降、円インデックスは横ばいの一方でドルインデックスは上下に振れており、ドル円相場はドルが動かす状況が続いている。

14―15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ実施を織り込みつつ、ドルは3月序盤にかけて上昇した。ただ、ドル円での1ドル=115円やユーロドルでの1ユーロ=1.05ドルといった心理的節目は明確に抜け切れていない。こうした現状は、米利上げに対する期待と米通商政策に対する懸念がきっ抗している状況を象徴的に表しているかのようだ。

ドルの先行き予想は、この懸念と期待のベクトルのどちらを重視するかで大きく変わってくる。ドル弱気派がその論拠に挙げることが多いのはトランプ米大統領の通商政策だ。その保護主義的な通商政策においてドル高は容認できず、結局はドル安政策を強く押し進めざるを得ないとされる。これに対して、筆者を含むドル強気派の主張は主にトランプ政権の景気刺激策と米連邦準備理事会(FRB)の利上げ政策がドルを押し上げざるを得ないというものである。

確かに、通商政策については、1日に提出された米通商代表部(USTR)の報告書が驚くほどタカ派的だったことから警戒感が増している。同報告書を読むと、米国は今後、2カ国間での自由貿易協定(FTA)を軸に貿易交渉を行い、米国にとって公正な貿易条件獲得のためには相手国への制裁などの圧力を発動させることもあるという。もしこの圧力が世界貿易機関(WTO)の協定違反とされても米国は必ずしもWTOに従う必要はなく、逆に相手国の貿易が公正であるかはWTOではなく米国が判断することも示唆している。かなり前のめりだ。

これまでに示されている米国の具体的な通商政策は、環太平洋連携協定(TPP)からの撤退と北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉ぐらいである。NAFTAについてはロス商務長官が6月頃に向けてメキシコやカナダとの再交渉を開始する意向を示しており、年半ばにかけて注目を集めそうだ。

ドル円にとっては4月から始まる麻生太郎副総理とペンス副大統領の経済対話が事実上、日米2カ国間交渉のスタートとなる。米国は8日、WTOに日本の自動車・農産物の市場開放を求める意見書を提出しており、駆け引きはすでに始まっている状況だ。

<通貨安批判は「けん制球」>

しかし、トランプ大統領自身は為替政策に対する強い意向を実は持っていないのではないかと筆者は考えている。トランプ大統領は貿易赤字削減を志向しており、そのためにはドル安が合理的ではあるが、そもそもの基本的なスタンスは「アメリカ・ファースト(米国第一)」「バイアメリカン、ハイヤーアメリカン(米国製品を買い、米国人を雇う)」だ。

「ラストベルト(さびついた工業地帯)」や「忘れられた人々」の雇用を取り戻すために、米国の工場を閉鎖して海外にアウトソーシングする米国企業を批判し、メキシコで工場建設を予定しているトヨタ自動車に対し「米国内に工場を作れ、さもなくば高い関税を払え」とツイッター上で警告したことは記憶に新しい。

トランプ大統領にとって貿易赤字が悪なのは、おそらく輸入増加によって競合製品が米国製品を駆逐し、輸出減少によって国内産業が縮小すると考えているからだろう。これを変えるために、まず個別のFTA交渉を通じて相手国の輸入障壁を取り払い、米国の製品や農産品の輸入を増加させる。そして、国境調整税の導入も含めて対米輸出の自主規制や米国への直接投資・生産移転を勝ち取るという目算なのではないか。

一時的な通貨安によって貿易赤字が縮小しても非関税障壁などの構造問題が解決できなければ「バイアメリカン、ハイヤーアメリカン」までつながらない。そもそも目的が米国の産業を活性化し雇用を促すことであるから、制度や税制、協定などによる仕組みの変更と構築が重要であって、ドル安といった相場の変動による貿易赤字額の縮小はさほど重要ではないと思われる。

相手国の通貨安誘導などに対する強い批判や攻撃的な発言、WTOへの意見書提出などは、その後の交渉で相手国の輸入障壁を取り去り、米国への投資を勝ち取るための「けん制球」にすぎないと筆者は考えている。

<ドル円の上昇基調は春以降鮮明に>

日本も米国との2カ国間交渉が始まれば一定の譲歩を強いられるだろう。それは、牛肉の関税かもしれないし自動車の輸出数量かもしれない。しかし、金融政策や円安そのものに対する攻撃や影響は、あっても限定的にとどまり、結局は景気刺激策や利上げペース加速期待によるドル高にかき消されてしまうのではないか。

そもそもトランプ政権の景気刺激策はドル高要因として機能するだろう。一定程度はすでに織り込み済みだったとしても、米国経済とFRBの利上げ政策の背中を押す要因となるからだ。

減税案を含む財政政策は、基本的に米国経済を悪化させるものではない。どの程度刺激するのかという「程度の問題」で、少なくとも経済指標は刺激策実施前よりも良好になり、物価も上昇、FRBは基本的には利上げペースを加速させることになるだろう。

織り込み済みとの反応もあり得なくもないが、刺激策の内容が公表され、それが経済に効果を及ぼすまで、1年程度の時間軸の中で景気回復や利上げペース加速が確認されるとみられ、中長期的なドルにとってのリスクはアップサイドリスクの方が大きいことから、結果としてドル円を上昇させる原動力になると考えている。

筆者はこれまで、9月末にかけての予想レンジを1ドル=110―125円とし、「春先にかけては、予想レンジの下半分である1ドル=110―117円、その後はレンジ上半分への上昇」を予想してきた。現状においては、予想よりもトランプ大統領の景気刺激策発表が遅れている印象はあるが、FRBの利上げペースは予想以上に積極的なものになり、これを打ち消している。

上記の通り、米国の通商政策が及ぼすドル安圧力は限定的なものになると考えており、引き続き春以降、ドルの上昇基調がより鮮明になる展開を想定している。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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